第34話 魔王も大変なんです

「うん? サラス・ヴァティー?」


 その時。目の前に居る、40代くらいの額に角の生えたおっさん。魔王が突然はじけた。

「魔王? パズズ様?」


「あっ。あぁーぁぁ。ぐっ」

「ああそうね。変化するの、かなりつらいわよ」

「ジュスティーツィアこれは?」

「ああ魔王として統治するのに、御父上の姿を借りていましたが、変化が解けましたね」


「このきれいな、おねーさんが魔王さんで、サラス・ヴァティーという名前? まあつながりを感じるけれど」

〈カミヨ様。私の容姿をほめていただけるのは、うれしいのですが? 他の者にこの姿を見られたくありません。申し訳ありませんが、寝室へ運んでいただけませんでしょうか?〉


「ジュスティーツィア。魔王様から、念話で他の人に見られないように、寝室へ運んでくれとのことだ。寝室はどこだ?」

「そうですね。こちらです」


 俺は魔王を抱えると、周りに光学迷彩を使う。

 ジュスティーツィアが案内をしているように見せかけ、みんなが移動をしていく。


 寝室につくと、ベッドへ寝かせる。

「あなたにお姫様抱っこされるなんて、魔王でもちょっと気になるわね。すっかり騙されていたし」

「フン。眷属となった以上、魔王も関係ない」


「まあ、お姫様抱っこはしてあげるし、フェンもあまり順位を言うな。俺は順位など決めていない。今はつらいだろうから、ゆっくりさせよう」


「寝室の手前にある控室へ戻り、少し話を聞きたい。いいか?」

 ジュスティーツィアがうなずくので、一つ前にある応接室に移動する。


「どういうことだ?」

「ご内密に、お願いいたします」

「ああ、大丈夫だ」


「実は今回。勇者が召喚されると、女神さまから神託がありまして、教会からそれが伝えられると、魔王様が教会に乗り込んで、我が国に勇者なんぞ要らんと叫んで帰って来られたのですが、以後体調を崩されまして」


「女神に? 呪いでも食らったのか?」

「まさか、そんな?」

「まあいい。それで、公務を代わっていたのか?」

「そうです。魔王は強さの象徴でもあるのです。民がすべて倒れ伏しても、魔王は君臨をしないといけないのです」


「おおっ。それはそれで大概だな。魔王様に会えるのか? みちよは聖者だ。力になれるかもしれん」

「魔王様の寝室は隣になります。こちらへどうぞ」


 すぐ隣の部屋。

 ノックしてはいる。中には近衛の騎士が2名ついていたが、ジュスティーツィアが居たことで通してもらった。

 魔王の顔はさっきまで見ていたもので、ただ顔色が悪い。

 鑑定をしてみる。


魔王パズズ(パズズ・ヴァティー)

 種族:魔人種 58歳

 身体:173cm/66.6kg 

 階位:8

 魔力量:2688

 攻撃力 :1968

 防御力:2000

 力:2080

 耐久:2240

 器用さ:1328

 敏捷性:1760

 知性:2800


称号:魔王、(女神への抗辯者)

適正:火、水、土、大気、光、闇

状態:衰弱(状態異常:呪い)


「状態に、呪いが表示されているぞ」

「えっ。医者の話では、状態は衰弱のみだと。そう聞いていましたが」

「俺が見ると、かっこが付いているから、隠されているのかな?それに女神への抗辯(こうべん)者という称号もついている」

「そんな話も、聞いていません」

「これもカッコ書きだから、見る人間のレベルによるのかもな」


「みちよ。いけそうか?」

「状態異常の解除から行きましょう」

 呪いなら、何かつながりか、闇か何かに侵された痕跡があるはず……。

 ああ、薄いから分からなかったけれど、霊体そのものが闇に包まれている。

 この膜状の闇を、光魔法で包んで、更に聖魔法の光を上乗せをする。


 なぜか、魔王の周りで何かが光り、「パン」という、何かがはじけたような軽い音がした。


 もう一度、鑑定する。

 (女神への抗辯者)と(状態異常:呪い)が消え、衰弱のみになっていた。衰弱はポーションを飲まそう。

 うん。通常になった。


「ジュスティーツィア。魔王様治ったぞ」

「本当ですか? ありがとうございます」

「女神への抗辯(こうべん)者が、呪いのようだな」


「何と言うことだ。女神が呪いを使うとは」



「なんだ騒がしい。おお、お前はジュスティーツィアだったな? そばにいる者たちはなんだ?」

「魔王様? お体の具合は、いかがですか?」

「そう言えば、あの沼に沈みゆくような。体のだるだが無くなっておる」

「それでは、そち達は医術者か?」


「魔王様は、呪いを受けておりまして、それの解呪をお願いいたしました。カミヨ様と万世導世(ばんせみちよ)様です」

「様? 医術者ではないのか?」


「このお二人は、ハイヒューマンでございます。そして……」

「なっ、なんと。本当にか?」

「本当です。それと、こちらは今。人化されていますが、神獣のフェンリル様です」


 あっ、魔王がベッドから転がり落ちた。

「こんな姿で、申し訳ありません」


「いや。事情は分かっていますし、あなたは、ついさっきまで女神の呪いで苦しんでいたのですから」

「ありがた…… はっ? 女神の呪い?」


「ええ。そうです。今は消えてしまいましたが、女神への抗辯者という称号がついていて、それが呪いです。このみちよは、聖魔術が得意ですので、呪いを祓うとその称号も消えた。ということは、女神の呪いで間違いないでしょう」

「あのくそ女神。あっ、いや失礼」


「ジュスティーツィア。わしの意識がなかったのは、どのくらいだ?」

「3、いや4か月に近いです」


「何と言うことだ。その間の政務は?」

「サラス様が、変身して努められていました」


「そうか、それでサラスは?」


「すいません。サラスさんは、私の眷属になりたいと申されまして、それを私も受け。眷属としました。いま種族進化中で、身動きが取れません」


「えっ? 眷族」

 魔王が、素で驚いている。


「それが。カミヨ様の強さを見て、私も眷族になると、ご無理を通しまして」


「強さか。カミヨ様。娘が無理を申したようで、申し訳がない」


「ああいえ。ただ、2~3日は寝込むことになると思います」

「ああ大丈夫。わしと違って、呪いでもないのだしな。さて女神め。呪いとはやってくれる……」

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