鷹野六十雄本部長
敷島皇国海軍航空本部本部長、鷹野六十雄少将。
海軍主流の砲術ながら航空機の先見性を見抜くと航空へ転身し、海軍の航空機導入を強力に推進。
軍縮条約による保有艦艇制限を利用し海軍航空の拡充を図っている海軍航空隊の重要人物だ。
現在は海軍航空の全てを統括する航空本部の責任者、本部長を務めている。
事実上の海軍航空隊トップと言える人物だ。
「で、何があった?」
答礼して尋ねてきた鷹野少将に勝士は事情を説明した。
「そうか、航空魚雷に付けるカバーか」
鷹野はしばし考え込むと主計科員に尋ねた。
「今、航空隊で用意できる現金はどれくらいだ?」
「はっ! お待ちくださいっ!」
主計科員が飛び出すとすぐに札束をいくつか持ってきた。
業者への支払いなどで主計科にはいくらか現金が用意されている。
有るところにはあるのだ。
しかし、実験に到底足りる金額ではなかった。
小型の模型を作って海中へ突入するか実験する必要があるし、実物を試作するためにいくつも形状を変えて複数試作し実験する必要があり、出された額では足りない。
それに予算が承認されたわけではない。
支給されるには主計長、いや額が額だけに航空隊司令の承認が必要だ。
「ご苦労」
だが鷹野本部長は、札束を手持ちの風呂敷に包んだ。
その扱いに主計科員は唖然として止めようとする。
「暫く借りるぞ。それと、このことは他言無用だ」
「は、はい!」
だが、その前に鷹野本部長が熨斗すると黙り込んでしまった。
「三木少尉、付いてこい」
「は、はいっ!」
主計科の部屋を出て行く鷹野本部長に言われて三木は付いていく。
「三木少尉は確か多発機も扱えたな」
「は、はいっ!」
廊下を進んで行く鷹野に尋ねられた三木は返答すると同時に鷹野本部長が自分を知っていることに三木は驚いた。
確かにテストパイロットとして様々な機体を操れるよう、エンジンを二つ以上装備する飛行機も操縦できるよう多発機の免許も持たされた。
おかげで大型機の試験飛行、<死に戻り>の回数も多くなってしまったが、操縦できるし経験も多いので上手に飛ばせる。
だが、こじんまりとした海軍航空隊だが、所属する要員だけで数千人、士官パイロットだけでも百人近い。
なのに任官したばかりの三木の取得した免許まで覚えているとはすごい記憶力だ。
「期待の新人、それも海軍航空隊の未来の機体を提供した者の名前を忘れるほど耄碌してはおらんよ」
鷹野は種明かしをした。
海軍航空隊の使用航空機の開発命令を下すのは本部長であり、その経過報告、飛行結果も見る。
その報告書の中にテストパイロットである三木勝士の名前もあった。
しかも機体の欠陥を指摘する報告書も添付され、改善されている。それが何度も起きれば誰でも覚える。
そして興味を持ち、履歴書を取り寄せ、プロフィールを読み込んだわけだ。
「君の為に支援は惜しまないよ。特に海軍航空の未来に関わる事、未来を切り開くものならばなな」
「何をなさるのですか?」
質問すると鷹野本部長は行動で示した。
司令室と書かれた扉をノックもなしに開けた。
「おい、山内」
「は、本部長!」
オヤジ――航空隊司令である山内四郎大佐が鷹野が入ってきたことに驚き、慌てて敬礼する。
築浜航空隊開設時から司令を務めている親分肌の人物だが、さすがに上官の鷹野少将がいきなり入ってきたら驚く。
「急用が出来た。直ちに飛ぶ必要があるので大型飛行艇を用意してくれ。それと三木少尉を借りるぞ」
「ど、どちらへ」
「機密事項だ。直ちに準備せよ」
「は、はい!」
鷹野本部長の命令で山内大佐はすぐに電話をとり部下に命じ機体を用意された。
一時間もしないうちに航空隊が所有する大型飛行艇が燃料満載で飛行準備が整えられた。
そして鷹野本部長は勝士に操縦するよう命令。
勝士は訳も分からず、飛行服に着替え準備を整えると操縦席に座る。
飛行前チェックを終えて操縦桿を握りしめつつエンジンを暖機させ、飛行艇用の進入路、海へのスロープへ飛行艇を走らせながら、本部長に尋ねる。
「どちらへ飛ぶのですか?」
「媽閣だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます