第79話 遺跡というダンジョン

「無い無い無い。道が無い」


 思わず歌ってしまった。

 ずいぶん昔の曲。

 動画サイトで一度見て、フレーズがまだ頭に残っていたらしい。


 現実逃避をしても、目前の進路をふさぐ土砂は無くならない。


「掘るか?」

 と、皆を見回す。


「これ。勾配が付いている所に、まっすぐ堆積していますよね」


「勇者。いや、もう並木君でいいや。君もそれでいいだろう」

 頷く、並木君。

「そうですね。もう聖国もなくなっちゃったし」


「それで、どう見るね。これ」

 そう言って、俺は、目前の土に埋まったトンネルを見る。


 さっき、並木君が言ったように、下り勾配が付いている所に、長年土砂が流れ込み堆積している。


「ハイヒューマンが居たのって、何千年も前だっけ」

「そうじゃな」

 物知りフェンが答える。


「となると。最悪、一番低い所からここまで。全部埋まっている可能性があるな。どうする?」

「あの魔道具は、使えないの?」

 みちよが言っているのは、獣人国で作った切削用魔道具。穴掘り君の事だろう。


「あれ使えるのかな? ここの壁って、前に霊体でも抜けられなかったよな。試してみるか」

 亜空間庫から取り出して、セットをする。

 起動して、ちょっと斜めに掘る。実行。

 土が消えて……。


 同じ所に戻って来る。


「へっ? 戻ってくると言うことは、ひょっとして転移も使えないのじゃないか?」

 少し後方へ、転移してみる。

 魔力を練っている途中で、魔力が霧散する。

「みんな、魔法を使ってみてくれ」


「なんじゃ?」

「使えばわかる」


 フェンが試したのか、変な顔をして首をひねる。


「なんでだ、俺も使えない。ランブルに繋がっているダンジョンじゃあ、使えたのに」

 並木君がわめいている。まあ本当だろう。昔から侵略の為に行き来していたらしいから、使えなければ話は伝わっているはずだ。


「ということは、ここが特別なのか?」


 俺たちは、しばらくうろうろと、側道に繋がるドアを、期待して探したが見当たらず、あきらめた。

「いったん出て、逆から来よう」


「同じかも、しれないけどね」

「ここで、うろうろしても、時間が経つだけだ。こんなこともあるさ」


 転移が使えないため、歩いて戻る。

 戻る道中でも、ドアの見落としがないかは、気にしてみるが見当たらない。

「いくら何でも、メンテナンスとか必要だと思うんだがなあ」

 つい、ぼやきが出てしまう。

「それは、私たちの常識だからそう思うのかもね」

 みちよが言うことも理解できる。


「もし材料の耐久性とかが上がって、数千年持つなら、点検なんか必要はなくなるか」

 ありえない話ではない、物が劣化するから定期的なメンテナンスや点検が必要になる。でも一切劣化しなければ、当然そんなことは無駄なものとなるか……。


 千年以上持つ材料? 実際に目の前に存在しているが、そんなことが可能なのか? おれはふと、思いついた。


 使えない魔法。あの時、魔素を集めて塊に属性を付与する前に霧散した。

 メンテナンスに周辺の魔素を使って、リペアの魔法みたいなのがあれば、点検なんかしなくても、魔素がある限り構造物が修復され続けるんあじゃないか?


 そう思ったフェンに、聞いてみる。

「なあフェン」

「なんじゃ主」

「この周辺の、魔素濃度に違和感はあるか?」 

 周りをきょろきょろと、見回すフェンだが、

「特に、違和感はないのう。何か感じるのか?」

 と言われ、一応みんなに考えを伝えてみる。


「……と言うことで、周辺の魔素を集めて修復を行っていると思ったんだが、魔素の濃度に異常は無いようだ」


 それを聞いて、みちよが、

「壊れていないから今は魔素に異常がない。壊れて修復が始まれば薄くなるかもしれないし、もっと考え方を変えれば。ほら、シールドのエネルギー。あれも、ずっと吸い込んでいるから、低い状態を私たちが普通と思っているのかもしれないわよ」

 と持論を述べる。


 そういえば、フェンが空気中の魔素には斑があると言っていたな。

 実は、魔素は均一で、使っているために不均一になっている。そういう可能性もあるという事か。

「あり得るかもな、何かで使っているから、必然として濃度が薄くなる」


「やっぱり、膨大な施設を維持しようとすれば、何らかのエネルギーは必要よね」

「斑があり魔素の薄いところがあれば、何らかの施設があるのかもしれないよね」


 おとなしく話を聞いていたが、突然、並木君が口を開く。

「なあ、よくゲームとか、ラノベでさ。ダンジョンの奥には管理者とか管理クリスタルがあってダンジョン全体を管理とか修復とか、している可能性もあるのかなあって思うんだけど」

「ダンジョンは、地下牢だから監視が居るのか。ここはトンネルという施設だから管理者だな。まあその思いがあって、最初から側道とかを探していたんだけどね」

 うーんと、並木君が考え込んでいる。


「管理するなら、やっぱり真ん中だろう。ここは近づけないけれど、ほかのダンジョンならいけるだろう。確認しようぜ」


 みんなと、どうする? と顔を見合わせる。

「なら、そうしてみようか。せっかくの助言だ」


 なぞは増えるばかり、さてどうするかな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る