第523話 美味しいは正義ですから

 お水を給仕のデリダさんが持ってきてくれましたよ。

 ピリ辛は嫌いじゃありませんがこの辛さは人の食べるものじゃないと思われますと言い叫びたいネアですよ。実際には音には出しませんよ。ええ。地域料理だとすればへんに意思表明することは危険ですからね。あくまで私感想で告げましょう。

「私には辛くてむりぉ……あぇ」

 うまく言葉がまわりませんよ。

 で、気がついたら朝でしたよ。

 なんで、ですかね?

 手早く夜着から迷宮用の装備に着替えます。整えるにはちょっと『清浄』かければキレイキレイです。ヨレた髪も香油で梳いたかのような仕上がりになりました。荷物はすべて荷物袋という名の迷宮倉庫にポイと送込み、整理はエリアボス蛇にお任せですよ。

 きっと『私』は使っていないのでしょうがマコモお母さん作の荷物袋は『ネア・マーカス』の物なので私はテキトーに入手したウェストポーチタイプの荷物袋を装備しているのです。迷宮倉庫に送らなくてもポーチとしての機能もあり、防御力も高めなお気に入りですね。

 大ぶりな荷物を入れるには不向きですが大型のものは倉庫送りが基本ですから問題はありません。入っているのはナイフや普通の保存食銀板や布の類ですね。

 なにかを『持っている』ということもまた大事なんですよね。

「おはようございます」

「おはよう! 朝ごはんできてますよ。あとお弁当にサンダルクラブのパイとグラスシェルパンどちらがいいです?」

 朝の給仕担当のお姉さんが楽しそうに声かけてくださいます。

「オススメは?」

 どっちも美味しかった記憶があります。

「どっちも美味しいですね!」

 自信満々のいい笑顔に私は眉を寄せていることでしょう。この宿のごはんは美味しいのです。その店員が自信満々。

 絶対美味しいヤツです。

「細かめに挽いた唐黍の生地にはほんのり火塩草の塩で味つけてパイ生地に。中身のサンダルクラブはほぐして白液木の果汁と根野菜をじっくり煮込んで水分をとばしたんですよね。旨み凝縮ですね!」

 う。サンダルクラブのパイかな?

「そして、グラスシェルパンはグラスシェル、ヒカリウオ、クサカリザードの肉を麦粉を少量混ぜた唐黍の生地に練り込んでじっくり蒸し焼いた蒸し焼きパンですよ。華やかさはないですが、しっかり美味しいですね!」

 グラスシェルは火塩草を常食しているので塩の甘みも感じられる美味しさだそうです。

 どっちか……。

「選べないので別料金で両方ください」

 商売上手ですね。

 その後もご近所の美味しい持ち運びメニューの情報を教えてもらったので(パイは宿の厨房産ですが、パンの方はパン屋さんの商品でもあるそうです。給仕のお姉さんのご実家だそうですよ)この商売上手と軽く罵りながら買いに行くことを決意しましたとも。ええ。


 朝のメニューはウサギ肉の唐黍スープと焼いた芋。それと緑の飲み物。

 緑の飲み物は二日酔いにもきく定番お飲み物だそうです。

「弱いならあまり飲むもんじゃねぇ」

 宿のおじさんに心配して頂いたので「そうします。でも、口のなか辛くって」と返すと「ありゃ、ゲオが悪い」と返してくれました。

 そうですよね。

 あのおっさん大笑いしてましたもんね。

「この宿でよかったです」

 商業ギルドの事務員であるタタンさんもおり、商業、冒険者ギルドのそばの宿という信用の高い宿ですから、もし、下手な場所だったらちょっと大事になったかもしれません。主に私の暴走で。

 あと、今の私は守られて当然とみなされる子供ではないという事実もちゃんと理解しておかねばならないのでしょう。

 以前ココにきた時は子供でしたからね。

 気を抜いていなかったかと言えば微妙ですから。

 大人としての行動を。と望まれても今までまともな見本があったかと思えばちょっと疑問なんですけどね。

 ほくっとしたお芋が美味しいですね。

 朝ごはんが終わった頃にガジェスくんが「迷宮に向かいつつ、必需品の買い足しに付き合ってください」と自分都合のように言いながら買い物機会を用意してくれました。

 美味しいお店を教えてもらいますよ。



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