第30話 味噌と醤油を醸す その2
「実は俺たち。4層の職人区に住んでいて、父さんも職人だったんだけど、けがをしたのが治らなくて。仕事ができないから、金を借りたみたいで、金を返せないなら妹を売れって。そう言っていたのを聞いたんだ」
「僕の所もそうなんだ。うちの父さんも、同じ所で働いていてケガをしちゃって」
「何が起こったんだ?」
「鉄を溶かしている窯が壊れて。近くの鍛冶用の水がどうとかって、突然爆発したって言っていたけど。よくわからない。けど、そのせいで何人か死んじゃって。こいつのお父さんは、死んじゃったんだ」
どうも5人は、父親が同じ鍛冶屋で働いていた。
原料を作るための、屑鉄などを溶かす溶鉱炉が壊れ、鍜治場まで流れたため、水蒸気爆発でも起こしたのか。
2人兄弟が2組。
父親が死んだ子供が1人。
どちらにしろ、社会保障の無いこの世界。
保健なんていうものは無く。
生活に困った母親が、急場をしのぐために、借金をしたのだろう。
「ああ、かかわったのも何かの縁だな。みちよ。フェン。悪いが、ちょっと寄り道をするぞ」
「ふふ。主らしい、お人よし加減じゃな」
「こちら側には、始めて来るな。しかしこれは」
「とっても、体に悪そう」
「匂いが、我には厳しいな」
「そう言えば、昔の鉱山跡地で、カドミウムやヒ素の災害時流出についての、防止策の事例が出ていたのを読んだな」
「鉄鉱石にヒ素を含んでいるものもあったっけ。金メッキに水銀を使ったりもしているかもな。体には悪そうだ」
案内されて家に行くと、言っていた通り。
すぐ近所と言うか、長屋だった。
たぶん。鍜治場で働く人間の、社宅なんだろう。
とりあえず、ケガを見せてもらい、聖魔法で一気に直した。
金が払えないと言われたが、丸っと無視して借金の話をするため、集まってもらった。
すると、このすりグループの3家族だけではなく、10家族ほどが仕事がなくなり困っていたようだ。
ただ、嫁さんを含め。
借金の為に体を売れとか、娘を売れと言っていたが、各家の借金はわずか金貨数枚で、借りた先がよくなかったようだ。
まあここでも、人の命が安いのには、変わりがない。
少しやるせない。
金貸しを呼んで来てもらう。
話をすると、案の定。金利がとんでもなかったため警備隊。ジャス・ティースを呼んできたうえで、お話合いをした。
全部の証文を返してもらい、少しジャス・ティースにお礼をしても、王金貨2枚も必要なかった。
だがこれからも、生活はしなければいけない。
鍜治場の再建はするのか聞いたが、再建は無理だと言う事だった。
窯が飛んだ時。
受けていた仕事を、ほかの窯に回して、何とか対応をした。
だが、納期に間に合わないものについては、違約金が必要になったようだ。
まあ。そのことが無くても、窯を再建するのには、高額な金が必要になる。簡単には無理だろう。
3人は、他の鍜治場に移動ができる事にはなったが、全員は無理だし亭主が亡くなった人も3人ほどいた。
都合7家族。
まあちょうど、味噌と醤油を仕込もうと思っていた所だし、答えは決まっているがね。
計画を、皆に伝える。
聞いたことのない物を、造れと言ったところで、理解はできない。
再び集まった家族を連れて、例の空き地へ集合。
レッツパーリィ。
ガンガンに肉を焼き、腹を減らしていた子供たちや親に食わせる。
その時に、このたれに使われているのが、醤油と味噌だと説明をする。
口にあったようで、目を見開いて驚いている。
そして、焼き肉をすれば、再び人が集まり、その中に地主を発見。
これ幸いと話を持ち掛け、味噌と醤油の蔵を造らせてもらうことが決定。
土地を売ると言っていたが、俺たちは出ていく身だから、それは断る。
蔵を造り、味噌や醤油の作り方を教えるが、住民で経営してくれと投げた。
そんなことをしていると、ふらふらとクオーコと、隣に居るのは魔鳥閑古鳥のオーナーだろう。
さっきの話をすると、乗るそうだ。
地主さんを呼んで、話をするように勧める。
後日、亜空間庫に入っていたトレント材を加工して、断熱をしっかりする。
魔道具で、温度コントロールをする蔵を2棟建てた。
当然、味噌蔵と醤油蔵だ。
ついでに、最初のうちに収益が出るよう、豆腐工場も立てた。
浅いと生活排水や工業区の汚水が浸潤してくる。
必要な水は、300mほど地下から魔道具で汲み上げた。
当然管を打ち込み、水が滲みてこないようにした。
にがりは、このあたりで使われているのは、岩塩か精製の甘い海水塩。
それを一度とかし、煮詰めなおして作製した。
その残りの塩は、窯で焼いて焼き塩を作製。
それも販売すると、あまり湿気なくて、味がまろやかなので好評だった。
最初、見慣れないためか、豆腐の売れ行きはいまいちだったが、クオーコにみそ汁や厚揚げ焼き。豆腐田楽などメニューを教えて、宿で出してもらう。
さらに蔵の前で、屋台を営業すると、意外な速さで売れ行きが上がった。
まあ。安いしね。
豆腐一丁銅貨1枚。
田楽は半丁で銅貨1枚。
金額をそろえると、売る方も間違えなくて済む。
売る方も買う方も、意外とみんな、計算ができない。
従業員には、簡単な計算と九九を教えた。
味噌や醤油は、俺が空き地で焼肉をしてから、食い物屋のメニューに焼肉が入り、たれを欲しがった店主たちにより、一気に買われたようだ。
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