第32話お風呂場騒動・終
「気持ちいいか? アルメお姉ちゃん?」
「ええ……気持ちいいわ。そのまま擦って」
「分かった!」
ミスラちゃんがコスコスと肌を擦る。敏感な私の肌はそれに反応してしまう。
「あっ、気持ちいいわ、ミスラちゃん」
「お姉ちゃんが気持ちいいのならなによりだ!」
「ミスラそろそろ変わって」
「エス、気が早いぞ」
「長々とやりすぎ」
エスちゃんが怒ったような声を出す。ミスラちゃんから役目を奪い取りたいようだ。
私も当初はどうかと思っていたがこれは想像以上に気持ちいい。思わず顔も赤らむ。
「わたしがミスラよりきもちよくしてあげる」
ミスラちゃんからエスちゃんに交代したようです。エスちゃんはそれを私の肌に押し付けると念入りに擦り出しました。
「気持ちいいわ、エスちゃん」
「ふふふ……」
「ちょっとエス! イヤらしいわよ!」
リルフちゃんがエスちゃんに注意するが、なかなか気持ち良いので見逃してはくれないだろうか。
「次はわたしの番です。アルメ様」
最後はリルフちゃんか。三人三色。竜の女の子も三人いれば手さばきもそれぞれ。ミスラちゃんの無造作な手ぶりやエルちゃんの素っ気ない手ぶりもよかったが、リルフちゃんはどうだろう。
「いきます。アルメ様」
ああ、丁寧。とても丁寧に擦ってくる。これはなかなかいいものです。
「はい。お背中、流し終わりました。アルメ様」
「アルメ、綺麗になった」
「わたしたちのおかげだな!」
「ありがとう、三人共」
振り返って私は三人に礼を言う。三人がかりで私の背中を流してくれてとても気持ち良かった。
あれ? 他のことなんてしていませんよ? 私たちは。単に体を洗った私の背中を三人にタオルで擦って桶のお湯で流してもらっただけです。
「それじゃあ、三人にかけ湯してあげるわ」
私は桶を持つとそれを湯舟に浸けるとお湯をすくう。
「それ」
「うひゃあ! 気持ちいい!」
ミスラちゃんの小柄な裸身にお湯を浴びせる。やはり張りのいいお肌をしているのだろう。お湯がぴちぴちと弾けているのが人間の私の目でも分かる。
「次はエスちゃんね」
「たのしみ」
再びお湯をすくい、かけてあげる。こちらの肌もやはりお湯を弾く。若いっていいなぁ、と15の私が年寄り臭いことを思ってしまう。……ああ、三人は幼く見えるけれど実年齢は私より遥かに上なんでしたっけ……。ですが、体は幼い女の子そのものです。
「最後にリルフちゃん」
「まちわびました、アルメ様」
リルフちゃんにもかけ湯をする。やはり先の二人に続き、幼くすべすべお肌がお湯を弾く。
「気持ちいいです、アルメ様」
「それはよかった」
こうして私たちは紆余曲折(普通にお風呂に入っているのに何故だろう)の末に全員がかけ湯を終えた。
「それじゃあ、やっと湯舟に浸かれるな! 長かった!」
「本当ね。ミスラちゃん。なんだったのかしら」
「こまかいことはきにしない」
「そうですね、エスの言う通りです。アルメ様」
なんだか湯舟に体を浸けてゆっくりするというお風呂の当然の行為をするまで随分回り道をしてしまった気がします。なんてなんて遠い、回り道。ですが、一番の近道は遠回りだった、ということにしましょう。
が、ここで新たな問題が。
「全員は、入れませんね」
リルフちゃんが端的に問題点を口にしてくれる。
そう先も言ったが、このお風呂場は温泉宿でもなく、何の観光地でもない、普通の村にある宿のお風呂場に過ぎない。そして宿が超豪華な宿というワケでもない。
なので、お風呂が特大サイズということはないのだ。さらに言えば、おそらく一人ずつ入ることを想定している。洗い場のスペースからもそれは分かる。
そこに子供とはいえ、女の子三人を連れて一緒に入ったのは私と一緒にお風呂に入りたいという三人の希望と約束を叶えたからだが、流石に四人で湯舟に浸かるのは無理がある。
「順番に入りましょうか。三人なら体が小さいから一緒に入れると思うから、私のことは気にせず三人で堪能して。私は後で……」
「それはイヤだ!」
「ぜったいイヤ」
「ダメです、アルメ様」
私の提案は三人がかりで却下されてしまった。ど、どうして、そんなに必死になるのでしょう? 分かりません。いい案だと思ったのですが。仲の良い女の子三人だけでお風呂を楽しみ、私はその後で一人で入る。ダメなのでしょうか?
「アルメお姉ちゃんと一緒に入る!」
「じゃないとお風呂なんて意味ない」
「アルメ様、行きましょう」
「え、えーっと? そう言われても流石に四人で入るのは無理が……」
私は苦笑いしてやんわりと断ろうとするのだが、三人はこれだけは譲れないとばかりに私を見返す。
「不可能なんて言葉は竜らしくない」
「問題ない。行こう、アルメ」
「アルメ様。四人一緒です」
三人は決意の瞳でしっかりと前を見て言い放つ。そんな目をされたら私も。
「そ、そうね。やる前から諦めるなんて、冒険者失格かもね」
何かうまくのせられている気はするのだが、そんな言葉を返してしまう。
聖女の座を追放され、冒険者になった私だ。あらゆる場面で諦めてから挑むなどということをしてはいけないのかもしれない。
「じゃ、じゃあ、四人で入りましょう」
「ああ!」
「はだかのつきあい」
「アルメ様と一緒のお風呂ですね!」
だから何故、私なんかと共にお風呂に入ることを喜ぶのだろう、と不思議に思いつつも私たちは四人で入るには狭い湯舟に体を押し付け合って、入るのだった。
竜の女の子たちの肌はやっぱり気持ちがいいものですね、と思いつつ。
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