3-9話

 週が明けて火曜日。今日は試験の結果が出るから学院に行く。成績に問題がない自信はあるけど、結果は自分で確かめる必要があるだろう。


 試験の成績は通知表が各生徒に配られるのと、成績上位者は廊下に張り出される。これも前世の高校と同じようなモノだ。


 教室に行く途中、ミリアが廊下に張り出された成績表を見ていた。

「この成績……アリウス、問題ないどころじゃないじゃない!」


 ミリアにジト目をされる。張り出されているのは上位五○人の成績。一位は俺とエリクで全科目満点の一五〇〇点。三位はソフィアで、ミリアは八位だ。


「俺はケアレスミスをするのが嫌いだから、きちんと見直しをしたんだよ。ミリアだって一○以内だから問題ないだろう」


「でも自信があるようなことを言ったのに一三八二点って……恥ずかしいじゃない!」


 それでもミリアの成績は一五科目平均で九二点を超えているからな。俺が言うと嫌味になるけど、十分良い成績だろう。


「さすがはアリウスね。試験の成績も完璧なんて」


 通り掛かったソフィアが笑顔で言う。俺の成績を驚いていない。


「ソフィアはアリウスが一位になることを予想していたみたいね」


「予想していた訳じゃないけど、アリウスのやることだから」


 ソフィアの言葉にミリアが納得している。二人は俺のことを何だと思っているんだよ?

 ちなみにジークが二五位で、サーシャが四二位。枢機卿の息子のマルスは一〇位だ。バーンは当然のように、ノエルは残念ながら名前が書かれていない。


「アリウス様は成績も凄いんですね!」


「頭の良い殿方って、素敵ですわ!」


 いつの間にか女子たちに囲まれている。勿論、近づいて来ることには気づいていたけど。

 男子も嫉妬しているのは極一部で、大半は驚きや溜息、あるいは羨望の眼差しを向けて来る。


「全科目一○○点ね。私とエリク以外には不可能だと思っていたけど。さすがはダリウス宰相の息子ってところかしら」


 突然、凛とした声が響く。


 生徒たちが注目する中、現れたのは豪奢な金髪と、海のように深い青い瞳の女子。リボンが黄色だから二年生だな。


 ソフィアとはタイプが違う、凛々しい感じの綺麗系美少女。ウエストと足は細いは細いのに、出るところは出ているモデルのようなスタイル。だけど男に媚びるような感じは一切しない。まさに女王様という感じで堂々としている。


「ねえ、あれって……エリス殿下よね?」


「でも、どうして王都にいらっしゃるのかしら?」


 女子たちのささやき。思いきり聞こえているけど。まあ、あの女子は俺の予想通りの相手ってことか。


「姉上は、いつグランブレイド帝国から戻られたのですか? 教えてくれれば、迎えに行きましたよ」


「「「エリク殿下!」」」


 エリクがいつもの爽やかな笑みを浮かべて登場。女子たちが黄色い声を上げる。だけど何故かエリクの目は笑っていない。


「王都に戻ったのは昨日のことよ。だけどエリクに教える必要はないわよね?」


 エリクを挑発する奴を初めて見たな。まあ、実の姉なら納得できる。こいつが王家の長女、あの・・エリス・スタリオンか。


 ロナウディア王国の王家に、二人の天才がいるというのは有名な話だ。一人が第一王子エリク、もう一人が一歳年上の第一王女エリス。


 だけどエリスは貴族嫌いでも有名で、一切社交界に顔を出したことがない。だから第一王女なのに顔を知っている奴は意外と少ない。


 そして今はバーンの交換留学生として、グランブレイド帝国に留学中の筈だ。そのまま婚約者の帝国皇太子と結婚するって噂だけど。


「ドミニク殿下から国王陛下に緊急の『伝言メッセージ』が届いているよ。姉上が行方不明になったと」


 ちなみにドミニクはグランブレイド帝国の皇太子の名前だ。


「だったら丁度良いわ。エリク、ドミニク殿下に伝えておいて。私はもう二度と帝国には戻らないって」


 事情は解らないが、こういう話を学院で堂々とするのはどうかと思うけど。さすがはエリクの姉ってところか。


※ ※ ※ ※



 次の日。俺は久しぶりに、みんなとの朝練に参加した。


 みんなは武術大会のために朝練を始めたけど、大会が終わってからも朝練を続けている。参加しているのはミリア、ソフィア、バーン、ジーク、ノエルにサーシャのいつものメンバーだ。


 今、模擬戦をしているのはジークとバーン。ダメージを無効化する『特殊結界ユニークシールド』の中で戦っているから、スキルも魔法も何でもありの実践形式だ。


「『火焔球ファイヤーボール』!』


 バーンが火属性第三界層攻撃魔法を放つと、火焔球がジークの方に飛んで行き爆発する。


「『水盾ウォーターシールド』!」


 ジークは躱し切れないダメージを水属性第二界層魔法で軽減して、バーンとの距離を一気に詰める。


 待ち構えていたバーンが横薙ぎの一撃を放つ。ジークは剣で受け止めると、左手のメイスを叩き込む。だけどバーンは盾で受けると同時に蹴りを放った。


「うっ……」


 真面に食らって床に転がるジーク。透かさずバーンが追い打ちを掛ける。


「『粉砕剣クラッシュソード』!」


 片手剣用中位スキルの直撃で、ジークの『特殊結界ユニークシールド』がバリンと音を立てて消滅する。


「どうだ、親友! 俺の戦いぶりも、すっかりサマになっただろう」


「ああ、バーン。おまえは確かに腕を上げたな。魔力操作の方はまだまだだけど」


 バーンは武術大会の後も真面目に鍛錬を続けているようだな。俺が教えた魔力操作は、まだ荒くて決して褒められるレベルじゃないけど。バーンは魔力操作の感覚を掴んだようで、魔法もスキルも確実に威力が上がっている。


「ジークはそのスタイルで行くって決めたのか?」


 ジークは武術大会と同じように剣とメイスの二本で模擬戦に挑んだ。


「今の自分の技量を考えると、逆手で剣は上手く扱えないからな。当面はこの形で行くつもりだ」


 ジークは普段悪ぶっているけど、根は真面目だからな。朝練に参加するだけじゃなくて、自主練もしていることはジークの戦いぶりを見れば解る。以前のジークは優秀過ぎる兄のエリクと自分を比べてばかりいたけど、自分らしく生きると決めたジークに迷いはない。


 その後、俺も模擬戦に参加して、みんなと順番に手合わせした。みんなの上達ぶりから、俺がいない二週間の間も真面目に練習していたようだな。


 特に王家の別荘でヨルダン公爵との戦いに参加したメンバーは、実戦を経験したことで何かを掴んだようで、短い間に見違えるほど強くなっている。

 自分の欠点に気づいたバーンも、どんな鍛錬をしているか知らないけど、その戦いぶりは以前とは別人のようだ。


「『閃光剣ソードスラッシュ』!」


 そして誰よりも一番成長したのはミリアだ。みんなを守りたいから、ミリアは強くなりたいって言ったけど。ミリアの成長ぶりなら、そのうちに俺やエリクの隣に立って戦いそうだな。

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