第50話 王都改造
「それで、馬車道についてだが。優先道路に変わりはない。ただ高架にすると金がかかるし馬も大変だ。そこで道を、ちょっとした壁で区切り、その中は馬車優先として運用をする。横切る部分を制限して、そこには管理者を置く。つまり馬車が見えたときは横断を止める役だな。この道はあくまでも門から貴族街への移動専用だ。町中へ行くなら、今まで通りで運用してもらう、その場合は人が優先だ」
「ほう」
「結構な頻度で、急いでいる馬車と、人がぶつかる事故があったのだろう?」
「そうですな、今でも毎日起きています」
「なら、早急に対応してくれ。壁の高さはレンガ2個くらいでいい。下の煉瓦は隙間を開けておけば、雨の時に水が抜けなくて困る事への対処と、ついでに材料の節約にもなる」
「早速命令を出します」
「道ができてからでいいが、馬車を運用する奴に言っておけ。専用道以外は人が優先だ。けがをさせれば治療費が必要だし、仕事を休む必要があるなら、その補填もするようにと」
「はい」
「なあ最近。王都の中も外も工事がされているな」
「今は壁の縁に、小屋を建てていた貧乏人が居なくなったぞ」
「あれは、壁の縁に沿って、木でレールとかいうのを敷いて、武器や矢を簡単に運べるようにするらしい。それで住んでいた奴らは立ち退かされて、今は塀の外で、みんな仕事をしているようだ」
「仕事って言っても。あいつら病人もいたし、腕とかをなくした奴らだったじゃないか」
「なんでも、聖者様が治してくださったらしい」
「そいつはすごいな」
その頃教会では。
「枢機卿。どうしてこうなったのじゃ? 何か申し開いてみよ」
「はっ、私にもさっぱり」
「王と宰相にしてやられ、知識を独占されてしまったではないか。何とかしろ」
「しかし。下手なことをしても、フェンリル様の怒りを買うばかり。どうすればよろしいでしょう?」
「自分で考えろ」
「……はい」
「なあ、大司教。この王都にフェンリル様が逗留されておる。何とか機会を得てフェンリル様、それと何ならハイヒューマン様にも教会のお力になって頂きたいのだ。分かるな?」
「はい、しかし私ごときでは、相手方のご機嫌を損なうのではないでしょうか?」
「そこは自分で考えて、うまくやれ」
「……はい」
そして。
「各教区の司教、君たちに集まってもらったのはほかでもない。現在この王都にフェンリル様が、人型をとって降臨をされておる。教会のためにお力になって頂くには、どうすればいいのかを、皆に案を出して頂きたい」
「よろしいでしょうか? 大司教。フェンリル様に、教会のためにお力を貸して頂きたいというのは、具体的にはどうして頂きたいのでしょうか? それが不明では、案の出しようもありません」
「ぐっ。それはだな。炊き出しの時にそばにいていただくとかな」
「そんなことに? そんなことに、フェンリル様のお手を煩わすのは、不敬ではありませんでしょうか? それに、いろいろな所で行われている工事のおかげで、助けていた貧民街はなくなってしまいました。炊き出しも、もう行っていません。私たちが治せなかった病人たちも、ハイヒューマンの聖者様が、全員治療してくださって、完治しております。今現在、われわれもあの御一行様に、ずいぶんとお世話になっているのですよ」
「そうなのか?」
「各教会から、報告は書面にて伝えています。皆も出したであろう」
「「「出しています」」」
「そうか……」
「逆に、フェンリル様方のお役に…… どうすれば、教会が役に立てるのかを思案と議論をするべきではないでしょうか?」
「「「そうですよね」」」
「……そうじゃな。それがいいだろう。皆フェンリル様のお役に立てるよう、考えて行動をしておくれ」
「はあ。……どう報告するべきか」
「なんじゃ。この報告は?」
「いえ。それがその……」
「今現状で、フェンリル様方は、王都と民に対してご尽力くださっており、教会は変な手を出して邪魔をすべきではない。それよりも、教会側がどうやってフェンリル様のお役に立てるかを考えるべき。だと?」
「そうでございます。民の間でもフェンリル様が王都でいろいろな改革案を出して、ご尽力くださっていることは、話題となっております。特に馬車による被害者が、あの専用道とやらで一気にいなくなりました。ここで教会に呼ぶよりも、ご自由に力を振るっていただくだけで、フェンリル様のお力は民に知れ渡ります。その時に教会も手助けをしておかないと、立場が悪くなる可能性があるのではないかと、思うのですが?」
「ふーむ、教会主導ではないというのが気に食わんが、それもそうじゃな。お助けできるところを考え、皆協力をするように下命を下せ」
「承知いたしました」
「弓とかの補給物資は、外周のトロッコを利用して補給。下から上には滑車を利用したエレベータを使う。上に上がれば、またトロッコを利用する。位置を合わせば、上のバケット部分を、スライドするようにすれば力も要らん」
「ねえ、混雑解消は分かるけれど、軍備についてはどうしてそこまで、肩入れしているの?」
「ああ。あのバカなヒューマンの連中対策だ。絶対攻めてくる」
「魔人族領は大丈夫なの? 向こうでは、何もしなかったでしょう?」
「向こうはな、まず海は渡れない。シーサーペントに見張ってもらっている。渡りそうなら沈めろと言ってある。次にダンジョンだ。苦労して抜けたところに、集中的に攻撃をできるように、兵を待機させているはずだ。外からの攻撃は、ダンジョン内には届かないようだからな。だからこっち。どうせ兵の移動は遅いからな。獣人族は連絡用魔道具も持っているようだから、海やダンジョンから出てくるのを見たら、周辺の民を収めて王都に籠ってもらう。だから籠城できるように改造する」
「いつの間に。そんな話をまとめていたの?」
「内緒だ」
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