第75話 そのころ地球では。エルネスト探査艦隊


 日本国内では、スカイスフィア研究所が提供する安価な電力により、製造業の製造コストが格段に改善され国際競争力が強化されていった。その結果、海外に製造拠点を持っていた日本企業の国内回帰の動きが顕著になっている。地価が比較的安価で、交通の便の良い地方都市周辺で新工場の建設ラッシュが起きている。もちろん大都市からのUターン組も増加している。



 スカイスフィア研究所の事業はX金属による発電が主力だが、推進装置の提供も開始した。提供先は防衛省で、潜水艦の推進装置として使用する。燃料は水素なので海水から無限に供給することができる。またスクリューがない上、動力系にノイズ発生源がないため、完全無音潜航可能だ。


 これまでの通常動力潜水艦では電池関係が艦内の容量の多くを占めていたが、そのスペースが魚雷室の拡張や艦内居住性の向上に使われることになる。最初のX金属推進器による潜水艦は1年半後の竣工を目指して現在建造中だ。


 第一期分の潜水艦は艦内タンクへの注排水により潜航浮上する設計だが、第二期目以降の潜水艦はX金属推進装置で無理やり潜航する予定で設計に入っている。第二期分以降の潜水艦にはメインタンクがなくなるためさらにスリムかつ艦内容積が大きくなりより強力な潜水艦となる。


 X金属発電機やX金属推進器といった技術は簡単に模倣できるものだが、X金属の存在が前提の技術であるため、当然スカイスフィア研究所の独占技術となっている。


 スカイスフィア研究所ではスカイスフィア3の持つ超先進技術についての情報公開は一切行なっていない。そのことについて、環太平洋防衛機構に加盟する各国を含め科学技術について情報開示要求が各国から出されているがスカイスフィア研究所は無視している。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 エルネストの主星系から送り出された探査艦隊は何度かエルネスト領域内のゲートを通過していき、コルセアが封鎖する星系への入り口のゲート前に到着した。


 探査艦隊は最近コルセアの常套戦術となっていた小惑星をゲートに突入させその先で待ち受ける防衛艦隊を消耗させた後に本艦隊を突入させる作戦をとった。


 結果的にはゲートの封鎖艦隊は小規模だったこともあり探査艦隊は無傷でゲートを突破することができた。


 その後もエルネストの探査艦隊は数回コルセアのわずかな封鎖艦隊が守るゲートを突破し星系守備艦隊を撃破していった。そしてついにコルセアからの迎撃を受けない未知の領域に達した。


 コルセアの領域を抜けたと判断した探査艦隊は未知の宇宙文明の手掛かりを探して新たな星系を精査したがその痕跡を見つけることはできなかった。



 このゲートを潜り抜けると目指す未知の文明が占有する星系の可能性が高い。というゲートを数回潜り抜けた探査艦隊は次のゲートに向かった。


 もちろん高度な技術を持つ宇宙文明が一つの星系だけを所有する単星系文明の可能性は低いだろうし、その本拠地星系が言わばむき出しで、これほどエルネストの領域に近い距離にある可能性は低い。調査艦隊では、もし目指す文明に所属する星系であったとしても、その最外縁の拠点星系であろうと考えていた。



 それでも彼らは手順通り戦闘準備を整え、星系内で捕獲した小惑星をこれまで通りゲートに突入させた後からゲートに侵入した。


 結局探査艦隊は何の妨害を受けることなく無事に立派な輪を持つ惑星近傍のゲートを通過することができた。


 ゲート突破後、ゲート近くから艦隊に向けて発せられたと思しき指向性電波信号を受信したが、戦闘警戒中であり信号は無視した上、電波の発信源を速やかに破壊してしまった。


 周辺の安全が確認された後、探査艦隊は当該星系の探査を開始した。探査開始後間を置かず、内惑星より各種の信号電波が漏れ出ていることを発見したが、技術レベルが幼稚過ぎて、探査艦隊が求める未知の宇宙文明ではないことは明らかだった。それでも一応の知的文明ではあるのでエルネストの植民地にすべく、エルネストの主星に対し中継器経由で情報を送った。しかし分析を進めた結果、その惑星の大気の組成が判明するにおよび植民地化は断念した。


 その後もその惑星、当該星系第3惑星に対して探査を続け、光学観測を行なった結果、衛星軌道上に多くの宇宙構造物を発見した。そして多数の大型宇宙船が惑星を周回していることも発見した。


 第3惑星から順位精査していったところ、第5惑星には大型の宇宙井戸を発見した。


 あまりのちぐはぐな技術水準に探査艦隊司令部は混乱したものの、第3惑星に侵攻し、惑星上の生物を根絶することを決定した。エルネスト人にとって致死性の酸素を20パーセントも含んだ大気に覆われた惑星は植民惑星として利用価値なしだったことがこの決定に大きく作用した。


 未知の文明と戦った場合、どういった武器が使用されるのか不明だったため、敵艦と交戦は避け、探査艦隊、大型巡洋艦24隻はゲート前面に陣取り、第3惑星を焼き払うべく、全力攻撃を行ない、攻撃の成否にかかわらず初撃を放った後は、観測機を残しゲートより速やかに退避することとした。



 探査艦隊の地球に対する光学観測時、探査艦隊から見て日本上空で滞空するスカイスフィア3号が地球の裏側であったため観測できなかった。もし、スカイスフィア3号の存在が明らかになっていればまた違った未来があったかもしれない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 エルネストの探査艦隊が土星のゲートに現れた段階で、ゲート監視衛星からスカイスフィア3に未確認人工物のゲート通過警報が送られている。ドーラから呼び出しを受けた4人がブリッジに集合したところで、ドーラが説明を始めた。


「宇宙海賊の宇宙船と形状のよく似た宇宙船群が土星ゲートから出現したところを監視衛星が捉えたの。宇宙船群の総数は24。現在ゲート前に陣取っている。こちらからはゲート監視衛星を通じて各帯域の電波を使って『英語』で呼びかけたところ、反応はなく間を置かずに監視衛星からの信号がなくなったの。ゲート監視衛星はその宇宙船群によって破壊されたみたい」


「呼びかけの電波を攻撃と勘違いしたということはないか?」


「電波は指向性を持たせてかなり強い電波だったから、そう捉える可能性がゼロとは言えないけど、あれだけの宇宙船を揃える文明でただの信号電波を攻撃と捉えることはないんじゃないかな」


「宇宙船の形状が宇宙海賊の宇宙船とよく似ている・・・・いうのは、宇宙海賊と断定できないってこと?」と明日香。


「そういうこと。断定はできないけれど、同根の文明を持っている可能性は高いと思う」


「ということは、宇宙海賊並みにそうとう物騒な連中だと考えていた方がいいというわけだな」


「監視衛星をいきなり破壊したわけだし警戒は必要と思う」


「対応方法を具体的に考えていこう」






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宇宙のスカイスフィア 山口遊子 @wahaha7

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