第25話 【閑話】俺は魔王候補のフッヘンノ・カマセ・イーヌ様だ。
注意 最初は真面目に書いていたのですが、我慢できず。
ついやっちゃいました。
俺は子供のころに、ハッタ・リ・カマス師匠に10年に一人の逸材だと見いだされた。
確かに子供の時から、ほかのやつより体も大きく。力もあった。
ハッタ・リ・カマス師匠からの誘いがあったときには、両親も喜んでくれた。
すぐに、師匠の道場に入門させてもらった。
俺の通った道場は、非常に格式ある道場。
非常に多くの、10年に一人と言われる逸材が、集まって居る道場だ。
当然、入門して通うにも、高額な費用が掛かる。
入門料と月謝。
指導料と道場管理費。
それに、月に一度の実力考査料。
考査に合格すれば、段位認定料が必要だ。
親には苦労を掛けて申し訳ないと思う。
だが俺は、魔王になることで恩を返す。
今回の、突然決まった魔王王位決定戦。
道場での、魔王戦出場枠考査に出場し、俺は32段程度ではだめだと言われたが、門下生の中で、秘儀カマシを絶妙のタイミングで使用して勝ち抜いた。
秘儀カマシは、リカマス流奥義の一つ。
組み合っているときに、相手の耳もとで叫ぶ。
それだけだが、使うタイミング。そして何より、内容により、その効果は絶大だ。
秘儀カマシは、時に自殺者まで出る危険な技。
初級は『しばくぞ』『どついたろか』『いてこますぞわれ』辺りから始まり、超上級者では『お前の彼女。良かったよ』まである。
兄弟子の中に伝わる伝説で、実際に過去にあった対戦。
派生技『お前の彼女。寝取られたぞ』を使われ、道場全体に暴露された兄弟子。
勝負に負けた後。
力なく道場から出て行く。
確かめに行って、実際に彼女の浮気を、自身のその目で。確認してしまった。
その後、兄弟子の姿を見たものは、誰もいないという。
とても恐ろしい。
封印されてもいい技だ。
まあ、わかるとは思うが、道場以外。つまり初対戦では、よほどで無い限り基本技のみとなってしまう。
無論。あらかじめ相手が分かれば、その秘密を徹底的に調べる。
そうして、強力な技へと、昇華する。
今回の大規模予選では、対戦者が魔法中心であったため。
詠唱や魔法の発動前に、カマシと乾坤一擲パンチを使い、相手を倒す。
何とか、本大会に進むことができた。
本選からは、魔技ネコダマシも必要かもしれない。
手のひらを、相手の目の前で打ちつけ、音と、水魔法による霧を一瞬発生させる。
その間に、猫の耳を頭に取り付け、相手をだます。
上級者は、一瞬の間にひげまで書く。徹底ぶりだ。
俺の場合、なぜか相手は、力が抜け膝から崩れ落ちる。
身長2m近くの筋肉隆々な体。
それが、猫への変化により、あまりにかわいくて、思わず力抜けるのだろう。
本選に出れることが決まった俺は、上機嫌で4層にある18禁なお店に向かおうとした。
魔王王位決定戦における謎の決まり事。
『魔王たる者。いかなる時も油断するべからず』
と言う、決まりがある。
本選中は、町中において挑まれれば、挑戦権の割符をかけて、勝負が必要。
挑戦者は闇討ちで挑戦権の割符を奪われても、文句が言えないこととなっている。
出かけようとしたが、少し考え、馬車を使う事とした。
これなら、闇討ちも来ないだろう。
馬車に乗り移動を始める。
だが、まだ3層も出ないうちに、急に馬車が止まってしまった。
顔を出すのはまずいので、少し待っていたが、動かない。
ええい。
「なんだよ一体? 御者のくせに。きちっと馬を御することもできねえのか? 首にするぞ」
「すみません。突然、馬が停まってしまって。私のいうことを、聞かないんです」
「ちっ。使えない奴だな。おっ、そこの二人。ちょっと待てや」
うん? 目の端に停まっている。馬車の前を、抜けて行こうとする2人の美人。ドストライクだ。思わず声が出た。
だが、声をかけても、止まる様子がない。
「無視すんじゃねえよ、そこの白いのと黒いの。なかなか上玉じゃないか。おい無視するんじゃねえ」
俺がそう言っても、馬車の前を横切り、店へと向かうようだ。
「ちっ」
俺は馬車から降りて、二人を追いかけようとしたが、なんだあいつ。
二人の腰に手を回してやがる。邪魔だな。
「おい。逃げんじゃねえ。お前たちだよ」
美女二人の腰に、手を回す姿を見て、ちょっと苛つく。
野郎の首筋に、手を伸ばす。
野郎の襟に手が届く瞬間。
奴が振り向き、手を取られた。
気が付けば、俺は空を見ていた。
「はぁ?」
……一体。なにが起こった?
「あっ。すいません大丈夫ですか? 背後に立たれると、つい反応しちゃうんです」
相手のとぼけた言い様に、俺は起き上がりながら、
「てめえ。俺を誰だと思っているんだ」
と怒鳴る。
「あっらぁ。すみません。王都に来たばかりで、存じません」
畜生。こんな変な奴に。
「俺は魔王候補である。フッヘンノ・カマセ・イーヌ様だ。覚えておけ」
「そうですか。私は、カミヨと申します。それでは」
そう言って、まだ逃げようとしやがる。
「馬鹿野郎、お前の名なんぞ要らん。その両側の女を差し出せ」
「はあっ? この二人は私の連れ。いかなる理由で差し出せと?」
理由? えーと。
「お前のような奴に、そんな上玉はもったいない」
騒いでいると兵? 自警団?が集まって来た。
「何の騒ぎだ」
その場にいた、通行人が説明しているようだ。
「フッヘンノ・カマセ・イーヌ殿。魔王候補であれど、いきなり婦女子を差し出せと言うのは、いかがなものか?」
ちっ面倒なことになった。
「なんだお前は?」
「なんだお前は?」
「王都騎士団、警備隊、ジャス・ティースと言うものだ」
警備隊か。
面倒だな。
「一応聞くが、そこの二人。ついて行く気は、あるか?」
「「ありません」」
「だろうな。じゃあ、そちらも魔王候補と言う事なら、此処で良いから仕合ってくれ。周りを巻き込む大規模魔法は禁止だ。それとフッヘンノ・カマセ・イーヌ殿。魔王候補であれば符丁として、割符を確認させてもらう。虚偽の場合は死罪だ」
しまった。『魔王たる者。いかなる時も油断するべからず』か。
負けると、割符を取られちまう。
「分っている。これだ」
割符を見せる。
「それでは、仕合ってもらおう。少し場所を開けろ」
「それでは双方いいな。はじめ」
畜生。せっかく馬車で移動していたのに、こんなことになるとは。
「きゃー、主。私の為に頑張って」
「いいえ。私の為に頑張って」
畜生。美人からの声援を受けて、にやけやがって。
ひょろそうなやつだ。
さっさと倒して、あの二人は俺のものにしてやる。
「おまえ。構えもせずに突っ立っているが。もう、戦っていいのか? 小僧」
やはり素人か。
構えもなしで突っ立ているとはな。
さっきは、何が起こったかわからんが。
今度は油断なしで行く。
覚悟をしろ。
「全く納得できず、良く分からないが。いいぞ」
「それじゃあ。行くぞ。おりゃあ」
渾身の乾坤一擲パンチから、カマシへ移行。
離れ際に乾坤一擲パンチをもう一度。
顎にめがけて行う、俺の必殺パターン。
……はっ? また、俺は寝ているのか。何が起こった?
今度は腕が極められている。
痛てえ、肩が。……動けん。
「えーと。どうなったら、終了なんですかね?」
「相手が降参するか、死ねば終了だ」
「えっ。殺さないとだめなの? おい、まだやるのか?」
ボケたことを聞かれたが。
「まだだ」
と答える。だが、現実、肩を極められて身動きができない。
力を入れやがったな。肩がおれる。
「ぐっ。あーあぁぁ。まっまいった。俺の負けだ」
畜生。せっかく得た本選出場権を。
こんなことで失っては、親に面目が立たない。
立ち上がると見せかけ、渾身の乾坤一擲キックだ。
あっあれ? 今何が。
目を覚まし、周りを見る。
誰も居なくなっていた……。
俺は負けたのか。
懐に手を入れて確認するが、割符が。
そしてなぜか、財布も無くなっている。
言いようのない。この絶望感。
昔兄弟子にかけられた秘儀カマシ。
『お前は彼女だと思っているが、相手はお前をストーカだと思っている。大嫌い近寄らないで。だそうだ』
あれを、食らった時と同じだ……。
俺は心が折れ、絶望しながら宿へと踵を返した。
夕日が目に染みるぜ。
その後彼は、道場をやめた。
田舎へ帰り、家業を手伝っている姿が目撃された。
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