『叡智の結晶』(クリスタル・オブ・ソフィア校)

 「クリスタル・オブ・ソフィア校叡智の結晶

 先々代皇帝の最愛の妻にして先々代皇后の、『ソフィア』の名前を冠したこの学校は、当時の皇帝の在位三十周年を記念して、「より自由で開かれた教育」のため、そして「叡智ある若者を集め、育てる」ために、今から約百年前に創設された。

 植物の愛好家でもあり収集家でもあった皇帝の意向により校舎と併設して建てられた屋内型植物園施設が、この学校の『水晶(クリスタル)』の名の由来の一つである。陽の光がまんべんなく入るように設計されたガラス張りの建物の天井には、「どうせ作るなら豪華で美しいものを」という皇帝の要望により、ガラスに代わって本物の水晶が用いられている。

 当初は二百年以上の伝統を誇る従来の名門校ほどの影響力はなかったものの、皇族出身の生徒が入学して以降、次第に注目を集め始め、数々の著名人を輩出するようになり、知名度も人気も獲得するに至った。

 この学校の特徴は、入学に見合う能力があると判断されさえすれば、階級や(帝国領内の国や友好国であれば)国籍、性別に関係なく生徒を受け入れているという点であった。このような試みは帝国内でも新しく、上流階級の男子しか受け入れない他の伝統校とは一線を画していた。

 また、「帝国の威厳を守るため」、生徒の選抜は「難関」と言われる入学試験を皮切りに、賄賂を使ったいわゆる裏口入学といったものは一切なく、厳正に行われていた(という噂があった。これが事実かどうかは生徒にも保護者にも確かめようは無かったが、少なくとも優秀な生徒が集まっていることは確かだった)。

 帝国国内の貴族階級の子女から政治家、軍人、学者、そして帝国国外からやってきた将来有望な留学生も集っており、そこは開校当初の理念通り、各国地域の頭脳が集うまさに『叡智ソフィア結晶クリスタル』となっていた。

 ところが、帝国にとっては皮肉なことに、この国に潜んで暗躍している存在にとっては、権威者たちと繋がるための最も安全な場所と身分を得るのに適した場にもなっていた。

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