第228話 当日の朝の雑談

 朝です!

 今日は家族で迷宮探索ですよ。

 着替えて清浄かけてお家の中に冷風を通し終えたネア・マーカスです。外はまだ暗いですよ。

「おはよう。ネア姉さん。早いね」

「おまえもです。おはよう」

 はっはーん。

「楽しみ過ぎて夜寝れなかったんですね。しかたない子ですねー」

 ふーふーふー。おーこーさーまー。

「まぁ、そんなところ。睡眠時間は足りてるけど。あ、そうだ。ネア姉さん」

 ん? なんですか?

「猪の腸詰、料理に使いたいから出してくれる?」

 はい、はーい。出しますよ。朝ごはん用ですか?

「いつでもあっつあつですよ」

「うん。よければ冷ましておいて」

 は?

 弟くん、こっちを見もせずに白い粉に卵を混ぜながら注文ですよ。油の用意はトカゲ氏が温度管理しているようです。

 いや、そんなことよりも。

 え?

「さますの?」

 食べやすい温度に?

 なんのために?

「うん。素材同士の温度差は小さい方がいいから」

 よくわからないけれど冷ましましょう。

「……! 姉さん、軽い冷風がいいな!」

 なにかに気がついたような勢いで弟くんが冷まし方の指定が入りましたよ?

 お水どっぽんはダメなんですね?

 わかりました。冷風で冷ましましょう。弟くんがその様子を確認して満足そうに頷いていますね。私がお姉さんなんですけどね。

「ネア姉さんって調理法あんまり知らないよね」

 んー?

「そうかなぁ。とりあえず焼くのと煮るのはわかるよー」

 だから食べたことのある料理を食べたくてもどうなっているのかはわからないけど、これは世界が違うと色々違うからしかたないと思うしなぁ。

「香草や塩が味を引き立てるのだって知ってるんだから」

 それに葛があれば葛餅作れるんでしょう?

「甘いクッキーには卵にバター、小麦とその同量の砂糖がいるとか?」

 パンより甘いからそんなものなのかな?

 ふ。確かにレシピに関して私は無知かもしれない。しかし、しかしだよ。

「弟くんよ。世界によってはチョコミントパイが直接なる植物も存在するんだよ。それを前にして製造法がどうなっているのかとか考えられると思う?」

「どこの未来から来た動物型ロボットの便利アイテムっ!」

 なに、それ?

 でも、状況は理解された?

 私は「ま、おいしければいいかな」って開き直るのに少し時間がかかったんだけどな。

 こほんと周囲を見回してから弟くんは声を落とす。ご近所さんとかが起きてないことの確認かな。けっこう庭木で音は遮られるけど、まわりが静かだと目立つからね。

「ああ、そっか。時代齟齬か元の世界が違うのかな」

 あ、そういう確認。

 冷えた腸詰にずいぶん柔らかい小麦と卵を混ぜた生地をまとわせていく弟くんの動きは器用だと思う。

「僕のいた場所では調理手段も含めて教わる機会があったからね。地元に学都みたいな専門学習施設があったから」

 例えは教会ではなく学都ということはちょっと専門性の高いことも教えてくれる場所ってことかな?

 教会では迷宮信仰系の教本の読み聞かせや冒険者になるための適性確認や訓練を孤児につけてくれるのだ。孤児以外は一応お布施が必要になる。

「学習院みたいな感じかな?」

 弟くんの言葉に私も過去の記憶を探る。学都が学習院なら教会の授業は話に聞く寺子屋な感じだ。

「ああ、学校はあったんだ。料理とかは習わない学校だったの?」

 んー。

「家政科の授業には参加したことがなかったわ」

 そもそも登校もあんまりしていなかったから。

 妹だと思ってた従姉妹が私の婚約者と仲が良くて居心地悪かったからなぁ。

 たぶん、最初から私を排除するのは予定の内だったんだろうなって思ってる。思い出すと少し沈んじゃうね。

「ネア姉さん?」

 油の中に衣をまとった腸詰が滑りこんでいく。

「弟くんはガッコウで習ったの?」

「学校でも習ったかな」

 ふぅん。

 きれいなキツネ色に揚がったという弟くんの言葉に覗き込めばふっくらしていてたしかにおいしそう。

 でも。

「マコモお母さんともマオちゃんとも毛色は違うよ?」

 キツネ色?

「じゃあ、黄金色」

 あ。確かにマオちゃんの色だ。

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