第184話 クノシー伐採二日目。エリアボス蛇と。

 お昼には甘芋と林檎のパイと栗と芋がごろごろ入った兎肉のパイをティパと呼ばれるお茶で流し込んだネアです。そのまま休憩がてらに迷宮管理空間です。

 表部分の葛は減少。あと少しだけ葛の繁殖速度を落とす設定を。エリアボス蛇は快く承知してくれましたよ。

『侵入者、フエル。フエレバ魔力フエル』

 歌うように楽しげに身を揺らすエリアボス蛇は無茶苦茶かわいいです。

「それには美味しい餌を増やさなきゃね」

 撫でながら告げれば頭を何度も上下させます。うん。振動ぅ。

『しゅがーぽっとぐらす?』

「あれはティクサー薬草園だけだよ」

 特色大事。

 ぶぅんっと大きく尻尾が揺れた。

 それは珍しく不満を含んでいるようだった。

『ズルイ』

 ぽつんともらされた不満の言葉につい笑ってしまう。すると余計に不満そうに尻尾がぶぅんと揺れる。

 かわいい。

「狡いの?」

『ズルイ。特別ナ物。甘イ。アルジ、好キ。しゅがーぽっとぐらす、うずら特別』

 んじゃ、割れると砂糖があふれる砂糖の実でもつくろうか?

 ……魔獣骨糖。魔物の骨の形状をした砂糖。採取物。

 迷宮内に発生する。表には反映されない。

『骨?』

「骨。残骸っぽいけど、採取物。上質の砂糖」

 砂糖の実なんてありふれているかなって思っちゃったんだよね。

 ついでだから『スズナリトマト』とかどうかな。鐘の形状で艶やかな赤い実をいくつもつける群生する植物。ケチャップとかソースの種類が増えるよね。味変大事だと思う。

 タマネギは普通に自生してるけど、迷宮産のごろっと美味しい青タマネギとかもいいよね。

 ……あ、図鑑パラ見したらカタクリとかソバとかノビルとかページがある。

 果樹の森もいいし、楠とかの常緑樹の森もいいよね。銀杏とかも好きだなぁ。

「奥の方にね、宝石の森が欲しい。回復の葉や毒消しの葉をつける宝石の植物が育つ宝石の森が。いつかそのための魔力を注ぐの。もちろん、宝石の植物はその枝葉の薬効を持つ部分を簡単に採取させちゃダメだと思う。難易度は高くなきゃ。五階層より奥だよね。やっぱり」

 顔を上げるとエリアボス蛇の顔がすごく近かったです。

『アルジ、エリアボス蛇ニ任セル。エリアボス蛇。『宝石ノ森』ツクル。アルジ、ヨロコブ?』

 アルジ、エリアボス蛇が頭を傾げるだけでも喜ぶ!

 かわいい。エリアボス蛇かわいい。

「喜ぶよ!」

 ぎゅっと下げてくれた頭に抱きついて何度も撫でまわす。

 植物系だから守護樹ちゃんも育てやすい? それとも宝石だから鉱石でしょとか思われちゃう?

 なんか、宝石の木も植物だから大丈夫と守護樹ちゃんからそうっと遠慮がちに伝えられました。

 ではおまかせですよ。

 ちょっと迷宮攻略の様子をみるに一番先に進んでいる冒険者のパーティでもまだ、荒廃した廃村にたどり着いていないそうです。

 錆びた武器や壊れた食器、崩れた本が散らばる廃村ですよ。昼夜があり、夜はアンデットが徘徊しています。昼間はアンデットの魔物たちが食器作成したり武具製作しているそうですが、討伐されることなくリポップしている人手っぽい者と化した彼ら、作成物の質が上がっていってるそうです。増えているアンデット魔物たちは今、二階層の同じ場所。現在のクノシーを再現した町で住人の真似事をしながら、町を整備していっているようです。

 冒険者が廃村にたどり着くようになれば間引きされていくだろうとエリアボス蛇談でしたよ。

 討伐されずに数が増えた場合、次は王都の再現をするそうです。しない予定はティクサーだけだそうです。ティクサーは『ティクサー薬草園』で再現してますからね。

 ……あ。魔物たちが移動して迷宮内再現部で道を維持しては? とかちょっと思ったけど、これは採用してはいけないヤツだ。うん。ダメ案件。むしろ道をつくるなら意味のない場所につながらなきゃね。

「すべての道はエリアボス蛇に通じる!」

 みたいな。

『任セテ。アルジ!』

 今日は迷宮入り口まで道をつくるからね!

 魔物を氾濫させるわけにはいかないんだから。さっさと冒険者の人達が来やすい環境をつくらないと!

 なんで、こんな手をかけてるの? わかっている。わかっているの。葛が存外邪魔すぎただけだよね。

 だって美味しい葛餅が食べたかったの。

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