第45話未知なる神秘の扉を開く時
「さて、この状況を解決するための手段としてはさっき言ったように聖女の奇跡魔法くらいしか思いつかないが……」
老婦人を始め、案内してくれた村人の皆さんには一旦、帰ってもらい、ひどい有様になっている農業地帯にいるのが、私たちだけになるとフィリムさんが腕を組んで難しそうに言った。
「アルメ」
「分かっています。私の召喚術の力も解決できるだけの可能性を秘めている。そうですね」
「ああ」
フィリムさんに視線を向けられ、彼女の言葉に先回りして私は口を開く。
この依頼の話を持ちかけられた最初から言われていたことだ。私の召喚術の力が必要となる。私の召喚術の力ならあるいは解決できる可能性を秘めている。
「アルメお姉ちゃんならきっとできる!」
「わたしたちにはてだしふかのう」
「不甲斐ないことですけどね……」
私に励ましの言葉を送るミスラちゃんの隣で淡々とエスちゃんが呟き、その隣でリルフちゃんが悔しげに声をもらす。
ミスラちゃんは分からないが、エスちゃんとリルフちゃんは自らの力不足を気に病んでいるようだ。でも、そんなことを気にする必要はない。彼女たちには私にはない力がある。彼女たちやフィリムさんのように魔物たち相手に自らの力で戦い蹴散らすなんて真似は私にはできない。その分の埋め合わせくらいはしないといけない。フィリムさんや竜の女の子たち三人ができないのならそれは私がカバーするのだ。
仮面の救世主。そんな二つ名で呼ばれるようになったからにはそれ相応の働きはしてみせなければならない。
「この状況をもたらしたのはやはり何らかの呪いでしょうか」
「素人考えではそれくらいしか思いつかないな。だとすればこれもやはり聖女の加護がなくなったせいか?」
「それは……どうでしょうね……」
私を追放し、ミスティアが聖女になってから少なくとも魔物たちは人里を襲うようになった。新聖女お披露目の会でミスティアは奇跡魔法を使ってみせたから彼女が完全に聖女の奇跡の力を持っていないワケではないだろうが、私の代までの聖女がいたことで防げていた災いを防げていないのは事実。
このケープの村に起こった事態もそのせいかもしれない。
「アルメ様。この謎の枯れた作物が呪いの所為だとすれば解決のためには大自然の精霊の召喚が必要と愚考いたしますが……」
「精霊……。やはりそうなってしまうのね……」
リルフちゃんが進言してくれたことに私は頷きつつ、不安を覚える。
召喚術の力は奇跡魔法の力を失った私が得た得難い力。古に失われた伝説の力だ。
その力でこれまで様々な苦難を乗り越えてきた。が、それらは全て力任せだ。
絶大な戦闘力を誇る幻獣たちを呼び出し、その力で魔物を討伐した。だから、私は救世主なんて呼ばれている。
しかし、精霊の召喚ともなるとこれまでに経験したこともない。
「私にできるかどうかが問題ね……」
「アルメ。げんりてきにはせいれいの召喚も幻獣の召喚とかわらない」
情けなく不安をもらしてしまった私を勇気付けるようにエスちゃんが声をかけてくれる。それは分かっている。分かっているのだが。
「そうだな。アルメは既に幻想の世界に住まう幻獣を何度も呼び出して力を貸してもらっている。そう難しいことではないと思うぞ」
フィリムさんの表情には笑みすら浮かんでいた。そうですね。幻獣を呼ぶのも精霊を呼ぶのも、普通に考えればどちらも夢物語なのは同じ。その片方を実現しているだけの力なのだから、もう片方もできてなんらおかしくない。
なら、やるしかない。
「やってみます」
短く私は答えると召喚術の行使のための精神の集中に入った。最初にミスラちゃんを助けた時などは咄嗟に使えたが、あれは火事場の馬鹿力のようなもの。普段から咄嗟に使えるものではない。召喚術という力は。それが私の未熟さなのかは分からないけど。
精神集中に入った私の邪魔をしないようにフィリムさんと竜の女の子たちは距離を取ってくれて、遠巻きに見守る。ありがたい配慮だ。召喚術の妨害をしないようにしてくれることも、それでいて、私を見守ってくれることも。
精神論で全てが叶うワケではないが、少し足りない最後の一押しをするくらいの力はある。みんなが見守ってくれることで私の心はその力を発揮できる。
「……こことは異なる幻の世界。そこに住まう精霊よ。どうか……私の声に応えてください……!」
精神の集中の感覚は聖女であった頃、奇跡魔法を使う時と同じ。あの時の経験は決して無駄になってはいない。
召喚術の力も実証済み。この世界と幻の世界を繋ぐ力はたしかにある。
後は幻獣よりもさらに崇高なる精神を持つ精霊が私を認めて力を貸してくれるか。それに足りうるだけの精神が私にあるかどうか、だ。
私の体が光を帯びる。先のギルド、グローリー・ガーディアンズとの決闘で決闘相手の最強剣士アレクセイが私の呼び出したペガサスさんの力を封じる何かを行った時、その封印を払うための力を発した時と似ている。
「…………!」
てごたえは、感じた。
奇跡魔法を使った時と似た感覚。この世の触れられざる神秘の扉。そこに手が届いた。その扉を叩いた。その扉を開いた。そんな、感覚が。
「これは……!」
黙して状況を見守っていたフィリムさんが思わず声をもらす。竜の女の子三人も騒ぎ出す。
光が辺りに満ちていき、その末に。
光輝の存在が君臨した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます