第32話

「僕は今からお前を倒す。しかし……聖剣は使わない」


 僕は不満を言いに来たアースライト公爵家の兵士の中で最も強い男を指差し、そう告げる。


「……は?」

 

 聖剣を手にしていない僕など雑魚同然だ。

 戦闘における火力は聖剣に頼りきりであり、聖剣がないときの僕の火力はかなり低い。

 確実に目の前の男には勝てないだろう。


「良いから、やるぞ」

 

 僕は殺気をぶつけ、足を一歩踏み出す。

 相手は熟練のアースライト公爵家の兵士。それだけで一瞬にして意識を変化させ、戦闘状態へと移る。


「ぬぅんッ!」


「『魔法術式 闇之章 第三節』」

 

 アースライト公爵家の兵士の拳。

 僕はそれをオリジナル魔法を使用して回避する。

 その際、アースライト公爵家の兵士の腕に針を一本刺す。毒付きの針を。


「……ァ?」

 

 僕の使った毒は非常に強力なもの。

 毒を一切警戒していなかったアースライト公爵家の兵士はあっさりと倒れ伏す。


「はい。僕の勝ち」


 僕はしゃがみ込み、動けなくなったアースライトの兵士と目を合わせ、口を開いた。


「ふ、ふ、ふ、ふざけるなッ!?卑怯だぞッ!?」


「卑怯?何故?」


「毒を使うなんて情けないッ!堂々と戦ってこそだッ!頼れるのは己の力のみッ!」


「これだって僕の力だよ?知力っていう、ね」


「何が知力だッ!そんなもの!不純物だッ!戦士と戦士の戦いにあるのは純粋な力ッ!武力のみッ!」

 

 あっさりと地面に倒れたアースライト公爵家の兵士はそう声を張り上げる……僕の思っていた通りの言葉を。


「そうか。じゃあ、これから君の隊には一切食料を上げないね」


 だからこそ、僕は用意していた言葉を彼に告げる。

 

「へ?」


「ん?何をそんなに驚いているんだい?あぁ……当然」

 

 僕は倒れているアースライト公爵家の兵士の服へと手をかけ、思いっきり破る。


「服も同様だ。これから君の隊には武器も防具も食料もあげない。何も食わず、裸で戦え」


「なっ!?そ、そんなの勝てない!」


「何故?君は己の武力だけで戦うのだろう?ならばこれらは要らない不純物じゃないか。畑を耕し、作物を育てるのも立派なその人の力だ。裁縫も、鍛冶も同様。それらを行い人はみな、彼らだけの力を持っている。知力は認めないのに、農業、裁縫、鍛冶の力は認めるなどおかしいとは思わないかい?」


「……ッ」

 

 脳筋でしかない彼に僕の言葉に反論する言葉は出てこない。


「問おう。これが最期だ。お前は武力以外の力を必要とするか?己が武力を輝かせるため……他の力を利用するか?」

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