第32話 魔王とのお話

 観客が会場から消えたころ。

 やっと、動きがあった。


 ぞろぞろと、騎士団? が出てきて、展開する。


 俺はそれを、舞台上にポツンと一人。

 椅子に座った状態で、見ている。


 ふと気が付くと、舞台袖にフェンとみちよが来ていたので、支配人に聞く。

 いいと言うことで、上に上がらせる。

 椅子も追加をした。



「雰囲気がやばそうだが、なにかばれたかな?」

「主よ。精霊を跪かせる存在など、普通はいない。魔王も慌てるだろうて」 

「そうなのか? あれも別に、意図したものでもないのだが」



 その頃。魔王は、完全にパニックだった。

「ええい。まだか、早くせよ」

「ですが、安全策もなしに、下へ降りるなど」


「かまわん。周りに、幾人か術者を置き、防壁を張ればいい。それに、わしも弱者ではないわ」



 ぽつんと座っていると、テーブルが運ばれ。

 お茶とお菓子が用意された。

 どうぞと言う事なので、鑑定後。

 安全そうなので、頂くことにした。


 少しすると、通用門の方からざわめきが起こる。

 魔王と、あれはジュスティーツィア? やっぱり魔王の側近クラスだったのか。


 舞台に上がって来た魔王を、さすがに座って迎えるのはまずいだろうと立ち上がる。

 うん? こういう時は、膝をつくのか? 儀礼が分からず、考えていると、逆に、俺に対し魔王たちが、膝をついた。


「カミヨ様。お忍びのところ申し訳ありません。失礼ながら、鑑定をさせていただきました。ヒューマンと偽装されていましたが、この地にヒューマンが居ることなど、おかしな話。少し深く読ませていただき、あなた様の正体を見てしまいました。この愚か者にどうか、寛大なお心で、お許しを頂ければ、幸いでございます」


 そう言って、頭を下げてきた。

「ああそうか。それで。別に気にしちゃいない。多分偽装が簡単に見破れるのは、あのとぼけた神の仕業だろう」

 つい口に出してしまった。


「神の仕業ですか? それは、女神の?」

「いや違う。だが、ここでする話でもないな」


「どこか、天から覗かれにくい所はないかな?」

「それでは、城へ参りましょう。どうぞこちらへ」





 ぞろぞろと、周りを近衛だろうか? 鎧を着ている者たちに囲まれながら、ガシャガシャと移動をする。


 魔王城につくと、謁見の間に通された。


 急遽、広間部分にテーブルと椅子がセットされ、席に着く。

 危なく俺は、議長席に座らされる所だった。

 不承知として、フェン達と横並びに座り、向かい側に魔王たちが座ることに、落ち着いた。



「バタバタと、ご無礼をして、申し訳ありません」

「いやこちらこそ。まあ決定戦で勝ち抜けば、優勝後に魔王様と話をする機会もあるかと思っていたので、手間が省けてよかった」


「それは何より。それで、天から地上に参られたのか? それとも、どちらかの遺跡に眠られておられたのか。……突如。魔人領に来られたのは、いかなるご事情で? いや。こんなことを伺うのも、不敬だとは思いますが」


「少し。こちらからも伺いたいことがありまして。この場に教会関係の人間はいらっしゃいますでしょうか?」


「いや、この場には居りません。必要なら、教皇でも呼んできますが?」

「いや。いない方がいいんです。少し、あなたたちにとっては酷な話ですが。まず私は、この世界の人間ではありません」


 魔王の目が、見開かれる。

「そうなのですか?」


「ええ、それでまあ。別の世界を司る神から、勝手に自分の世界にいる人間を、勇者召喚と称して盗んでいくやつがいる。そのために困っていると、相談されましてね」

 周りがざわつく。


「これだけで、話は薄々。分かっていただけたと、思いますが?」

「女神が、他の世界に迷惑をかけて。それを害する為に、来られたということでしょうか?」

「少し違います。殺すとか排除する気はないのです。が、神からは私に一任するから管理せよということです」


「管理。女神をですか?」

「そうですね。ほかの世界に、迷惑をかけないように。ですね」


「いや。それは。完全に予想を越えたお話で。確かに昔。ハイヒューマンと共に邪神を滅した後。神は、ダメージを受け力を失った。そのため、その後を女神が治めることとなった。と伝承はありますが。その神様からの、ご依頼でしょうか?」


「その話は、まあ伝承通りで。実は禁忌というものがあります。この世界を収めていた前神は、ハイヒューマンと共に邪神を倒した。これは、世界の理に触れる禁忌行為。そのため、前神は残念ですが、消滅しています」


「なんと……」

「ざわざわ……」


「前神は、良い人すぎて。この地に住むものを助けようと、直接手を出してしまった。このように、直接人々の営みに手を出すのは、禁忌とされています。だから、女神は直接世界に手を出さないが、勇者をほかの世界から、勝手に連れてきてこの地に落とす。それも、自分の娯楽のために」

「娯楽……」

「ざわざわ……」


「まあ、まだその詳細は不明ですが。意図的に3種族を争わせている。そのバランスをとるため、ほかの世界から勇者を連れてくる。この魔王領にも勇者が来ているのではないですか? それも、この半年以内に」


「はい。来られています。そのための、魔王決定戦です」


「ヒューマンのところにも、勇者が召喚されており。たぶん獣人領にも、召喚されているでしょう」

「なんと!」


「それを踏まえて、考えてください。先ほどの前神の伝承は、全く同じ内容で、ヒューマンの統治領にも伝わっています。女神は崇拝される対象となっている。魔人領も同じ。おそらく獣人領も。そこに神託を与えている。勇者を与えている女神は、3人もいると思いますか?」

「それはそうだが。ヒューマン領に勇者が召喚されたのは、確かなのでしょうか?」


「ああ。それに答える前に、この二人を紹介しておこう。フェン元の姿に戻れるか?」

「戻るのは良いが。再び人化するときに、この者共の前では嫌だな」

「ああそうか。じゃあちょっと待って。誰か、鑑定が使えませんか?」


「はい。私が使えます」

「じゃあ。この二人を、見てくれ」

「よろしいのですか? では…… ひぃぃ……」

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