第6話 女の子とホテル入った!
怪しくも華麗に光るホテル街。俺みたいな綿100%のボロシャツを着ているアホと、堅苦しくも美しいスーツ姿の女子が、こうやってカップルみたいに歩いている。
嘘だろ、おい。
「えーっと……あなたはその、お金みたいなものはいらないんです?」
「はい」
「……」
「詳細は後で話します。今は何も言わないで」
なんか、重いお話が待ってるんだろうか。ヤだなぁ、セクロスする前にそんな話聞かされるなんて。
「ここにしますか?」
「私はどこでもかまいません」
そう言われたので、俺はそこに決めた。
*
さて、いとも簡単に女の子と交わるチャンスが生まれたわけだ。
「君、名前は?」
なんとなく言ってみた! 今後の人生でこの瞬間が一番恥ずかしいものとなるだろう!
「ゆめか」
「ゆめか。それじゃ、いいね?」
「何がですか?」
「えっと……」
いや何がいいんだよマジで。俺はこんなことしたことないから、何も分かんないよ。どうしよう、この雰囲気。
「ゆ、ゆめか!」
「はい……」
「あの、その」
「……」
キスしよう。 → ×
手、つなごうか? → ×
俺のこと、好き? → ×
月が綺麗ですね → ○
「月が、綺麗ですね」
「……」
しびれるほどに、エアコンの風が冷たいのだが。
「すみません、私その、上京してきて大学通ってるんですけど、気の合う友達とかできなくて、……ていうかあんまり友達作るのできない性格で、でも一人は寂しくて、なんとなくあそこ行ったら友達できるかな~ って思ったんですけど、できなくて」
スーツ姿で言われると俺がパワハラしてるみたいだ! どんなプレイだよ!
「毎日、寂しいんです。あと、すごくつまらない。一人暮らしサイコーって思ってた時期もありました。でも、今は死んだような生活してます」
「ああ、それは俺もそうかもしれないな」
「本当?」
「う、嘘ですよ? 俺は実家暮らしで、豪邸で、家族や友達もいますからねぇ」
「嘘ですよね」
「……ハイ」
「よかったぁ」
良かねえよ!
「それじゃ、シャワー浴びましょうか?」
そう俺が言うと、
「なんでですか?」
と返答された。
「……洗わないほうが、いいと?」
「あなたとセ●クスはしませんよ?」
……
…………
「すみませんでした」
すっげえ嫌そうな顔された。でもよく考えろ? こんな見ず知らずの男をホテルまで連行して、セ●クス以外の目的とは何だ?
「お金払いますよ。そうしないと取引になんないですからね」
「いや、お金いくらもらったってあなたとはしません」
「……分かりました」
じゃあ何なんだ! 今から重い話を聞かされなきゃなんないってか! それだけのために? この流れだと、そういうビデオでは男が女を無理矢理……みたいなかんじになるぞ。俺はしないけど。
「私、友達を作ろうとして、何回もあそこに行ってるんです。最初はオシャレして行ってたけど、それだと男にお金目当ての人って見なされるし、それに他の女の子もそういう目的で立ってるわけだから、友達になれなくて。あと、すでにコミュニティが出来上がってたのもあります」
なんか、語り始めたぞ。いよいよ親の話を聞かされなきゃならないのか?
「それで、今日偶然、男の人が立ってました。それがあなたです。なんか見た目的に弱そうだったし、暴力振るわれないかなと思って、選びました。友達になって?」
「断る!」
「なんで⁉」
「アホか!」
重いどころか、軽すぎるよ! おい、俺は単に弱い男として認識されてただけか? んで、友達になれそうだと?
「脱げ」
「え?」
腹が立ってきた。
「俺はな、実はそんなに弱くないんだよ。お前みたいなふざけた奴に、俺の真の姿を理解させるしかねえな」
「中二?」
「うっせえ! とりあえず脱げよ!」
「嫌です」
「そんなスーツ着て。そんなんで友達なんてできるわけないだろ!」
「でも、これしか」
「うっせえよ! 脱げ、ほら早く脱げよ!」
「きゃあっ」
俺は立った状態で、やはり立った状態の彼女を脱がせ始める。
「くっそ、これどうやって外すんだ?」
「裏にボタンがあるから、思いっきり引き裂いていいよ」
「なるほど。おりゃあああああああ!」
「やめてえええええええええええええええええっ」
上半身を裸にして見せた! 次は下半身だ。
「くっそ! 脱がせねえよコレ! 普通にズボンはいてりゃいいものを」
「ホック、ここにホックあるから」
「え? あ、あった」
「きゃあああああああああああああ!」
下半身も裸にして見せた!
「次は下着だぁ!」
「し、下着は無理!」
「つべこべ言ってんじゃねえよ、ここまで来たならもう後戻りはできないだろ!」
俺はブラに手をかけ、
「下着はほんとにダメえええええええ!」
なんとなく、下着は本当にダメな気がした。もしここで俺がこの人の下着をはぎ取ったら、のちに大きな後悔が生まれる気がした。
「ていうか下着まではOKってのがおかしいだろ!」
「実家にいたとき、下着で過ごしてましたから。弟に何度も見られて慣れました」
「弟サンッ」
間違ってる。ああもちろん立ちんぼは間違ってる。でも今の状況はそれ以上に間違ってる。何かが、おかしい。
「あの、今思いついたんですけど、裸の付き合いをすることで友達になれるって可能性あるかな。そんなことしちゃいけないっていうか、不純だと思うけど」
「知らないな。調べたことないし」
「や、やってみる?」
恥ずかしそうじゃねえか! もう布団に潜ってるし。
「恥ずかしそうじゃねえかよ。もう布団に潜ってるし」
「わ、分かりました……ゴクッ」
彼女は布団から出て、下着姿を再び露わに。そして、
「お、おい、何してんだ」
「ブラ、外そうとしてる」
「なぜ」
「あなたに見せるため」
「それはなぜ」
「友達になるため」
「無理だよ!」
だが、彼女が止まることはなかった。
「
こ、これが女子の……
「もう止まらない。友達になってもらうためには!」
「おいやめろ、それはマズい!」
彼女は下の布に手をかけた。
「おい、早まるな! 俺が悪かった、金ならやる! 早まるなああああ!」
「友達になれるかと思ったら、だんだん恥ずかしくなくなってきた♡」
「俺は童貞なんだよおおおおお」
「私も1回しか経験ないよ」
も、って何だよ。雲泥の差だろ。
「って、ダメだダメだダメだあああああああああああああああああああああああ!」
ズルッ
「今、この屈んだ状態から元に戻ったら、見れるよ?」
「……」
「見たい?」
なんか、そう言われたら……
「見たい、よね。だって男の子だもんね」
「いや申し訳ないけど全然見たくねーわ」
「は⁉」
「アンタ、さっきから俺のことバカにしすぎだろ。確かに俺はバカだけどさ、でも初対面だぞ? もうちょっと礼儀をわきまえるべきっていうか、敬意を持つべきだろ」
赤の他人どうしである。それなのに、親密になって何か月も経つ人どうしがするようなことをしている。その違和感が半端ないのである。
女の顔がみるみる冷めてゆく。
「ま、やっぱり友達にはなれないよね。こんなことしてもサ」
「そうだと思う。もう少し普通の行動をして、同性の友達を見つけることが必要だろう!」
「やっぱそうなんだ。はーあ」
彼女はそう言って立ち上がり、浴室に向かう。なんか、急に本性が出たな。
「おい、どうするんだ?」
「風呂に入るの。ちょっと冷静になりたくて」
「勝手なやつだ」
今、特に何も言わなかったけど、毛が見えたんだよ。まあ生パイ乙を見たから、別にいいだろうと思われる。
「ねえ、ご飯作っててくんない? 朝から何も食べてないんだよね」
「ホテルに調理器具があるわけないだろ」
「んじゃコンビニで買ってきて」
「あんたが買えばいいだろ。俺は何もしないぞ」
なまめかしい水の音がする。本来なら興奮するところだろうが、あまりにも無礼な奴に対してそんな気は起こらない。
「ねえ、ほんとにコンビニ行かないわけ?」
「行かないに決まってるだろ」
「こっちは女なんだけど。レディーファーストは無いわけ?」
「お前はレディーじゃなくて単なるメスだ。腹立たしい」
「ふざけんな! バカ!」
ボトルが床に衝突したような音が聞こえた。苛立ってシャンプーを投げつけたとか、だろうな。
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