第386話:未知のスキルと魔法


「まあ、俺が話したのは普通の・・・転移者のことで。冬也は他の転移者とは違うだろう?」


 藤崎冬也ふじさきとうやが驚いている。


「アリウス先輩……それって、どういう意味ですか?」


 冬也の雰囲気が変わったことに、みんなも気づいてこっちを見ている。俺はみんなを安心させるように笑みを浮かべる。


「どうせ後で解ることだから教えるよ。この世界には『鑑定アプレイズ』って自分よりもレベルが低い相手のレベルやステータスが解るスキルがあって。レベル差があれば相手が使える魔法とスキルまで解る。俺は冬也を『鑑定』して、俺の知らない魔法とスキルが使えることを知ってるんだよ」


 冬也は音を立てて席を立つと、警戒心全開で身構える。

 キシリアとエルザ、子供たちが何事かとこっちを見ると、エリスたちが『大丈夫だから』と安心させる。みんなは俺のことを信頼してくれているからな。


「当然の反応だけど落ち着けよ。騙し討ちみたいな真似をして悪いけど、俺に言わせれば、知らない相手に会うときに『鑑定』しない方がどうかしていると思うよ。相手の実力を知るのは基本だからな。冬也なら俺が言っていることの意味と、あえて『鑑定』したことを教えた理由が解るだろう?」


 冬也の能力を知らなかったら、俺もこんな言い方はしない。

 冬也の魔法やスキルは俺が知らないというだけで、名前で大体どんなモノか想像できるし。『異世界転生者特典』を使わないで、これだけのレベルとステータスに達したなら、冬也は相応の鍛錬と経験を積んでいる筈だ。


 もっと時間を掛けて、冬也が自分から話すまで待った方が良いことは解っている。だけど時間を掛けるだけ転移者は成長するし、もっと数が増えるだろう。犯罪に走るような転移者がまた出る可能性もある。


「おまえの手の内を全部晒せとは言わない。だけど異世界転移に関わりそうなことを話してくれれば、おまえたちを転移させた奴の正体や目的に少しは近づけるかも知れない。あくまでも可能性の話だし、確証がある訳じゃないから、判断はおまえに任せるよ」


 冬也は俺を睨むと。


「アリウス先輩には敵わないな。俺のレベルやステータス、魔法やスキルまで知られているなら、今さら隠すことに意味はないし。今の時点で俺の事情を話すつもりはなかったから、アリウス先輩がしたことは正解ですよ。だけど納得はできませんね」


「だったら、冬也はどうしたいんだ?」


「俺にはアリウス先輩の実力が解らないので、実力を見せてください。アリウス先輩が俺じゃ絶対に敵わない相手だったら、黙って従いますよ」


 完全に脳筋な台詞だけど、冬也の気持ちも解らなくはない。俺がやろうとしていることの意味も、自分を『鑑定』した理由も理解しているけど。勝手に実力を測られて、掌の上で転がされているような状況が悔しいんだろう。


「冬也、解ったよ。メシを食べ終わったら、本気を出せるように街の外まで行くか」


 『絶対防壁アブソリュートシールド』を発動すれば、冒険者ギルドの地下にある修練場でも戦えるけど。俺の知らない冬也の魔法やスキルを『解析アプレイズ』した訳じゃないから、絶対に安全とは言えないからな。


 食事を終えた俺と冬也は2人で『自由の国フリーランド』の街の外に出ると、さらに街から距離を取る。これだけ離れれば大丈夫だろう。


 俺は半径2kmの『絶対防壁』を周囲に展開する。今度の『絶対防壁』は内側からは透明で見えないけど、外側からは光の壁に見えて中の様子は解らない。


 街から離れても派手に戦ったら目立つから、不用意に近づいて来た奴を巻き込む可能性があるし。他の奴に冬也の手の内を晒すような真似をするつもりはない。


 冬也が何もない場所から武器と装備を取り出す。『収納庫ストレージ』と同じようなスキルか魔法が使えるってことだな。俺は『鑑定』したから、どれを使っているのかは名前から大体想像がつくけど。


 冬也の武器は銃と剣が一体化したようなモノで、防具はセラミックのような白い多重装甲の鎧。この世界では見掛けないモノばかりだな。


 俺も『収納庫ストレージ』から2本の剣と鎧を出して身に着ける。『即時脱着クイックチェンジ』を使えば一瞬だけど、手の内を晒すつもりはない。


「準備はできみたいですね。じゃあ、アリウス先輩。行きますよ――『疾風の翼ゲイルウイング』!」


 冬也が一気に加速して空中を駆ける。『疾風の翼』は『加速ブースト』と『飛行フライ』を組み合わせたような魔法だ。


 冬也は武器から光の弾丸を連発しながら、不規則な動きでこっちの的を絞らせない。やっぱり戦い慣れているな。

 俺は最小限の動きで弾丸を全て躱すと、急接近する冬也を迎え撃つ。


「アリウス先輩、これくらいで死なないでくださいよ――『光線の刃レーザーブレイド』!」


 冬也の武器から膨大な魔力を放つ光の刃が伸びる。俺は右の剣で受けて、左の剣を叩き込む。冬也は横に跳んで俺の剣を躱した。


「さすがはアリウス先輩、俺の攻撃が全然効いていませんね」


「冬也。喋っている暇があるなら、もっと攻撃して来いよ」


「解っていますって。じゃあ、行きますから――『多重連弾バルカンファランクス』!」


 冬也は俺の知らないスキルと魔法を連発して、縦横無尽に空中を駆けながら攻撃を仕掛けて来る。だけど俺は全部躱して、或いは剣で切り落として、一撃も食らうことはない。


「これだけ攻撃してもノーダメージって……アリウス先輩は化物ですか?」


 冬也の息が上がっているのは、ずっと全力で戦っていたからだ。

 スキルと魔法の連発でMPも消耗している。俺の方も、せっかく戦うならと『解析アプレイズ』できるモノは全部解析したから、もう十分だろう。


「冬也には、ここまで付き合って貰ったからな。最後は俺も少し本気を出すよ」


「それって、今までアリウス先輩は本気じゃ――」


 言い終わる前に一瞬で距離を詰めて、眼前に剣を突きつける。

 剣先に集束させた膨大な魔力の光に冬也が息を呑む。直撃したら冬也が消滅するレベルの魔力量だからな。勿論、当てるようなヘマはしないけど。


「え……今、瞬間移動したんですか?」


「いや、普通に動いただけだよ。おまえはもっと動体視力を鍛えないとな」


 冬也が唖然としている。


「……嘘を言っている訳じゃないんですよね?」


「信じる信じないは、おまえの勝手だけど。まだ続けるなら相手になるよ」


「アリウス先輩……俺の完敗です」


 冬也は溜息をついて、素直に負けを認めた。


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