第372話:覚醒


 『恋学コイガク』の話題になって、すっかり話が逸れたけど。


「エリクが言っていた七瀬に協力して貰いたいって話だけど。異世界転移したときのことを、詳しく教えてくれないか?」


「詳しくって言われても……部活の帰りにバスの中で居眠りして、気がついたら、この世界にいたのよね」


「誰かの声が聞こえたとか。そういうのはなかったか?」


 『RPGの神』や元『ダンジョンの神』は自分の意図を伝えるために、頭の中に直接響く声で話し掛ける。


「声か……ごめんなさい、全然記憶に無いわ」


「いや、只の可能性の話だからな。だけど、こうなると手掛かりになりそうなモノは、転移者の能力くらいか」


 転移者は能力に覚醒することで、レベルとステータスが跳ね上がる。この情報も人伝手で手に入れただけで、実際に転移者に会ったのは七瀬が初めてだ。だからレベルとステータスが上昇する以外に、転移者が覚醒するとどうなるかは解らない。


「七瀬たちが元の世界に戻る方法を探すためにも、俺は七瀬以外の転移者について調べるつもりだ。だから七瀬が無理に、転移者の力を覚醒させる必要はないからな」


 七瀬はまだ転移者の力に覚醒していない。たぶん『異世界転移者特典』ってスキルを発動すると、力に覚醒するんだろう。


「アリウスは私のことを心配して、言っているんだよね? 心配してくれるの嬉しいけど。正直に言えば、私は転移者の力に興味があるわ」


「せっかく異世界転移したんだから、能力を使ってみたいってところか?」


「そうそう。アリウス、解っているじゃない!」


 敬語を止めたら、七瀬はすっかり打ち解けたな。


 転移者の能力が、今のところは転移者について知る唯一の情報源だし。転移者の能力が、勇者のスキルのようにヤバい可能性もあるけど。転移者を囲い込んだ国が動きを見せていないから、そこまでヤバい可能性は低いだろう。


 それに今の俺なら、転移者がヤバい能力を持っていたとしても対処できるからな。


「七瀬、解ったよ。エリク、ミリア、何かあったら俺が対処するから、七瀬の力を覚醒させて構わないな?」


 2人が同意したから、七瀬に能力を覚醒させる方法を教える。


「とりあえず、騙されたと思って『ステータスオープン』って言ってみろよ」


 別に声に出す必要はないけど、この方が説明しやすいからな。


「え? 何、それ……すてーたすおーぷん? うわ!」


 七瀬にだけ見えるステータス画面が表示されたんだろう。ステータス画面はこの世界だと常識だけど、七瀬がいた世界では当然あり得ないからな。

 ゲーム好きなら、もう少し反応が違うと思うから。七瀬はライトゲーマーってところだな。


「スキル欄に『異世界転移者特典』て書いてあるだろう? たぶん、それが転生者の能力を覚醒させるスキルだ」


「うん。変な名前が書いてあるね。だけど、これをどうするの?」


「これも『異世界転移者特典』ってイメージするか、言葉にするだけで発動すると思うよ。他の転移者も発動させた筈だから、そんなに難しくないと思うけど」


「え? ちょっと恥ずかしいんだけど……『異世界転移者特典』!」


 七瀬が言った瞬間、全身から魔力が噴き出して、レベルとステータスが跳ね上がる。


「凄く身体が軽いし、力が漲っているって感じね!」


 覚醒した七瀬のレベルは101、ステータスはレベル並みってところだ。普通の感覚だと、十分な強さだろう。だけど俺が知りたかったのは、レベルとステータス以外の部分だ。


「七瀬。興奮しているとか、何か感情に変化はあるか?」


 勇者のスキルは発動することで狂戦士バーサーク化するからな。


「それって、どういう意味よ? 自分が強くなった感じがするから、興奮しているって言えばそうだけど」


「特に問題ないみたいだな。念のために訊いただけだよ」


 俺は『鑑定アプレイズ)』したから解るけど。今の七瀬が持っているスキルは『成長加速レベルアップブースト』と『魅了チャーム』。どっちも俺の知らないスキルだ。


 『魅了』はパッシブスキルだったら、ヤバそうだけど。発動している感じはない。


「七瀬、俺はスキルの効果を調べることができるけど。おまえのスキルを調べて構わないか?」


「アリウスは、そんなことができるの? うん。別に良いわよ」


 俺は『解析アナライズ』を発動して、まずは『成長加速』を解析する。

 『解析』は魔法やスキルの効果と構造を解析できるけど。発動中のモノしか解析できないし、解析に時間が掛かる。


 『成長加速』はパッシブスキルっぽいけど、念のために、瀬に『成長加速』と言い続けて貰う。しばらく待っていると、20分ほどで『成長加速』の解析は完了した。


 予想していたけど『成長加速』の効果は、ステータスの成長を早めるモノだ。やはりパッシブスキルで、普通に同じことをした場合の150%ステータスが伸びるらしい。ステータスによってレベルも上がるから、レベルが上がるのも早くなる。

 これは勇者のスキルと同じように、この世界の常識を覆すスキルだな。


 この世界のスキルはレベルが上がると勝手に憶えるんじゃなくて、同じことを繰り返すことで、スキルを発動する魔力の回路ができあがるイメージだ。例えば剣を繰り返し振ることで、剣術のスキルを覚える。


 つまり成長を早めるスキルなんて、この世界の常識では存在する筈がない。まあ、スキルを与えられた時点で、この世界の常識を覆しているけど。


――――――――――――――――――――

10月30日マイクロマガジン社より2巻発売! https://gcnovels.jp/book/1743

各種情報をX(旧Twitter) で公開中です!

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る