第63話 獣人族王都探訪

 と、いうことで、勇者です。

 ここにいるときは、ただの並木勇気(なみきゆうき)。

 なぜか、獣人族の王都で自由行動中。


 一応身分証明だと言われて、宰相さんから、変なメダルをもらった。

 ヒューマンだから、目立つかもと思ったが、周りも特に毛深いわけでもなく耳さえ気にしなければわからない。

 ズボンから尻尾が出ている人もいるが、そんなに多いわけでもないらしい。


 城の周りには、運河として使用されている堀が、ぐるっとあり、橋はすべて跳ね上げ式。


 うん? あそこから壁に上がれるのか。上がってみたいな。

 止められたら、止められた時だ。


 歩いて移動をしていると、歩道位の段差で区切られた道がある。普通に乗り越え歩いていると後ろから、

「横断禁止だ、馬車が来るぞ」

 と誰かが叫ぶと、城の方へ向かって、すごい勢いで馬車が走っていった。

 その辺でも、馬車がゆっくり走っているから、あそこは、馬車優先道路なのか?


 道もそこそこ広いし、整備されている。

 神聖国の町中より、整備されているんじゃないか?


 壁は5mちょっと位? すぐ乗り越えられそうだな。

 階段のところに人が居たので、上がっていいかと聞くと、良いよと軽く返事を返された。

 

 階段を上がると、壁の内側の街並みがよくわかる。

 堀を囲む6か所に、店が等間隔に建てられていて、隙間に公園みたいなものもある。


 そんなものを見ながら、壁の上に上がると結構広く。壁の内側は円なのに外は結構出っ張りがある。ずっとレールが引いてある。木のレールってすごいな。初めて見た。


 天井がずっと取り付けられて、外側の壁と一体化させてある。火縄銃でも使うための雨除けだろうか? 魔法の方が、効率はよさそうだけど。


 まだ、外壁部分は工事中のようで、山側から? なんだあれ? トロッコがジェットコースターのように降りてきている。


 ぐるっと回ってみるかと思ったが、一部は工事中で、進むことができなかった。まだ工事中の所で不思議なものを見た。


 外壁のでっぱり部分の空中に、突然土が現れ。落ちて行った。

 周りの作業している人を捕まえて、聞いてみると、穴掘りの魔道具があって、掘った土を、今はここの場所に転移させてきている。と言われた。


 あの罠で掘られた土は、ここに来ていたのかもしれない。でもそんな魔道具。見たこともない。

 もしかすると、ヒューマン側で獣とか出来損ないと言われている、獣人国の方が、圧倒的に進んでいるのじゃないか?


 そう思ってみると、城壁の上にはボウガンが多数並べられており。超大型の物もある。それに、このレールは、城壁の中にエレベーターが付いていてトロッコが上がってきている。


 あのまま、侵攻をしてきて。ここまでくる。

 攻撃をするとしても。よく見れば、通路の狭い所でも5m以上はあるし。

 でっぱり部分は、30m? いやもっとあるな。


 攻城兵器は、木で組むとか言っていたけれど無理だろう。

 入り口の門だって、中と外に有って、その間はクランクになっている。日本のお城のようだ。

 そこまで考えて、にやけたおっさんの顔が、頭に浮かんだ。


 あのおっさんが、黒幕か。……それで、あの宰相さんの態度。完全に王様より、立場が上そうだったもんな。


 もしかすると、魔道具を作ったのも、おっさんか? いったい。何者なんだ? あの二人も完全になついていたみたいだし。……あのフェンとかいう、きれいな子も。ちくしょう。


 一人で、異世界ハーレムかよ。


 少し落ち込みながら、城壁の出っ張り部分を意識して、上から見た図を想像する。

 

 星形と言うことは、死角がない? それに、壁に対して、まっすぐ攻撃をあてようと思うと、かなり斜めから攻撃をしないとだめだ。それに、この壁は単なる壁じゃなく中身が土で埋まっている。穴をあけるのだって大変だ。


 まあ、上から魔法でも撃ち込めば有効だろうけれど、シールドがあるよな。それもヒューマン側のような、術者じゃなく魔道具がありそうだ。こんなの勝てるわけないじゃん。


 こんな事。仮に伝えても、教会の連中は信じないだろう。絶対自信がある。


 さて、どうしようかな?




 その頃。ヒューマン側。侵攻前線基地の村。


「勇者様が居なくなっています」

 張られていたシールドが無くなり、テントに踏み込む。だが、そこに勇者はもう居なくなっていた。

「すぐに連絡をしろ。とうとう、上位の者が居なくなった」


「これでもまだ、撤退をさせてくれませんかねぇ」

「上でふんぞり返っている連中は、何も見ていないからな」

 兵士たちは、一様に悔しそうな表情を見せる。


 その3日後。聖都教会本部。

「一体。どうなっておるのだ? たかが、獣たち相手に。勇者は、十分力をつけていたのだろう?」

「それが。ダンジョン出口に使われた魔法も、見たことがないようなレベルの魔法で。にげか……いえ。情報を持って帰って来た、司祭の話では、人間業じゃない魔法だと言うことです。200mくらいの範囲が、一瞬で灰になったと……」

 どういうことだ? 伝えられた話では、獣人は筋肉馬鹿で、魔法はそんなに得意ではなかったはず。魔人族でもあるまいに……。


「魔人族が、獣人族に手を貸しているということは、無いのだろうな?」

「中間に、我が国がありますので、それは無理かと、思いますが?」


「そうだよな。さて、どうするべきか。……簡単にやめられるレベルでもない。突っ込めば被害が増えるばかり。女神さまに与えてもらった、召喚者は、すべていなくなってしまった」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る