第48話カミングアウト
「詳しく聞きたい」
そう言い放ったフィリムさんは睨む、まではいかずともその双眸をスッと細めて真剣な視線を私の仮面にそそぐ。フィリムさんも何も私たちを信用していないとか、怪しんでいるとかではない。たしかめたいのだろう。仲間だと、認めてくれているからこそ。
「ア、アルメお姉ちゃん……」
ミスラちゃんが戸惑ったような声を出す。自分の失言でこの追及を生んでしまったことを自覚しているのだろう。
「そうね。ミスラちゃん、エスちゃん、リルフちゃん。……いい?」
ここで真実を全て話してしまって竜の女の子たち三人は構わないのか。その点だけを確認する。もう私自身の腹は決まっているし、覚悟はできている。この場で自分自身のことも含めてフィリムさんに話すこともそれがギルドマスターのイルフィさんに伝わることも構わないと思っている。元々、なるべく人に広めたくないと思いつつも、それをすることが絶対に厳禁だとまでは思っていなかった。少なくともギルド『ドラゴン・ファング』の中でフィリムさんとイルフィさんは信頼できる存在だ。ただ、話すタイミングを完全に逃してしまっているのとそれなら無理してこちらから話すようなことではないと思っていたからだ。
とはいえ、私が先代の聖女アルメティニスであることを一目で見抜いたギルドマスターのイルフィさんなら語らずとも竜の女の子三人の正体なども分かっているかもしれないけれど。
「……ミスラは構わない」
「かくしごとをしているのはこころぐるしかった」
「わたしも構いませんわ、アルメ様。フィリム様にお話ししてくださって」
竜の子三人は異口同音にそう言う。少し落ち込んでいる様子なのは秘密がバレること自体を恐れているのではなく、私と同様、信頼してくれているフィリムさんに隠し事をしていた後ろめたさ。それを話すことでフィリムさんから悪い感情を持たれるのではないかという子供らしい恐れだろう。そうだ。私だってまだまだ子供だ。ただの15歳の若造だ。隠し事をしていたと信頼できる相手に知られて、嫌いになられるのではという恐れは心の中にある。フィリムさんはそんな器量の小さい人物ではないと思ってはいるが、自分以外の人間の心の中なんて完全に把握できる人間はいない。誰しもこんなことを話したら嫌われるのでは、という思いはあるだろう。情けない元・聖女だ。仮にも聖女として過ごしてきて他者の感情を読み取ることには普通以上には長けているという自覚は思い上がりに過ぎなかったのかもしれない。
私は仮面を外して、素顔を露わにする。フィリムさんは元々、私の素顔を知っているが、真面目な話をするのに仮面を付けて表情を隠しながらでは無礼に過ぎる。
元々、真面目な表情をしていたフィリムさんだが、仮面を外した私の顔を見て、さらに表情を引き締める。
「お話します。フィリムさん。それに、ミスラちゃん、エスちゃん、リルフちゃん。貴方たちにも」
「え?」
「?」
「わたしたちにも?」
ここで自分たちに話が振られるとは思っていなかったのだろう。竜の子たちは戸惑った声を出す。
そうだ。私はフィリムさんだけでなくこの子たちにも隠し事をしている。先代の聖女・アルメティニスであることを未だに隠し通している。年貢の納め時、なんて大袈裟な話ではないが、今がその時なのだろう、と思える。だから、しっかり話す。仲間として信頼しているからこそ、これ以上、隠し事をしておくことはできない。
「まずは、私の正体に関してです。これはミスラちゃんたちにも隠していたことね……ごめんなさい」
意外な話、と竜の子たちは捉えたようだ。三人の表情がポカンとしたものになるが、すぐに元の顔に戻った。
「べ、別にミスラたちは気にしないぞ!」
「まぁ、アルメが何か隠しているのもわかっていた」
「今更のことですね。多少のことでアルメ様への信頼が揺るぐとお思いですか?」
三人の言葉がじんわりと胸に染みる。あたたかい感情が伝播して、こちらまであたたかい思いになる。
まぁ、元・聖女なんてことは多少のことではない気もするけれど。
「ふっ、アルメの正体か。ただ者ではないのは分かっていたがな。実は遥か古代から生き続けている存在とか、か? 古に失われた召喚術が使える理由もそれなら納得できるんだが」
「すみません、フィリムさん。流石にそこまで大層な身分ではないです……」
冗談めかして言ってくるフィリムさんにホッとしつつも、流石にそこまで凄い話ではない。フィリムさんもやはり冗談だったのだろう。ははは、と軽快に笑った。
「私の正体。私、アルメは……先代の聖女・アルメティニスなんです」
そして私はついにこのカミングアウトをするのであった。
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