第367話:世界の変化
翌日。俺は『自由の国』の街を襲撃した魔族の氏族ゲオルドに向かう。
ゲオルドが支配する場所に向かう。ゲオルドは5,000人規模の氏族で、森の中に街を作って暮らしている。
「『魔王の代理人』アリウス・ジルベルト!」
街中に突然現れた俺に、魔族たちが警戒する。俺の顔と名前は人間よりも魔族の間の方が浸透している。各氏族のところに、結構、頻繁に訪れているからな。
ゲオルドの氏族長グエン・ゲオルドは街の中心に居城を構える。この辺の発想は魔族も人間も変わらないな。
「アリウス・ジルベルト!」
2人の門番が槍を構えて、穂先を俺に向ける。
「そんなに警戒するなよ。俺はグエンと話をしに来ただけだよ」
「貴様の戯言に耳を貸すと思うか……」
「じゃあ、勝手に入るから」
『
「よう、グエン。昨日は派手に仕掛けて来たな」
「アリウス、貴様……よくも、ぬけぬけと俺の前に姿を現わしたモノだな!」
グエンは反射的に剣を抜こうとして、途中で動きを止める。もう何度も俺と戦っているから、何をしても無駄なことが解っているんだろう。
「それで……貴様は俺に何の用だ?」
「何の用じゃないだろう。昨日の襲撃に対して、おまえはどう責任を取るつもりだ? 戦いを仕掛けて来て、逃げたらそれで終わりの筈がないだろう」
「賠償金を支払えと言うことか? 魔石でも魔物の素材でも、ここにあるモノは好きに持っていけ!」
グエンは憮然とした顔で言う。
「いや、そんなモノは要らないよ。俺の要求は1つ。ゲオルドの魔族1家族を『自由の国』で2年間住ませてくれ」
「貴様……人質を差し出せと言うことか?」
魔族の氏族は基本敵に団結力が強い。人数がそこまで多くないし。ずっと一緒に暮らしているから、家族や親戚という感覚なんだろう。
「俺にそのつもりはないけど。おまえなら、そう言うと思ったよ。ゲオルドの魔族が『自由の国』にいる間、揉め事は一切なしだ。勿論、相手から仕掛けられたときに反撃するのは構わないよ。『自由の国』の法律で魔族も人間も公平に裁くからな」
「俺に貴様の言葉を信用しろと?」
「今の時点で信用しろとは言わない。2年後にゲオルドの魔族が無事に帰って来たら、少しは信用することを考えてくれ」
ちょっと強引だけど、これも人間と魔族の親交を深めるためだ。
普通に考えれば街を襲った魔族を無傷で帰して、襲った街に移住させるなんて、どうかしていると思うだろう。
だけど、この前も懲りずに『自由の国』に来た東方教会の連中や、ゲオルドのように過激な魔族の氏族は、互いの種族を敵視する考えで凝り固まっている。こいつらに考えを変えさせないと、人間と魔族の種族同士の争いを終わらせることなんてできないからな。
「良いだろう……だが貴様に預けた魔族が殺されたときは、ゲオルドの氏族全てが未来永劫、貴様の敵になると思え!」
グエンにとっては苦渋の選択なんだろう。
「ああ、解ったよ。肝に銘じておく」
ゲオルドから受け入れる魔族のことは、アリサには悪いけど任せることになる。
ゲオルドの魔族が故意に争いを仕掛ける可能性はあるけど、そのときは生かしたまま拘束してグエンに苦情を言えば良い。
念のために、アリサの配下に護衛目的でゲオルドの魔族を監視して貰うけど。今の『自由の国』に、相手が魔族というだけで攻撃や嫌がらせをする奴はいない筈だ。
グエンと魔族の受け入れの日程を決めてから、ゲオルドの街を後にする。
俺が次に向かったのは魔族の国ガーディアルの魔都クリステラだ。
「ゲオルドのグエンが、アリウスの国に仕掛けたことは知っているけど。誰1人殺さないとは、アリウスも大概だね」
魔王アラニス・ジャスティアは、世界中の魔力を感知できるチートな能力を持っているからな。グエンクラスの奴が動けば当然解るし。細かい情報は配下の魔族たちがアラニスに伝えたんだろう。
「俺は魔族と人間の共存を本気で目指しているからな。過激な奴ほど血を流させると、面倒なことになるんだよ」
「そんな面倒なことをしなくても。過激な連中は纏めて始末してしまえば、手っ取り早いだろう」
アラニスが面白がるように笑う。冗談ぽく言っているけど、アラニスは本気だ。
アラニスは現実主義で、魔族の国ガーディアル以外の自分に従わない魔族のことは、どうでも良いと思っているし。人間に手を出さないのは、力のない人間に興味がないからだ。
それでも俺は魔族に関する情報を全部アラニスと共有している。魔族との問題を解決するには、アラニスの名前や力を借りる方がスムーズに事が運ぶからだ。
「そんなことよりも。この世界が
「ああ。俺やアラニスにも
この1年くらいの間に、これまでにないことが世界中で起きている。
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