第74話 宇宙海賊HK団


 スカイスフィア3がいつ現れてもいいよう星系に存在するゲート前面に核融合機雷原を敷設して迎撃態勢を整えた金田光たちだったが、肝心のスカイスフィア3は現れなかった。一度、球型の小型宇宙船がゲートに接近してきたが、ドローンだったようで、ゲートの先で展開していた金田麾下の防衛艦隊で簡単に撃破してしまった。その後、スカイスフィア3の出現を待ったが、待てど暮らせどスカイスフィア3は現れなかった。


「予想が外れたことを喜ぼうじゃないか」


「提督、負け惜しみですか?」


「いや、誰にも負けてはいないだろう」


「はい、はい。それで、これからどうします?」


「核融合機雷は今のところ無駄になっているが、スカイスフィア3に限らずコルセアが生れた文明の宇宙船とか招かざる客がいつやってくるか分からない。腐るもんじゃないし、このまま置いていてもいいだろう。

 この星系から打って出るにはまだまだ戦力は不十分だ。出ていくのは十分力を蓄えてからのつもりだ。これからは戦力拡大のため、大型艦を作ろうじゃないか。コルセアの本拠地が破壊された以上俺たちは独り立ちして新たな宇宙海賊になればいい。というかもう立派な宇宙海賊だがな。

 センター!」


「はい。提督」


「この星系の防衛力強化のための機雷敷設はこれくらいでいい。次は大型宇宙船を建造して、それから勢力の拡大だ。

 戦力が揃ったらこれまで通りエルネストに侵入して、勢力を拡大していこう。

 これから建造するのは、重装甲、重武装の本格戦艦だ。そうだな、戦艦が32隻揃うまでは積極的な行動は控える。いいな。こっちから仕掛ける時は常に最大戦力で当たる。それが戦術の基本だ。戦略の基本は、敵に当たる時は常にこちらが優勢な状況を作り出すことだ。

 センター、よく覚えておいてくれ」


「了解しました。

 提督こそ、わがコルセアの指導者です」


「提督、俺もセンターの意見に賛成だ。あんたは、やっぱり大したものだ」


リン、おだてても何も出んぞ」


「おだてたわけじゃないんだが」


「まあいい。とにかくじっくりやっていこう」


「はい」「はい、提督」


「それと、旗艦も建造するぞ」


「旗艦ですか」


「旗艦と言っても先頭に立って戦う気などサラサラないが、このHK号ではいかにも脆弱だろう?」


「確かに。攻撃を受ければ一撃かもしれませんね」


「攻撃力は新戦艦に任せて防御力を上げた大型艦を作ろうと思う。

 そうだな、全長6キロ、直径500メートルほどのシリンダー型の超大型宇宙戦艦だな。その中にこのHK号を格納する。名まえはHK2号だ。HK号の中だけの生活はさすがに厳しいものがあるから、内部に地球環境を作る。センター、可能だろ?」


「可能ですが、提督。建造の優先順位はいかがしますか?」


「戦艦との並行建造は難しいし、戦艦32隻より大掛かりだから、戦艦の竣工後だな。

 そういえば、戦艦の乗組員の手当は可能なのか?」


「拠点惑星より徴兵しますから大丈夫です」


「徴兵しただけの兵隊が使い物になるのか?」


「複雑な作業は無理ですが、単純作業は可能です」


「機械化、ないしロボット化はできないのか?」


「可能ですが、徴兵の方が低コストです。また、惑星居住民にある程度の緊張感を与え続けることは有益です」


「なるほど。タダの戦艦の方は任せるから適当にやりくりしてくれ。

 だが、その後に建造する旗艦となる超大型戦艦の中に塩素環境なんぞ作りたくはないから、そういった生身・・は不要だ。旗艦内に乗組員が本当に必要ならロボット乗組員にしてくれよ」


「了解です」


「おおまかでいいが、工期はどれくらいになる?」


「旗艦完成まで含め12カ月程度と思われます。旗艦建造ドックは新造するため、戦艦竣工後これまでの建造ドックが空きますがどうします? 巡洋艦以下の補助艦艇を建造しますか?」


「全力で旗艦建造に当たってくれ。消耗前提の艦は現存の艦だけで十分だ。

 いや待て、低コストの超小型艦を大量に作るのも手だな。ゲートに突っ込ませて弾避けに使う」


「コストを下げるため操縦は徴兵した兵隊を使いますか?」


「センター、そこまでする必要はない。住民は大事に使おう」


「さすがは提督です。今の提督の発言は記録していますので、惑星住民に対するプロパガンダに使用します」


「適当にやってくれ」


「はい。頑張ります」




「センターのヤツ、妙に張り切ってますね」


「そうだな。これまで無能な上に仕えていたってことじゃないか」


「確かに。有能な上官のもとに配属されて俄然やる気を出した古参兵って感じですね」


「俺は兵隊の経験などないから、そこらへんの機微は分からないがな。

 一年間じっくり我慢だ。

 そのあいだ、俺たちのできることはほとんどないからそれだけが心配だ」


「なにか、圧倒的な武器でも考えてください」


「それもそうだな。

 それについては、以前考えていたものがある。

 反物質砲弾ないし反物質プラズマビームだ。

 どちらも原理的には簡単だが、反物質生成のための大掛かりな装置が必要なところは同じだ。反物質の必要量はビームより砲弾の方が少なくて済むが、今のところ砲弾に反物質を詰め込む技術がない。まあ、反物質の歩留まりは半分になるが、反中性子の周囲を水素原子で覆ってやれば砲弾への封入もできそうだが、技術的なハードルはかなり高い。

 さしあたって反物質プラズマビーム砲の研究開発だな。

 この俺が制約なしで真面目に取り組むわけだから、1年もあれば形にできるだろう。いずれにせよ敵に命中すれば一撃だ。必要な反物質を作るには、敵を破壊するのに必要なエネルギーの数十倍もエネルギーを必要とするがな」


「反物質については、あらかじめ準備しておけばいいだけなんでしょう?」


「いや。砲弾と同じで今のところ貯蔵技術がない。その場で作っていく必要がある。反物質ついてはコルセアの核融合技術を応用すれば、かなり効率よく生成できる。

 6カ月で開発の目途が立てば、旗艦の兵装は反物質プラズマビーム砲になる。そうなると、旗艦の内部はかなりの部分反物質生成装置が占めるだろうな。ついでに超小型艦の母艦にしてしまおう」


「センター、その辺りを考慮しておいてくれ」


「了解しました」


「提督、

 その辺りのことはわたしは全く駄目ですが、われわれも独立したわけですし、独自の名まえを考えませんか?」


「俺は名まえなどどうでもいいから、お前が適当に考えろ」


「いいんですか? そう言っておいて、後から文句を言うのはなしですよ」


「文句を言うのは、当たり前だろ」


「そんな。

 それなら、もうHK団でいいんじゃないですか?」


リンのことだから、ストローハットとか言い出すかと思ったがなかなかいいじゃないか」


「なんとなく、あんたの思考法が分かったような気がするよ。これから何かに名まえを付けるときはなんでもHKを付ければいいんだろ?」


「よくわかってるじゃないか」



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