第21話 不運の揺り戻り


 全く、俺は俺の才能に空いた口が塞がらない思いだ。


「ククククク、どうしてこうも上手く行くのかね」


 俺、カインは作り上げた盗賊団をシェリフとかいうクソ領主に壊滅された後、王都に逃れていた。

 指名手配されている俺が王都へ入る事ができたのは、王都への道のりの中で貴族を救ったからだ。


 道を歩いていると、車輪の壊れた馬車が野盗に囲まれていた。


 隠れて見ていた俺だが、野盗の中に探知系の魔法を使える奴がいた。

 バレた。

 しかし、そいつらは俺を見ると尻尾を巻いて逃げて行った。

 俺も有名になった物だ。

 雑魚だけど。


 助けたのは王都に向かう貴族一家の乗った馬車で、大層感謝された。

 しかも、そのガキが俺の弟子になりたいとか言ってくる始末。


 貴族は顔パスで王都に入れる。

 それに同乗している俺も同様だ。

 そうしてまたも指名手配を免れて、俺は王都に入る事に成功したのだった。


「師匠! アクアランスの魔法を使える様になりました!」


「よ、良かったなアスト」


 アクアランスは中位魔法。

 俺の唯一使える魔法、アクアショットは下位魔法。

 お前、教えて5日で師匠越えるなや!


「だがアスト、魔法ばかり磨いていていいのか? 剣術や体術もお前の夢には必要だろう」


 まぁ、俺の武術は強そうな流派出身の盗賊仲間からカッコいい技を真似パクっただけの見世物だが。


「はい。いつか、古代の遺跡や秘宝、ダンジョンを攻略するのが僕の夢ですから。その目的のために師匠から沢山教わろうと思ってます!」


 教える事なんてねぇよ。

 と、言ってしまうと次男坊の指南役という立場が終わる。

 そうすれば宿無し金無しの指名手配犯だ。


 適当な事言って誤魔化そ。


「お前には技術も魔法もある。しかしまだまだ心が弱いな」


「え?」


「もし、絶対に勝てない様な相手に出会った時どうする?」


「そんな、俺はそうならない為に頑張ってるんですよ」


 そりゃ、常識の中の相手ならお前の闘志は消えないだろうよ。

 それはこの5日、お前を見ていただけでも分かる。


 しかし、例えばあの赤い巨人の様な人の力ではどうしようもない相手だっているんだ。


 俺がもし、このガキに教えてやれる事があるとするなら。


「逃げるのは弱さの証拠じゃないからな」


「……師匠でも逃げる事があるんですか?」


「あるさ。例えば火山に落ちたら俺だって死ぬ。深海では生きられない。大地震とかだって運が悪ければお陀仏。そんなのがこっちに悪意を持って

接してくる事だって世の中にはあるんだよ」


 俺がそう言うと、アストは悩むような素振りを見せた後ハッとした表情で俺を見た。

 その目は何故か輝いていた。


「流石です師匠! 師匠の相手はその様な存在ばかりなのですね!まだ俺の実力ではそんな相手と戦うには全く足りていないと。分かりました、もっと精進したいと思います!」


 なんか勝とうとしてないか?

 心意気からして俺とは違う。

 いや、若さゆえって奴かね。


 相手はまだまだ14、5のガキ。

 現実って奴を知るにはまだ早いか。


 こいつに才能があるって言っても、他にも才能がある奴なんてごまんといる。

 本物の英雄様は、それに加えて色々必要な物があるんだろう。

 例えば運とか。


「まぁ頑張れ。その内色々見えて来るさ」


「はい!」


 そう言った次の日の事だった。


「師匠。何か、変なんです。俺、今なら何でもできそうって言うか……」


 水がアストの周りを覆う様に浮かんでいる。

 アストが別荘の庭にあった木に向けて手を薙いだ。

 すると、意思に従う様に水が伸び、木を斬り倒した。


 アストは恐らく上級に区分される、オリジナルの魔法を完成させていた。


 俺は引きつった笑みを浮かべながらこう言うしか無かった。


「おめでとう。それは君のオリジナル魔法だ」


「オリジナル……師匠、名前つけて下さいよ。つけて欲しいです」


「そうだな。アクアドライブ、なんてどうだろう?」


 水を纏い、あらゆる身体の動作に対して属性と不随効果を発揮させる。

 見た事も聞いたことも無い魔法。

 もしかすると、本当にこのガキは英雄になる逸材なのかもしれない。



 ◆



「奉納祭なんて、面倒な催しを考える物だな」


 そうぼやきながら俺は王都の繁華街を歩いていた。

 殆どの店が祭り仕様に外装に手を加え、街並みな色鮮やかだ。

 夜になれば街の中心にある王城から、魔法花火も上がるらしい。


「国王の権威を示す為。それと王都に金を撒く意味合いも込められているのかと」


 リラが俺の独り言にそう答える。

 本当に賢くなった物だ。


 王国の北東の貴族が5年に一度、王都に集まって献上品を王に渡す祭り。

 それがこの催しだ。

 因みに南西の貴族は2年と半年後に集まって来る。


 貴族の約半数が集まるのだから金が大量に動く事になる。

 奉納なんて謳って貢物を搔き集めてるクセに、更に祭りだからって金を落とさせようとする守銭合い。

 まぁ、嫌いじゃない。

 俺がやる側ならな。


 正直、王国貴族としての立ち位置に俺はそれほど魅力を感じていない。

 何せ、アークプラチナの武力と王国の全部力がほぼ互角くらいだ。

 カナリアの計算だから間違いない。

 そんなのに仕えるとか無意味だ。


 しかし、この王国には主人公がいる。

 そいつの動向を知る為には、もう少し貴族を続ける。


「それにしても毎回嫌な記憶しか無いんだよな」


 俺がこの身体に乗り移ったのは1年前だ。

 しかし、俺にはそれ以前の記憶もある。

 辺境の痩せた土地。


 その領主である俺や俺の親父は、この奉納祭で毎回嘲笑の対象だった。

 碌な献上品を出せないから当然だ。

 それが何十年も続き、俺に対す他の貴族の風当たりはかなり悪くなっている。


「めんどくせ」


「心配ありませんよ。貴方に無礼な態度を取る者がいたら、私が殺します」


 にこやかな表情でリラはそう言った。


「殺すなよ」


「……じゃあ半殺しで」


「そういう問題じゃねぇんだよ」


 どういう教育されたんだよお前。


「……じゃあどうしたら笑ってくれるんですか」


「今は冷たい飲み物でもあると嬉しいかな」


「買ってきます」


 緩く笑って、リラは売店に向かって行った。

 それにしても、あの主人公も歴史通りならここに来てるはずだ。


 まだ俺と接点はないはずだが、相手がどういう反応をしてくるか分からないのが怖い所だ。

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