第922話 不気味な空間と不気味な敵!
その後は、兵士も騎士もデストロイの前に現れることはなく、牽制するように離れたところから様子を窺っているだけであった。
「デス兄貴、城に向かわないのか?こんなボロ小屋に何があるんだ?」
「嫌な匂いがプンプンしやがるのがわからねぇか?まぁ、お前らなら、ここを開けたらわかるだろうよ」
デストロイが、小屋の床板を剥がすと、金属の板が敷き詰められていた。デストロイは、足を引き上げて振り下ろすが、金属の板はびくともしない。
「見たこともねぇ金属だな。ん?靴が溶けてきやがった。罠か......姑息な真似すんじゃねぇか、だが関係ねぇな」
デストロイは、溶ける靴を脱ぎ捨てたあと、拳に地獄の力を纏って突き刺すように金属の板へ叩きつけた。すると、あっさりと真っ二つに割れて、氷を叩いたようにヒビがあちこちに入り崩れ落ちた。
「からくりはわからねぇが、破壊すりゃ何の意味もねぇ!どうだ?感じるか?」
デストロイは、地獄の力で手をコーティングしてから破壊の力で未知の金属板を破壊した。
「デス兄貴の言う通りだ。気分が悪くなる」
「俺も一気に吐き気と頭痛に襲われてるぞ」
二人は、嫌な何かを感じ取り、手で口を覆い、冷や汗を流す。
「こいつを飲んで、俺の後ろからついてこい!ぜってぇ離れるんじゃねぇぞ」
アレク特製の薬を渡すと、二人は躊躇することなく、ポーションを全て飲み干した。
「う、嘘だろ......さっきまでの苦しみが嘘のようになくなったぞ!デス兄貴、こんな貴重なポーションを俺達なんかに......感謝しかない!ドミニク、デス兄貴の障害になるものは俺達が全て蹴散らすぞ」
「そうだな!デストロイさんには、指一本触れさせない」
大盾使いの男とハンマー使いのドミニクは、デストロイに恩返ししようと敵をデストロイに寄せ付けない宣言をした。
「お前らが蹴散らすより、俺が叩き潰した方が早ぇ〜よ。それに、お前らが前に出たら状態異常で死ぬぞ!死にたくねぇなら大人しく俺の後ろにいやがれ。早くこねぇなら置いてくぞ」
デストロイからすると、下らないことを言っているなとしか思わず、すぐさま床穴に飛び込んだ。
「デス兄貴!俺達を想っての厳しい言葉に感服しました!ドミニク、デス兄貴について行くぞ」
「おう!デストロイさんは、なんて優しい人なんだ」
デストロイは、ただ単に二人のことが邪魔だと思って言った言葉だったのだが、何故か二人には美化されて伝わり、尊敬の念すら抱かせてしまった。
「気味が悪ぃ場所だな。ドミニクとヲルガンは、この中から出るんじゃねぇぞ!行き場をなくした亡者共が襲って来やがるからな」
デストロイは、地面に下りた瞬間、黒いドーム状の地獄の力で防御を張る。すると、洞窟の奥から無数のレイスが襲いかかってきた。
「レイスが、いとも簡単に消滅していく......デス兄貴、これはいったいなんですか?」
ドミニクは、完全に敬語で話すようになっていた。そして、地獄の力によるバリアに激突してくるレイスが消滅する姿を見て驚いてしまう。
「二人共、死にたくねぇなら、その黒いやつには、ぜってぇ触んじゃねぇぞ」
「は、はい」
デストロイは、地獄の力で状態異常を起こさないようバリアをしながら、破壊の力でレイス達を消滅させていた。そして、ドミニクとヲルガンが、地獄の力に触ろうとしたので、大声で怒鳴りつけた。すると二人は、急な怒鳴り声に驚いて、声がひっくり返ってしまう。
「行くぞ!」
デストロイは、二人が触っていないことを確認すると、何もなかったように奥へと向かう。
「やべぇな。イカれた野郎がいるみてぇだ」
奥に着いた三人が見たものは、牢屋に閉じ込められた多くの人間と黒ローブを羽織った人物が何やら儀式をしている姿だった。
「はい。デス兄貴に守って貰っていなければ、俺達は死んでいました。この中にいても、寒気が止まりません」
デストロイの地獄の力を貫通してくる強大な未知の力を感じたヲルガンとドミニクは、顔が青褪めてブルブルと震える。
「早いこと消滅させねぇと面倒くせぇことになりそうだな。破壊」
デストロイは、離れた位置からローブを着た人物に向かって破壊と唱えた。しかし、何も起こる気配がない。
「おやおや、招かれざる客のお出ましのようですねぇ。ほぅ、入り口を守らせていたレイスが消滅したのは貴方方のせいですか。それに、今も私を守るレイスが消えた......おもしろい力をお持ちのようだ。フフフフフ」
ローブを着た人物が、振り返ると顔は青白く頬は窪むように痩けて、見るからに何かに取り憑かれたような顔をしていた。
「不気味な野郎だな。破壊されねぇとはな。それに、レイスが纏わりつくように集まって来やがった。お前、人じゃねぇだろ?」
「フフフフフ、この可愛い私の子供達が見えるのですね。おもしろい方だ。貴方を、媒介にすれば、どんな力が生み出せるのか、楽しみでなりません」
ローブの男は、一切焦る様子もなく、レイスを可愛い子供だと言い切るのだった。
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