第24話 王都観光?

「いやすばらしい。あなたの出場は、来週となると思います。予定が決まり次第ご連絡をいたします」

 おかしい。俺はただ、観光したかっただけなのに。



 朝。なぜか狭いシングル? いやセミダブルだな。

 まあそれは良い。

 問題は、なぜ狭いベッドに、3人で寝ることになっているんだ。

 ほら、隣にもベッドが空いているよ。


 ほら、なぜか服を着ていない。


 こいつら、俺に言ってくれていない、状態異常の魔法を持っているんじゃないだろうな?

 幸い何かをした感じはないが、両側も服を着ていないし。



 着替えをして、王都の観光に出た。

 色々見て回るが、これと言って目新しいものは無い。

 二人に相談をすると、王城に近い方へ行ってみましょうと言うことになり、内側の壁に入るため。門をくぐる。


 ここは3番目の城壁の中。

 2番目の内側からは、普通の市民は入れず、貴族階級用となっているそうだ。

 さっき門をくぐるときに、門番に教えてもらった。

 必然的に、この3番目は裕福な市民が住んでいる。

 物価や品物もグレードが上がる。

 

 店の構も立派で、扱っている品物も、装飾品や服店が多くなっている。


 2人が、ちょっと服店を見ると言って走り出す。


「あぶない」と注意するが、通りかかった馬車を引いている馬の方が驚き、フェンが原因だと思うが、停まってしまった。

 

 御者が動かそうとするが、動かない。

「なんだよ一体? 御者のくせに。きちっと馬を御することもできねえのか? 首にするぞ」

 

「すみません。突然、馬が停まってしまって。私のいうことを、聞かないんです」



 やばいかな。

 二人を連れて、騒いでいるすきに店へと逃げ込もう。



「ちっ。使えない奴だな。おっ、そこの二人。ちょっと待てや」


 俺らは3人。きっと、関係ない。


「無視すんじゃねえよ、そこの白いのと黒いの。なかなか上玉じゃないか。おい無視するんじゃねえ」


 俺らは3人。絶対関係ない。フェンの髪は白くて、みちよは黒髪だが、関係ない。

 騒いでいる、馬車の前を横切り、店へと向かう。


「ちっ」

 やかましい奴が、馬車から降りてきた。二人の腰に手を回し、なめらかに速度を上げる。

「おい。逃げんじゃねえ。お前たちだよ」

 そう言って、俺の首筋に手が近づいた瞬間。反射的に対応しちゃった。


 伸びてくる、相手の手を取り。

 手首をひねりながら、相手の背中側に向けて肘ごとひっくり返す。

 うん見事に、小手返しが決まってしまった。


「あっ。すいません大丈夫ですか? 背後に立たれると、つい反応しちゃうんです」

「てめえ。俺を誰だと思っているんだ」

 知るかよ。どうせどこかの小物だろ。そう思ったが、俺は大人。当然、口には出さない。


「あっらぁ。すみません。王都に来たばかりで、存じません」

 なぜか声が、1オクターブ高くなってしまった。


「俺は魔王候補である。フッヘンノ・カマセ・イーヌ様だ。覚えておけ」


「そうですか。私は、カミヨと申します。それでは」

 そう言って、しらっと行こうとするが。

 そうだよな。


「馬鹿野郎、お前の名なんぞ要らん。その両側の女を差し出せ」

 キャンキャンと、つまらないことを吐きやがる。


「はあっ? この二人は私の連れ。いかなる理由で差し出せと?」


「お前のような奴に、そんな上玉はもったいない」

 そんな台詞が聞こえた瞬間。

 背後で、殺気と神気が膨れ上がる。

 おおっ。通行人の幾人かが反応した。

 目の前の雑魚は、分かっていなようだが。


 騒いでいると兵? 自警団?が集まって来た。

「何の騒ぎだ」

 するとその場にいた通行人が、説明しているようだ。


「フッヘンノ・カマセ・イーヌ殿。魔王候補であれど、いきなり婦女子を差し出せと言うのは、いかがなものか?」

「なんだお前は?」

「王都騎士団、警備隊、ジャス・ティースと言うものだ」

 おお。自警団じゃなくて、騎士団だったのか。そうか、王都の3層だものな。


「一応聞くが、そこの二人。ついて行く気は、あるか?」

「「ありません」」

 きっぱり答える。2人。


「だろうな。じゃあ、そちらも魔王候補と言う事なら、此処で良いから仕合ってくれ。周りを巻き込む大規模魔法は禁止だ。それとフッヘンノ・カマセ・イーヌ殿。魔王候補であれば符丁として、割符を確認させてもらう。虚偽の場合は死罪だ」


「分っている。これだ」

 なにかを取り出し、渡している。

「それでは、仕合ってもらおう。少し場所を開けろ」

 いや勝手に仕切って、何一体?

「それでは双方いいな。はじめ」


 俺の頭の中では、クエスチョンマークが乱立していた。

 なんで、いきなり試合? それも往来で。

 向こうは魔王候補って、言っているじゃん。


「きゃー、主。私の為に頑張って」

「いいえ。私の為に頑張って」


 2人はなんだか楽しんでいるし。

 さっきの殺気と、神気はどこへ行った?


「おまえ。構えもせずに突っ立っているが。もう、戦っていいのか? 小僧」

 おお、いきなり来るかと思ったが。

 結構紳士的だな。


「全く納得できず、良く分からないが。いいぞ」


「それじゃあ。行くぞ。おりゃあ」


 なんか、こぶしを振りかぶりながら、走りこんできた。

 よく、アニメとかで見る感じだな? こぶしの周りに集中線が見える。


 でも、さっきと同じ。

 突き出されたこぶしを、側面にかわして、左手でつかみ。 

 左足を引きつつ相手のこぶしをねじりながら引く。


 反対側から、右手を添えて引き倒す。

 再び小手返し? いや単なる引き倒しか? まあ倒れた。

 そのまま。さらに腕をねじり、体をひっくり返して、うつぶせにする。

 相手の脇の下から、差し込んだ膝を使いながら、腕を頭の方へ押し込み、肩関節を極める。

 

 じたばたしているけど動けまい。

 日本にいたころ。

 動画配信サイトで見て、マスターしたこの技。


 俺は顔を上げ。警備隊、ジャス・ティースさんに聞く。

「えーと。どうなったら、終了なんですかね?」

「相手が降参するか、死ねば終了だ」

「えっ。殺さないとだめなの? おい、まだやるのか?」

 下を向き、フッヘンノとか言う奴に聞く。

「まだだ」

 肩の極めを、もっときつくする。

「ぐっ。あーあぁぁ。まっまいった。俺の負けだ」


 それを聞いて、手を放し、立ち上がる。


 相手も、立ち上がると見せかけ、蹴りを放ってくる。

 ずるいな。それじゃあ、俺は、顎先をかすめるように殴る。

 某漫画で、覚えた技。


 あっ。馬鹿野郎。動くから、もろに入った。

 すごい。首がねじれたけれど、大丈夫かな?

 漫画みたいに、パタンて倒れて。

 思いっきり、後頭部打ったけど……?


「勝者…… すまない。名前は何という?」

「カミヨと申します」

「勝者。カミヨ殿。この挑戦権の割符を進呈する。魔王戦の運営もわが騎士団の仕事だ。任せておきたまえ。きちっと挑戦者情報は更新しておく。連絡先はどこかね」

「宿の名前は、4層にある。魔鳥閑古鳥と言う宿です」


 そう言うとメモを取り、

「よし分かった。いやすばらしい。あなたの出場は、来週となると思います。予定が決まり次第ご連絡をいたします」

 そう言って、ビシッと気を付けをして、胸の前に剣を構える。

 ちょうど鍔(ガード)の部分が、十字架のようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る