第27話山の主との遭遇

 山をだいぶ登ってきたが、魔物とは何度も遭遇していた。

 全てフィリムさんや竜の女の子三人が容易く片付けたのだが、あれだけの数の魔物がこんなに近くにひそんでいるなんて思わなかった。

 それをフィリムさんに告げると、


「それだけの魔物を抑え込んでいた先代までの聖女が凄かったということだろうな。今の聖女はその力はないようだが」


 先代までの聖女、つまり私を含む歴代の聖女たち。その力は魔物を封じ込めて人里を襲わないようにしていた。どういうワケが私を追放して聖女になったミスティアにその力はないようであるが。


「使えない聖女だなー。今の聖女は」


 話を聞いていたミスラが呆れたように言う。私から見ても国を守れない聖女はどうなのだろうと思ってしまう。


「でもその聖女の力が弱いおかげでわたしたちは全力を出せる」

「そこが複雑なところですね……」


 そう言うのはエスちゃんとリルフちゃんだ。彼女たちの言う通り、ミスティアの力が足りないおかげで竜である彼女らは全力の力を出せている。


「聖女の力が弱いから全力を出せる? どういうことだ?」


 フィリムさんがまたいぶかしむ目で竜の子たちを見る。慌てた様子で自らの失言に気付いた子供たちはなんでもない、というような態度を取る。

 うーん。やっぱりフィリムさんには秘密を打ち明けた方がいいかもしれません。フィリムさんでしたらあの子たちの正体が竜であると知ってもそのことを悪いことに利用することはないでしょうし。


「それよりどのあたりまで行くんですか?」


 誤魔化す意味も込めて私はフィリムさんに訊ねる。山の魔物を討伐して、村を守るための威嚇とする。その目的は分かっているが、だいたいどれくらいの魔物を討つのか。


「できればこの山の主を倒したい」

「主をですか!?」


 フィリムさんの言葉に思わず驚きの声を発してしまう。

 それは主を倒された魔物たちは大人しくなって人里まで下りてくることはなくなるだろうが、それにしても主とは。


「ま、まぁ、こちらにはサラマンダーさんがいますけど……」


 私たちについてきている私が呼んだ幻獣・サラマンダーさんをチラリと見る。応えるようにグルル、とサラマンダーさんは唸った。

 サラマンダーさんがいる限り、負けることはないだろう。それでも主を狙うとは。豪胆な考えだ。


「負ける心配のない戦いなら臆する必要はない。アルメにもそのくらいの度胸は身に着けてもらわないとな。ギルドに所属する冒険者になったのなら」

「そ、それはそうなんですが……私自身が戦うワケではありませんし……」


 そこが気になるところだ。あくまでも私の戦いは私が呼び出した幻獣さんに戦ってもらう戦いだ。私自身が剣を振るったり、魔法を放って戦うワケではない。

 これではいつまで経っても半人前なのではないか。そんな考えが脳裏をよぎる。


「アルメが戦うワケじゃなくてもアルメがいないとあの幻獣は従えれない。それはアルメの力」


 そんな私にエスちゃんが声をかけてくれる。そういうもの、なのでしょうか。


「そうです! アルメ様のお力ですよ」

「リルフちゃんも……」

「そうだな。ミスラもそう思う」

「ミスラちゃん……」


 みんなが私に声をかけてくれる。私なんかのために。奇跡魔法を失って追放された元・聖女の私なんかに。

 仮面の下で涙ぐみそうになってしまう。聖女の座から降ろされ、全てを失って追放された時には途方に暮れたものだが、こんなにも私のことを想ってくれる人たちとの縁に恵まれることができた。

 ならば、私も彼女たちを想い、自分にできることをするだけだ。

 決意も新たに山を登る。まだ最上部には遠いが……。


 ――ガオオオオン!


 魔物の叫び声が響き渡った。それもかなり大きい。これまで遭遇した魔物たちとは明らかに格が違うと分かる。まさか、この山の主?


「主、でしょうか……? ですがまだ山の中腹といったところですが」

「いや、アルメ。自分のなわばりに入り込まれて暴れられていれば主としても放ってはおけないだろう。こっちまで下りてきている可能性もある」

「ならば格好の的だな! アルメお姉ちゃん、フィリムお姉ちゃん!」


 フィリムさんの言う通りに主が根城を出て、侵入者の撃退に動くというのは私のイメージしていた魔物のボスとは少し異なるが、事実として主らしき魔物は迫っている。

 さらに、ミスラちゃんの言う通り、その通りならば、格好の的。獲物があちらからやって来てくれたのだ。

 こういうのを東方の国では鴨が葱を背負って来ると言うらしい。


「温存していたジョーカーを切る時がきたか」


 不敵な笑みでフィリムさんが言う。その視線は私、そして、サラマンダーさんに。


「フィリム。威嚇返しだ。サラマンダーに思いっ切り吼えさせろ」

「は、はいっ。サラマンダーさん、お願いします!」


 私の声を聞き、サラマンダーさんが先程の魔物の叫びより大きな声で咆哮する。ビリビリと空が振動していると錯覚するような雄々しく恐ろしい鳴き声だ。

 そして、サラマンダーさんの叫びに応えるかのように魔物の主が顔を出す。

 それは巨大な角の生えた悪魔型の魔物であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る