第57話 頭文字だけを

 準備を整えて、もう一度挑戦してみた。


 今度はすべて三番の窓口に行ってみた。


 『だらえ』

 『まじか』

 『さでい』

 『れっぷう』

 『ただま』

 『なんと』

 『まかか』

 『ぬもも』

 『けがぁ』

 『めだぽ』


 このように彫られた判子を押してもらった。


 いつも通り頭文字だけが、他のものよりも大きくなっている。


 その後、一階の窓口に提出した。


「ふむ、残念ですが、これは受理できませんねデアリマス」


 担当者にそう言われた。


「またかよっ!? いったいどうすれば良いんだよっ!?」


「どうするも何も、窓口に行って判子を押してもらえば良いだけですデアリマス」


「それを今やったんだよ!?」


「偽物を持って来られましても困りますデアリマス」


「なら、本物ってなんだよっ!? どんなものなんだ!?」


「窓口は一か所しかなかったはずデアリマス。そこでもらえる判子が本物ですデアリマス」


「ウソつけ!! 窓口は八か所あったぞ!?」


「では、七か所が偽物ですデアリマス」


「本物の窓口を見分ける手段はないのかよっ!?」


「私は他の窓口に関して、詳しくないので不明ですデアリマス」


「なら、詳しいヤツを呼んでくれよ!」


「ただいま席を外しておりますデアリマス」


「いつ帰って来るんだよ!?」


「不明ですデアリマス」


 なんじゃそりゃぁっ!?


 なんか怪しいなぁ。


 だが、どうすれば良いんだ?


 うーむ、よく分からん。


 とりあえず、もう一回やってみるか。


 担当から申請書を二枚もらった。


 そして、準備をして、もう一回判子をもらいに行った。



 今度はすべて四番の窓口に行ってみた。


 『だんぴ』

 『まがが』

 『さいか』

 『れふぇり』

 『たがか』

 『なもも』

 『まうと』

 『ぬぉぉ』

 『けむね』

 『めかぶ』


 このように彫られた判子を押してもらった。


 こいつらもいつものように、頭文字だけが大きくなっている。


 今度は本物なのか?


 どうなんだろうな?


「ハヤトよ、ワシは気付いてしまったかもしれん」


「えっ? 何をだ、シチロー?」


「その大きくなっている文字を、押された順に読んでみるのじゃ」


「押された順に? だ、ま、さ、れ、た、な、ま、ぬ、け、め…… 『だまされたな間抜けめ』だと!? なんだこれは!?」


「確か今までの判子も、そうなっていたはずじゃ。これは何回挑戦しても受理されんと思うぞ」


「な、なんということだ!? 全然気付かなかった!?」


「こんなのひどすぎるゲスッス! 同志、文句を言いに行くゲスッス!!」


「ああ、みんな行くぞ!!」


「よっしゃっ! あの窓口の姉ちゃんをとっちめてやろうぜ!!」


「積年の恨み晴らすのである!」


 俺たちは一階に向かった。



 一階の役所のような部屋にやって来た。


 あれ?

 誰もいないぞ?


 どこに行ったんだ?


 もしかして、奥で休憩中なのかな?


「ハヤトよ、今のうちに窓口や机を調べてみたらどうじゃ?」


「そうだな」


 机や窓口を調べてみた。


 すると、机の引き出しの中から『スローライフ知恵の試練、お客様対応マニュアル』と書かれた紙を発見した。


 スローライフ知恵の試練!?


 なんだそれは!?


 そこには客が来たら、申請書を渡して他の階の窓口に向かわせろ。

 判子を集めて戻って来たら、偽物だと言って不受理にしろと書いてあった。


 くそっ、シチローの言う通りだったのかよっ!?


 腹立たしい連中だな!!


 ぶっ倒してやろう!!


 窓口の奥にある片開きの扉を開けた。



 そこも洞窟のような空間だった。


 一本の通路が真っ直ぐ伸びている。


 では、進もうか。



 むっ、前方左側の壁に白い片開きの扉があるぞ。


 しかも、そこから声が聞こえる。


 窓口の担当者どもが中にいるのか!?


 ちょっと聞き耳を立ててみよう。


「最近ここに来たヤツら、まだいるのデアリマスか?」


 中から窓口の担当者たちの声が聞こえてきた。


「あ~、まだ中をうろうろしてたよデアリマス」


 どうやら俺たちのことを話しているようだ。


「あいつらしつこいねデアリマス。さっさと諦めて帰れば良いのにデアリマス」


「この程度の罠にも気付かないお粗末な頭では、スローライフなんて無理だろうにねデアリマス」


 おのれっ!

 好き放題言いやがって!?


 ちゃんと気付いたぞ!?

 シチローがだけどな!!


「ねぇ、賭けでもしないデアリマス?」


「どんな賭けデアリマスか?」


「あいつらが後何回で諦めるかデアリマス」


「面白そうねデアリマス。私は後一回で諦めるに、百よポイント賭けるよデアリマス」


「なら、私は後二回に、百よポイントよデアリマス」


 よポイントで賭け事か。


 そんなこともできるんだな。


「私は後三回に、二百よポイント賭けるデアリマス」


「あいつら、もうちょっとがんばりそうじゃないデアリマス? 私は後四回に、三百よポイント賭けるよデアリマス」


「私は五回に、百よポイントにするデアリマス!」


「私もやるデアリマス! 私は六回に、二百よポイントにしようデアリマス」


 声も語尾も同じで分かりにくいけど、この中には六体の窓口担当者がいるようだ。


「ねぇ、そろそろ仕事の時間じゃないデアリマス?」


「そうだねデアリマス。行こうかデアリマス」


 部屋から出て来るようだ。


 そうだ!

 扉の陰に隠れて、あいつらが出て来たところを奇襲をしてやろう!


 散々好き勝手言いやがった報復だ!


 ぶちのめしてやるぜ!!


 俺たちは扉の陰に隠れた。



「ああ、仕事って面倒ねデアリマス」


「仕方ないってデアリマス」


 窓口担当者たちが部屋から出て来た。


 俺たちは油断していた担当者たちを、容赦なく攻撃して倒した。


 ざまぁみろだな!!

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