第271話 おためし『蒼鱗樹海』
一歩入った『蒼鱗樹海』の道なき森を焼き尽くすネア・マーカス十歳です。
手応えからわかることは、魔物、半数以上別のフロアに移動していますね?
森番のお弟子さんと領主様が同行しているのですが、お弟子さん、領主様の横でブルブル震える布の塊と化していますよ。緊張しますよね。領主様。しかも現国王の弟さんの一人だそうですよ。身分高い割にこの世界の王族様はフレンドリーにもほどがあると思うんですよね。九歳児にしても、岩山の国の新人領主にしても軽いと思うんですよね。
ロサ家の九歳児は取り巻き込みで近寄り難かった気もしますが。アレ残念系って奴ですよね。
「暑いですから冷やしますねー。動いちゃダメですよー」
ティカちゃんたちを巻き込まないようにちゃんと冷却壁展開してますからね! なんか、「寒いっ!」ってティカちゃんが怒鳴った気もしますが、これからそこがこのフロアで一番あたたかくなるんですよ。
【少々過激では?】
葛の一掃にはこれくらいしておく必要があると思いますよ。しぶといようですし。あと迷宮への魔力補充も兼ねてますから。
さて最初のフロアは洞窟のトンネルを抜けると森林地帯にいきなり出るかたちでした。小さな丘がありそこから迷宮の本番フロアというわけですね。
警備隊長さんの話では次のフロアへのルートはまだ発見されていなかったはずです。エリアボス蛇は出入り口ウロウロしかしてないとプンスカしてましたからね。
ただ、警備隊長さんによると切り拓いた道が葛に汚染される速度が早過ぎて道を踏み固めていく猶予がないとのことです。
氷壁を解除して周囲を見回しますよ。
丘の正面に次のフロアに繋がると思われる細い道が微かに認識できます。段差等がそれなりにあるようで、木々の繁殖具合によっては迂回路とかが必要そうですね。場所によっては上からの特攻とかもあって楽しそうです。
ひとつのフロアはやっぱり広いですね。
森に囲まれた焼かれた土地。フロア境界でパキリと木の生えた土地とない土地が区分されています。
「町の方向はどっちだろうね。町までの道の葛を減らしておきたいんだが」
領主様のご要望にお弟子さんがとけた氷の水でぐずぐずになった焼け跡に足を進める。
「そっちなのかね」
ツッとお弟子さんの腕があがる。体毛に覆われたもさりとした手だ。その先には細く煙が上がっていた。
狼煙である。
【クノシー側の出入り口からも燃やした炎が見えたのでしょうね】
そこまで見えるものでしょうか?
天井のないオープンスペースのため見えてしまうことは、うん、理解はできます。
「あ、煙」
ティカちゃんが気がついたことを口にします。
「うむ。おそらくあちらがクノシー側の入り口なのだろう。つまり報告書に従うならばティクサー方面はこっちであろう!」
それなりに歩きそうではあるがあちら側にも進めそうな場所がありそうです。
【四方に道があるようですね】
そう、入り口はフロアの真ん中に近く、本来ならば木々と葛に覆われているため進みにくくなっているようです。つまり、今のうちですよ。
ふわりと浮遊感。軽やかに受け止めてくれたのはドンさんでした。
なにが起きたのか瞬きをしているところに警備隊長さんの声が届きます。
「焼け跡より魔物発生! 警戒せん滅せよ!」
ギィギィと魔物のなく声が響きます。
クノシーで迷宮の森を焼いて十日以上。
確かに対策は必要ですね。
さすが、エリアボス蛇です!
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