第6話

「ふぅー」

 

 アルビノ。

 元々差別される立場にあった彼ら、彼女らは宗教による支配が行われていた世界から魔族による支配が行われるようになった新世界において経済界を支配し、人類宰相であるアルの命令で人類社会の経済に干渉している存在になっていた。

 そんな存在となっているアルビノたちの頂点に君臨するようアルに命じられたリーゼは深々と息を吐く。

 

「ここまで変わるとはのぅ……」

 

 宗教が潰され、支配者が人間から魔族に移った世界。

 しかし、当初アルビノたちが想定していた混乱、人類による反乱は決して起こらなかった。

 魔族の圧倒的な武力、魔王の何も言わずとして他者に頭を垂れさせるカリスマ、アルとかいうバグのような存在単独での政務執行。

 民衆の生活の質の向上、人類の政治、軍事の締め出し、反乱対策のための刀狩り。

 徹底された支配によって人類は魔族へと反抗するための牙を失い、すっかり魔族の支配を受け入れていた。


「あの子……あんなに凄かったのじゃな」

 

 魔族による支配。

 その中でも突出して頭おかしいのがアルだろう。

 単独ですべての政務をこなして、人類を管理。しっかりと人の前に立って多くの民衆からの信頼と親しみを獲得している狂人。

 現代の人類社会はアルの手の中にあると言っても良いだろう。

 そんな存在がひと時ただのお店のバイトとして安月給で働いていたなど誰が想像できるだろうか?


「それにしても……アルが死んだ後の世界はどうするつもりなんじゃろうか……」

 

 リーゼはふと思いついた疑問を口にする。


「……一応、備えだけはしておくことにしようかのぅ」

 

 当然、ただの人間でしかないアルには寿命が存在している。

 彼が死んだあと世界の政務をどうするのか、リーゼには想像つかない。もし、事故か何かでたった今死んでしまったら世界は最悪の事態に直面することになるだろう。

 原理不明の不老不死を体現しているリーゼは己の脳内に駆け巡る最悪の事態を回避するための備えを一応始めていく。

 すべてはミリーナが安心して暮らせる世界を作るために。

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