第3話

「それは財布、かしら?」


 僕の手に握られているサイフを見てサーシャが口を開く。


「持った感じ多分そうですね。小銭の音がしますし」


「不味いわね……あっ。あのお客さんのか」


 サーシャはまるで心当たりがあるとでも言いたげな言葉を口にする。


「何か心当たりでも?」


「最後に来られたお客さんの方が財布がないと焦ってたのよ。支払いはお連れの人がしていたけど……なるほど。そういうことね」


「え?……お連れって、あの小さな子が払ったの?」


「え、えぇ。そうよ。あの小さな子が財布を取り出して払ったのよ。ちゃんとしている財布を取り出していて、結構ビックリしていた」


「変な人たちですね……なんか、雰囲気まで」


「確かにそうね。でも飲食をやっていると、変なお客さんなんていくらでもいるわ。いちいち気にしていたらやってられないわよ」


「なるほど……それでこれ、どうしましょうか?またご来店されますかね?」


「どうかしら……あぁ言うお客さんは再来してくれることは少ないのだけど」


「わかりやすいお客さんだし、自分がぶらぶら歩いて探した方がわかるやすいかな?」


「そうかもしれないわね……」


 サーシャさんは僕の言葉に頷く。


「じゃあ、自分は適当に見て回ってくるよ。もしお戻りになられたら待ってくださるように言っておいて」


「えぇ、そうしておくわ」


「では、行ってきますね」


 僕は一言告げ、重い腰をあげる。


「それでお父さん。新しい従業員を」


「クソ!覚えていやがったッ!!!」


 お店から出る直前、サーシャさんの言葉を前に叫ぶ中年の声が聞こえてきた。

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