第268話 森に道をつくります⑥

 すべてをなかったことにして『蒼鱗樹海』の入り口に至る道を拓くことに集中しようとしているネア・マーカスですよ。

「現実逃避せずにやり過ぎはよくないとちゃんと姉としても言い聞かせなさいよ。説得力がたとえなくても!」

 ティカちゃんが酷いです。

「えー。でもきれいに使って欲しいですよ? 迷宮内の安全区画の惨状を思い出すとかなしいですもん」

 魔物が破壊したので今回の惨状はひどいものでしたが、でも、迷宮内の安全区画があれよりマシかって問われるとすっごく悩むんですよね。警備隊員さんたちの独身寮の惨状をこそっとティカちゃんに呟くと視線が泳ぎましたよ。警備隊員さんたちも視線が彷徨いましたね。

 洗い場スペースなんてほんっとひどかったですから。

「温泉って本来は身体を休める場所だけど、きれいに使う必要はあるよね」

 今回の浴槽の加工は色とりどりに流線が走っていて汚れがわかりやすくなってますよね。

 まぁ、いいんですが。

 それに。

「ハーブくんはわかってますよ。ちょーっとやり過ぎたことくらい。というかこのツルツルな焼き物をつくっときたかったんじゃないかと」

 うまく説明できないお子様はもどかしいですよね。陶器というかツルツル透明ガラスのコーティングがされてる気がしますよね。

 不満そうなティカちゃんですが、やっちゃったものはしかたないので次に活かしましょう。

「ハーブくん、人の多いとこでいきなりやっちゃダメですよ。驚いた人が心臓止めちゃったら驚いちゃうでしょう?」

 とりあえず注意だけして伐採開始しますよ。

 今日の道拓きの方向指示はどうなっているんですかね?

 隊長さんを目印にするみたいですね。次のポイントに案内してくれるのは、森番のおじさんとお弟子さんですね。理解しました。

 力を放つ場所まで細やかな採取をしながらむかいます。ちゃんと自分の足で歩きますよ。

「あ、山椒だ」

 弟くんがそう言って枝からなにか実を採取してます。

 さんしょ、風味系のスパイスでしたっけ?

「梅もあるねぇ。しっかり洗って蜂蜜に漬ければジュースができるかな?」

 高くてさすがに取れませんねぇ。

「ほーぅ、どこぞの迷宮では梅酒や梅シロップ、梅干しなんかがドロップするらしいぞ。そうか、実からも作れるのか」

 そう言いながら森番のおじさんが枝を引き下ろしてくれたので三人でもぎ取りました。

「傷がなくきれいな実がいいらしいけど、作ったことはないからなぁ」

「マコモお母さんが知っているかも知れないから帰ったら聞いてみようよ」

 梅干し食べたい。梅干し。

「そうなんだ」

「うーん、これも薔薇の実ね。薔薇の実はいろいろ種類があって楽しいのは確かね」

 ティカちゃんが硬い梅の青い実を不思議そうに見ています。

「皮が薄いわけじゃないけど傷つきやすいから扱い難しいよね」

 弟くんがもぎ取りながらそんなことを言います。

「軽く握ったくらいでは潰れないから大丈夫じゃない?」と言ったら二人とも「それはダメ」って同時に言うんです。仲いいですね!

 青梅けっこう硬いんですけどね。ダメなんだ。

「そのまま食べてもダメだよ。青梅は加工してから食べるものだから。熟れる前にもぐのは加工していくためだよ」

 そう。齧っちゃダメなんですね。

 熟れてない果実は甘さもないどころかえぐかったりするのは知ってますけど。そう。ダメなんですね。

「物知りなの? ギフトスキルの恩恵なの? ハーブは」

「鑑定スキルはものすごく便利だよ。姉さん、集積で梅の実ざっくり集めちゃってよ」

 あー、うん。そうだね。それが早いね。

「はぁい。そろそろ進んだ方がいいもんね」

 集積で集めて荷物袋に詰める。たっぷり集めてみましたよ。だってこの辺りの木々は伐採対象ですからね。

 収穫しながら伐採を進めたのですが、今日は迷宮入り口前までは到着しませんでしたよ。

 森番のおじさんが言うには「明日には無事繋がるな」とのことなんですけどね。

 あと、でてくる魔物がすこし強くなった気がしますよ。

 カマキリよりムカデが、ウサギより猪や熊がではじめましたからね。

 カマイタチを放つイタチとかも出てきてましたよ。イタチ皮で手袋をつくるとなかなか良いらしいです。

 手慣れていない経験の少ない冒険者だと数人がかりで討伐して、警備隊員さんやドンさんが補助したり間引きしたりを担当されていましたよ。

 あ、熊は単独で倒せない警備隊員さんもいました。新入りさんだったのかも知れませんね!

 お昼ちょっと過ぎに今日の伐採は終わり、採取と伐採までいかない剪定作業をしながら町に戻りましたよ。

 ティカちゃんもウサギやオオカマキリと戦う機会があり、満足そうでした。発散だいじですよね。

 私と弟くんも猪解体してお肉を確保しました。(行きにお弟子さんが血抜きぶら下げした猪ですよ)

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