第233話 方針
ウズラを五体無事に討伐終えたマコモお母さんに拍手を贈るネア・マーカス十歳です。
「お肉はふたつ。たまごはひとかご(五つ入り)。『挑発』のギフトがひとつ。ドロップは悪くありませんね。みなさんが迷宮探索を放り出してウズラを追いかけてしまっていたのはお肉だけでなく、この『挑発』効果もあったのでしょうね」
にこにことドロップ品を説明してくれます。
ちなみにマコモお母さんの狩りを見守っていた冒険者の人たちは『肉』と『たまご』に目を輝かせていました。
ウズラに『挑発』されて追いかけかけてマコモお母さんに扇で軽くはたかれて「横から入らないでくださいませ。打ってしまいそうですわ」と言われると『挑発』が解けるようでした。遠目に何度かそんなやりとりがあったのを確認していました。
ウズラは『ティクサー薬草園』二階層探索の大難関になっているようでした。確か、一日三体ポップして二階層に最大数は十五体。それ以上の個体は四階層に。つまり、四階層は今、ウズラ祭り?
ぐっと身体を伸ばしたグレックお父さんが「じゃあ、一度狙ってみよう」とマコモお母さんと交代しましたよ。
タンッと踏み切り、剣をふるう。
くさむらに隠れていたらしいウズラがぴょこりと跳ねる。
グレックお父さんは剣士なのです。
あ。ウズラ、グレックお父さんを挑発して逃げた。
あんなふうに呼び寄せて、逃げ回り、体力を削らせるそうです。あ。プチスライム蹴散らされた。
「狩れなくてもよい訓練になるでしょう?」
マコモお母さんがふんわり微笑みそう教えてくれます。
「挑発に対する抵抗力を得たり、駆け回り体力を伸ばしたり、逃げるウズラからどこまで目をはなさずにいられるか。とても訓練にいいわ。攻撃性のないスライムたちは人を堕落させるけれど、ああやって安全に訓練できるこの迷宮はよいものだと思うわ」
だ、堕落ぅ。
「動きにはクセがでます。魔力の流し方のクセ。逃げる時の動きのクセは思考のクセにつながります。どのタイミングでスキルを使うか、方向を変えるか。なにで敵の動きを測っているのかを観察することはとても大切なのですよ」
弟くんはマコモお母さんのお話に耳を傾けつつグレックお父さんの動きを視線で追っています。
「ネアは魔力が高いので動かし方が少し雑です。すこしの行動のための魔力が大きいので注意を集めやすいです。お母さん、あぶないのを注意しやすくてよいですけど、狩りや戦闘には適さないことをちゃんと伝えておきますね」
あう。
ダメ出しでしたよ。
「ネアはどんな風に魔法を使える人になりたいのかしら?」
どんな?
「だってね、ただこの町を抜け出すためでなく、これからは貴女がどんな自分になりたいのか追いかけてよくなっていくの。お母さん、そのお手伝いがしたいわ」
ええ。
どんな自分になりたいのか?
ええ?
ティクサーで家族で、穏やかに過ごせる日々?
どう答えていいかわからないでいれば髪を撫でられました。
「ゆっくりでいいんですよ。今まではあまりに考えることが許されない環境でしたからね。ゆっくりで」
ぎゅっと抱きしめられましたよ。
「いつまでもお母さんの腕のなかにいたいでもお母さんとっても嬉しいですからね!」
それはあんまりよくない気がする!
「お母さん、かわいいネアのためなら禁忌だってこわくないわっ!」
禁忌は手を出してはダメだと思います!
マオちゃんが聞いている横でなにを言い出しているんですか。マコモお母さん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます