第11話

「すごいな……これ」

 

 テンゴンに紹介してもらった家具屋へとやってきた僕は店の中を見てぽつりと呟く。

 家具屋の品揃え。それは実に実に素晴らしかった。

 目がチカチカするような豪華な家具ではなく、シンプルなデザインで機能美に優れる家具たちである。


「どれが良い?」


「んー。まずは必要なのがベッドと、机と椅子とソファと暖炉と卓上遊戯用の机と座布団が二つ、かな?」


「うん。必要なのはそれくらいだと思うよ。ベッドは二人で眠れるダブルサイズのベットが良いな」


「うん。それで良いんじゃない?元々あの部屋に置かれていたのはキングサイズだけど、ダブルで良いの?」


「いや、そんなに大きくても邪魔だから」


「そう。ならダブルベッドにしようか」

 

 買うものが決まった僕たちはとりあえず家具屋の中を見て回る。

 見て回る。

 ……見て回る。

 ……………見て回る。

 ………………………………。

 ………………………………………。

 

「ね、ねぇ」

 

 僕は一緒に付いてきて、説明を行っているお店の人に聞こえないようにマキナの方へと顔を近づけ、口を開く。


「な、何かわかる?僕は全然わからなかったんだけど」

 

 一切飾ることのない僕の素直な感想。

 それをストレートにマキナへと告げる。


「わ、わからない……」

 

 それに対してマキナもまた僕と同じことを告げる。

 そう。まるでわからない。

 それが今の僕とマキナの現状だった。

 マキナはたとえ良い家の当主であったとしても僕と一緒に最底辺のような暮らしをしていたし、前世は普通に中流階級に生まれ、文明が未発達なこの世界だったら王様以上の生活をしていた僕もけつの穴を葉っぱで拭くような生活でそんな贅沢思考が削られ……感覚が数世紀退化していた。


 ちなみにだけど、葉っぱで拭いてけつの穴が切れて痛いとマキナに泣き言を漏らしたら、じゃあ、毎回私が舐めるとかいう狂気の解決策を差し出してきて以降、僕はマキナに二度と泣き言は漏らしていない。うんこもね。

 ちゃんとトイレでひねり出している。


「うむ」

 

 どうしようかと悩んでいたところ、マキナが口を開く。 


「我は戦闘のプロであり、誰にも負けぬ。しかし、家具のプロではない。プロである汝に任せるのが最善であろう。当主たる私にふさわしいものを選べ」

 

「……ッ!わ、私に!?ですか!?」


「うむ」


「な、なんたる光栄……ッ!私の生涯をかけ!満足いただけるものをご用意致します!」


 店員さんは体を震わせ、家具を選ぶために動き始める。

 なんかマキナが良い感じにやってくれた。流石だね。

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