第351話:ルシアのお礼


 ドレス姿のルシアとルーディー。タキシードを着た他の3人のメンバーたち。俺はVIPルームって感じの個室に案内される。


「なあ、ルシア。おまえって、貴族なのか?」


「あら……意外だわ。あんたにも、私の高貴さが解るのね!」


 ルシアは嬉しそうに、上から目線で言う。だけど店の奴らの対応とか、テーブルの席順で。ルシアの身分が高いことは明白だからな。


「私の本当の名前は、ルーシェディア・バジェスタ。バジェスタ伯爵家の1人娘よ。一応、ルーディーも騎士爵の娘だから貴族だけど」


 ルシアが堂々と胸を張る。張るほどの胸はないけど。


 ここはストレイア公国で。バジェスタ伯爵は公国の有力貴族の1人だ。情報収集は冒険者の基本だから。それくらいは当然、事前に調べている。


 だけど他のパーティーの3人が、バジェスタ伯爵家に仕える騎士の子供とか。こいつらの個人情報なんて、訊いていないけどな。


 俺はバジェスタ伯爵に会ったことがある。みんなとの派手な結婚式を『自由の国フリーランド』の城塞で挙げたとき。招いた諸国の使者の中に、バジェスタ伯爵がいたからだ。


 バジェスタ伯爵は抜け目のない奴だったけど。娘のルシアの方は、とてもそんな感じじゃない。


「じゃあ、アル。今日は私たちの命を救ってくれたことのお礼だから、奮発するわよ。冒険者のあんたじゃ、一生お目に掛かれないご馳走を用意したわ!」


 ルシアは自慢げに言うけど。


「ルシア、解っているの? それってアルを馬鹿にしていることになるわよ!」


「え……私はそんなつもりじゃ……」


 どうやらルシアは、伯爵家の1人娘として育てられたから。一般常識に疎いみたいだな。


「つまり。ルシアは俺のために、最高の料理を用意してくれたってことだよな?」


「アル! あんた、只の冒険者の癖に・・・・・・・・解っているじゃない!」


 俺のフォローに対して、思いきり俺を馬鹿にするような発言をするルシア。ルーディーは頭が痛いって感じの顔をしているけど。まあ、ルシアはツンデレなだけで。悪い奴じゃないことは解っているからな。


「あの……アル、申し訳ありません。あとでルシアには、きつく言い聞かせますので」


 ルーディーが俺の耳元で小声で囁くと。


「ルーディー……あんた、アルに何をしているのよ?」


 ルシアが睨んでいるけど。


「いや、ルーディーは何もしていないだろう。それよりも俺は腹が減ったから。ルシア、早くメシにしてくれないか」


「アル、解ったわよ……それじゃ、私たちを助けてくれたアルに。私も一応、感謝しているから……乾杯するわよ!」


 ルシアの良く解らない挨拶で、食事が始まる。

ルシアは当然のように、俺の隣に座って。昼間から思いきり酒を飲んでいるけど。俺が酒に酔うことはないからな。


「ルーディー、おまえたちも大変だな。まあ、ルシアも悪い奴じゃないみたいだし。ルーディーの言うことも、一応聞くみたいだからな」


「アル……そこまで解ってくれるなんて。貴方は実力だけじゃなくて、人としても凄い人ですね」


 ルーディーが涙ぐんで。他の3人の仲間たちも、うんうんと頷いている。何だかんだと言って、こいつらも只の臣下じゃなくて。ルシアのことが好きなんだな。


 食事が進んで。ルシアが言ったように、豪華な料理がコースとして次々と出てくる。俺はフルコースとかじゃなくて。量が多い豪快な料理の方が好きだけど。俺のために用意してくれた料理に、勿論文句なんて言うつもりはない。


「どの料理も確かに美味いな」


 別にお世辞を言った訳じゃなくて。料理が美味いのは本当だ。


「そうでしょう! あんたのために特別に用意したんだからね!」


 ルシアは嬉しそうに笑う。


「アル。ほら、早くグラスを空けなさいよ。お酒だって、最高のモノを用意したんだから!」


 ルシアが勧めるままに酒を飲む。他の奴だったら酔い潰れそうだな。ルシアが飲むペースも、俺に合わせて早くなる。


「なあ、ルシア。俺のペースに合わせて飲むと酔い潰れるぞ。俺はどんなに飲んでも酔わないからな」


「わらしらって、これくりゃい、らいりょうぶりょ……」


 すでに完全に酔っぱらっているな。ルシアは真っ赤な顔でフラついて、俺にもたれ掛かる。


「アルぅ~……わらしらって、あんらに、かんしゃてるんらから……」


「もう、ルシアったら。アル、ごめんなさいね。だけどルシアはアルが来てくれたことが、よっぽど嬉しかったんだと思うわ」


「酔った奴の相手をするのは慣れているから。気にするなよ」


 『解毒キュアポイズン』を使えば、一発で酔いは醒めるけど。この状況で素面に戻すことが、正解かどうかと思うし。自分で酔っ払ったんだから、放置しておくか。このまま眠ってしまってもルーディーたちが送っていくだろうからな。


 このとき。扉をノックして、ウエイターが部屋に入って来る。


「失礼します。ルーシェディア様、バジェスタ伯爵がいらっしゃいました」


 ルーディーたちが驚いているから。予定外の登場なんだろう。


 綺麗に口髭を切り揃えた如何にも紳士という感じの男が姿を現す。こいつがロドニア・バジェスタ伯爵。ルシアの父親だ。


「ルシア、失礼するよ。勝手に来てしまって申し訳ないが。おまえたちの命の恩人に、私も挨拶しようと思ってね……ルシア、これはどういうことだ!」


 真っ赤な顔で俺に凭れ掛かるルシアに、ロドニアが唖然とする。


「あ、おとうさまりゃ……」


「ルシア、おまえは酔っているのか? ルシアの命の恩人と言うから、私からも礼を言うつもりで来てみれば……貴様は私の娘を酔わせて、どうするつもりだ? ルーディー、おまえたちが付いていながら、どうして止めなかったのだ!」


 ロドニアが怒り心頭で、がなり立てる。なんか勝手に勘違いしているな。

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