第62話 どうしよう
「それで? 教会の偉い手さんは、どうなったんだ?」
「はっ。確認が取れたのは、ダンジョンの入り口に陣を敷いていた時までで、魔法攻撃後。行方不明です」
まあ勝手に動けば、後々めんどそうだから、問い合わせはしておくか。
「おい。連絡をして状況を教会へ伝えろ。返事が来るまでは食料等を制限しつつ。各自休息を取れ」
「はっ。承知しました」
連絡鳥を用いて連絡を取る。だが片道3日。
それを受けて、教会内部でもめて。それが2日。
その返事を連絡鳥を用いて届けてくる。それがまた3日。
「報告いたします。返事が参りました」
「読んでくれ」
「はっ。王都陥落を目指せ。必要なものは送る。とのことです」
「わかった。下がっていい」
教会の連中。後に引けなくなっているな。おかげでこっちも四面楚歌という状況だな。さてと……。
簡易な看板を作り。立てて来てくれるよう、兵に頼んだ。
内容は、『話がしたい。連絡待つ。ヒューマン側勇者。 並木勇気(なみきゆうき)』だ。
看板が立てられた時には、魔道具により王都の広場に表示されていた。
「なんだよ。もう終わりか?」
「俺の考えた罠まで来てないぞ。もうちょっと根性見せろや」
「いや、あの罠の後で、あの大魔法を食らったんだ。よく持った方だよ」
獣人族。王都内では賛否両論だった。
「と言うことで、最前線部分に立札が立てられました。内容は、話がしたいのみ。で講和とも書かれていません。では」
「おい。宰相……」
さっさと出ていく宰相。
うなだれる王であったが、今回は違った。30分も泣き濡らした頃、宰相が再びやって来て。魔道具に向かってしゃべり始める。
「見つけました。はい、お待ちしています」
と、いうと、すぐにあつし達が転移してきた。
宰相は聞いていたので平気だが、王は椅子からずりこけるほど驚いた。
「それは、転移か?」
「そうです。まあ、それは良いが、ヒューマン側勇者に会いに行きましょう。我々も行きますので」
「こっちから、出向くのか?」
「こっちに来させる方が、面倒です。勇者の居場所は把握していますので、行きましょう」
「わしは要るのか?」
「王が居なくて、どうするのですか?」
「そうだよな」
そういうと、王は急に元気になった。
スキャンをかけて、勇者の周りの人の動きと罠を調べる。
転移すると同時に、シールドをテントの内側に張る。
「よう。久しぶりだな、並木君」
声をかけると、やっと、気が付いたようだ。
「うん? あっおっさん。生きていたのか。それに妙子に万世さん。なんだ、その組み合わせ」
「まあ。それもいいが、獣人族の王に、用事があったのじゃないのか?」
驚いてあたふたしている、勇者の言葉にかぶせる。
「ああ、そうだ。これだけ負け続けて、要求もなんだが。俺たちの住める場所をくれないか」
「それは、ヒューマンへの領地の分割という事か?」
王が王らしく、言葉を発する。
勇者は首を振りながら、
「隠れ住むという感じでいい」
と、ボソッと言った。
「あの教会の奴らは、話が通じねえ。自分たちだけがよければいいんだ。この状態でまだ獣人族の王都を取れと言って来ている」
王が何かを言おうとしたが、割り込む。
「君がよくても。兵たちは獣人に対して差別があるだろう。どうするつもりだ」
「それは。……あるけれど。きっと、わかってくれるだろうと思う」
「こちらを呼ぶ前に、そちらで話を詰めておくべき話だったな。君が思う以以上に、子供のころから刷り込まれた、常識というのは面倒な物なんだよ」
そんなことを話していると、テントの表が騒がしくなってきた。
シールドを破ろうと、槍や剣で攻撃をしているようだ。
「そろそろ時間がないようだな。君以外の指揮官はいるのか?」
「いや。今はいない。先日のダンジョン前で、消滅したようだ」
「そうか。じゃあ君をさらっていこう。それで、しばらくすれば、自発的に撤退してくれないかな。様子を見よう」
頭に、?を浮かべている勇者ごと、王城へ転移をする。
「ここは。獣人族領の王都だ。君が望んでいた所だな。そうだな、2週間ばかりゆっくりしてみようか。宰相。部屋を頼む」
「はっ。お任せを」
と、言って下がっていく。
「王。……フェーラ王。と言うことで、しばらく厄介になります」
「あっああ。好きにしてくれ」
「と、言うことで、強制的に獣人族の王城に来ちゃったけれど。坂下さんごめんね」
「ううん。大丈夫です。みちよちゃんのおかげで、あの悪夢も見なくなりましたし」
「そうか。文明レベルが低いから、王城と言ってもたいしたことは無いが。見識を広めるにはいい経験かもしれんな」
「ありがとうございます」
それまでじっとしていた、勇者。
ちょっと余裕が出たのか、しゃべり始めた。
「俺も普通でいて、いいのか? 捕虜だろ?」
「なんだ変わった奴だな。牢屋に入ってみたいのか?」
「いや。そうじゃないけど。これで俺が王様を殺すとかしたらどうするんだ?」
「まあ。できないだろうが。代わりはいるから大丈夫。多分」
「ひでえ」
「それと、並木君。俺の名前は、神代篤司(かみよあつし)だ。苗字でも名前でもいいが。君がおっさん呼びするたびに、フェンの機嫌が悪くなって。髪の毛が逆立ってきている。直した方がいい」
そっと後ろを振り向いた並木君は、フェンの殺気にあてられ、全身に鳥肌をたてていた。
「はい。注意します」
「ああ。いい子だ」
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