第51話


「予定通りの5階層まで到着できてよかった。このあと何も無ければ6階層も抜けれそうだけど。今日はここまでにしておくべきか」


領主が来るらしいし。


「6階層だって最短距離で進めば50分ぐらいで転移魔法陣に到着できるし。今日中に行けると思うけど」


カエデさんの言うことも一理あるけど。

領主にそっちから会いに来いって言った元凶だし。

珍しい酒があるって言っちゃっただから、準備しなきゃダメでしょ?

お酒以外にもおつまみとか。


でもな。あんまりMP交換でしか手に入らないものを使いたくないんだよね。

領主が気に入って売って欲しいって言われると大変なことになりそうだし。

領主1人だけだったら何とかなりそうだけど。こう言うのは人づてに噂が広まって商会を始めなきゃ行けないレベルに商いまで発展しかねない。


かと言って今から街で普通に買い物して領主を持て成すのにふさわしいおつまみを用意するのは無理だよな。

仕方ないか。

…カプレーゼならこの世界で買えるものでも作れるかな。

個人的には冷奴とか板わさとか好きだったけど。

この世界には存在しない食材だらけだもんな。

身内で飲む時は食べるけど。領主相手には出せないな。

大豆はあるだろうけど、豆腐になんて加工してないだろうし、白身魚も練り物に加工なんてしてないだろう。


「領主が家に来るんだから帰んなきゃでしょ?」


「アディルにそんな配慮いらないと思うんだけどな」


ダメでしょ?こっちから来てって言ったんだから、相手が貴族だろうが平民だろうが呼んどいて家にいないのはダメでしょ。


カエデさんがなんと言おうと帰る。

パニも帰るっていってるし。


カエデさんの事を引っ張ってダンジョンから脱出する。


家に帰って、まずはお風呂に入って体を綺麗にする。

お風呂から上がって、カプレーゼを作っているとドアノッカーが叩かれる音が聞こえてきた。


「おそらくアディルだから私が行ってくる」


そう言ってカエデさんが玄関に向かった。


パニーは静かに2階に上がって行った。

俺も2階に上がっていっちゃダメかな?


カエデさんに会いに来ただけじゃなくて、俺にも会いに来ているだろうからダメだろうな。


玄関から楽しそうな話し声が聞こえてくる。


カプレーゼと大吟醸をテーブルに配膳しておく。


「君がヒロキくんが私はこの街に領主アディル・カスケード。馬頭の討伐してくれてありがとう。この街の代表として礼を言わせてもらおう」


赤い髪の毛をした狼の獣人の女性がカエデさんと一緒にリビングに帰ってきた。


「ヒロキです。領主様であるカスケード様に訪ねさせるようなことをさせてしまい、申し訳ございませんでした」


「あ〜気にしないで。寧ろ、カエデがそっちから会いに来れば会ってやるなんて凄い珍しいし。カエデがそんなこと言ったら、王族だってその後の用事を全てキャンセルして会いに来るくらいね」


カエデさんに社会的地位は結構高いとは思ってたけど。想像以上に高いみたいだ。

王族を会いたければそっちから訪ねろって言っても不敬だって言われないどころか、喜んで会いに行くとか…。



「そういう事。ヒロキくんが思っているより私って偉いんだから」


偉いってのとはちょっと違う気もするけど。


「偉いというより強いから逆らえないて感じだけどね」


「そんなこと言うとせっかく用意した。酒呑ませないよ?」


「それは困る。テーブルに用意してあるのが珍しいお酒?白ワインより透明だね。水と並べられたら見分けがつかないレベルだ。グラスも芸術品のように綺麗だ」


カエデさんは放置してアディルさんに大吟醸の入ったグラスを渡した。

この世界のアルコールはエールとワインだからここまで透明なものは無いから見た目だけで珍しいようだ。

カエデさんも言ってたけど江戸切子も好印象みたいだ。


「アルコールの匂いはちゃんとするね」


匂いを嗅いでお酒であることを確認してから一気にお酒を飲み干す。


今思ったけど。お客に一番最初に呑ませるって結構まずかったんじゃ?

毒とか入ってないってことを証明するために俺たちから飲むべきだったんじゃ?


「癖がなくて呑みやすいお酒だね。これは呑みすぎちゃうお酒だ。用意してある料理も美味しいね」


そんなこと関係ないとばかりにカプレーゼにまで手をつけている。

お酒も自分で2杯目を注いでるし。


「毒とか気にしないんですか?」


「君とカエデがわざわざ毒殺する動機がない。それにそんな事しなくても殺せるでしょ?2人なら」


どうだろうな。少なくともタダで殺せるとは思わない。道ずれぐらい狙ってきそう。


「毒を無効化するダンジョン産の装備を持ってるから、警戒してないだけだ」


「もう、ネタばらししないでよ」


毒だけ無効化することに特化したダンジョン産の装備品か。

俺がつけてる状態異常耐性が付与されてるコバルトの指輪より。毒の耐性に関しての効果は高いんだろうな。

その代わり毒にしか対応してないけど。



「へぇ〜貴族なら誰でも欲しがりそうな装備品ですね」


そこまで血みどろな政争をしてるのかは知らないけど。全くないってことは無さそうだしな。



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読んでいただきありがとうございます。





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