第10話

 血なまぐさい匂いがこびりつき、地面が赤黒く染まる大地の上で。


「クソガァ……ッ!!!」

 

 己の血と返り血にまみれてびちょびちょの厳つい大男が僕をにらみつけ、傷だらけの腕を伸ばしてくれる。


「ありがとう」

 

 僕は一切の躊躇なく己へと伸ばされる腕を踏みつける。


「僕の想定以上より弱くて」

 

「ガァッ!?」 

 

 僕に腕をつぶされた大男は痛みに表情を歪ませる。

 聖剣がなければ一般兵に毛が生えた程度の強さしかない僕の前で倒れている大男からは僅かな聖神の祝福を感じる。


「僕の研究による強化は上々。ここまで完璧に作用するとはね」

 

 大男を倒した僕の手に聖剣は握られていない。

 薬、肉体改造、禁術……僕が一から考えた強化方法、僕が世界中から集められた強化方法すべてを試した僕の体は聖剣なしでも、魔族の公爵家当主レベルの強さを有していた。

 まぁ、それでも指数関数的に強くなっているマキナには遠く及ばないんだけど。


「さようなら」

 

 僕は大男の頭へと下ろした足へと力を入れ、頭を潰してやる。

 これで死んだだろう。


「……お疲れ様です」

 

 大男を一方的に倒した僕のもとにミミリーが近づいてくる。


「そんなに疲れていないよ。弱かったからね」


「……ッ。であれば、こんなに多くの人が死ぬ必要は……ッ!」


 ミミリーの視界に入っているのはこの場に転がっている多くの人間の死体。

 血みどろの死体。

 僕が大男の力を図るためにぶつけ、無残に大男に殺された大量の兵士たちである。


「何を言っているんだい?用心はしておいた方が良いに決まっているだろう?用心が無駄になったと考えるよりも、用心が必要になるような事態にならなくてよかったと考える方が良いに決まっているじゃないか」


「……ッ!ですが!」


「僕にとって人間の命の重要度は低い。ただそれだけ。そして、僕は君より偉い。君が人間を守りたいなら僕よりも偉くなるか、僕に人間を生かす利点を説明することだね。さっさと要塞城の方へと帰るぞ」


「はい……承知いたしました」

 

 僕の言葉にミミリーが頷き、歩き始めた僕のあとについてきた。

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