第46-2(6)話:バーン対キース
昼休みが終わって。剣技大会の3回戦が始まる。
昼休みの間に、試合場の線が引き直されて。1つになった広い試合場で、3回戦が順番に行われる。初戦はバーンとキース・ヨルダンの試合だ。
「なあ、親友。さっきの話だが。今の俺じゃ、キース・ヨルダンどころか、ミリアにも勝てないってことか?」
バーンが試合場に向かう前に訊く。
「戦う前から、決めつけるつもりはないけど。今のおまえは、才能だけで戦っているように見えるんだよ」
「確かに、俺は感覚で戦っているからな。理屈とか、小難しいことは良く解らねえが。要は勝てば良いってことだろう?」
バーンはニヤリと笑うと、試合場に向かう。
キース・ヨルダンは憮然とした顔で、バーンを待ち構えていた。
「バーン殿下。グランブレイド帝国が武勇を誇る国ということは、私も承知しています。ですが、ときには引くことも重要だと忠告しておきます」
「キース先輩。そういうことは、勝ってから言ってくれよ」
バーンは暑苦しい奴だけど、決して馬鹿じゃないし。相手の実力を素直に認めることができるからな。キースの実力は解っている筈だ。それでも正面から戦うってことか。
試合が始まると同時に、バーンが仕掛ける。
キースとバーンは剣と盾というオーソドックスな同じスタイルで戦う。だからこそ、実力の違いがはっきり解る。
攻撃も防御もキースの方が数段上手で、バーンは次々とポイントを奪われて行く。
それでもバーンは果敢に攻める。全部キースに剣と盾で受けられているけど。
「さすがは去年の優勝者だな。だが俺もこのまま終わるつもりはないぜ――「『
バーンがスキルを発動させる。魔力で剣の威力を増幅させるバーンらしいスキルだけど。キースはバーンの剣を躱して、容赦なく攻撃を加える。
完全に一方的な試合だけど。バーンは諦めずに攻撃を続ける。
「バーン殿下。忠告はしましたからね――『
キースがスキルを発動する。キースが得意とする水属性の魔力を纏う鋭い刃が、バーンに襲い掛かる。
これまでのダメージを蓄積した『
キースのスキルの威力は、完全にオーバーキルで。『特殊結界』のダメージ無効化の効果を失ったバーンの肩から胸に掛けて切り裂く。
飛び散る鮮血に、観客席から悲鳴が上がる。だけどバーンは痛みに耐えながら立ち続けた。
「……ルールだからな。俺の負けだぜ」
バーンは悔しそうに顔をしかめて、試合場を後にする。
こういうアクシデントのために控えていた保健担当の教師が、バーンに駆け寄って『
まあ、命に別条があるほどの傷じゃないし。剣術大会にアクシデントは付き物だけど。
「キース先輩なら、『特殊結界』の蓄積ダメージくらい頭に入っていただろう。バーンを殺さない程度に痛めつけたのは、計算のうちだよな」
キースはオーバーキルになることが解っていた上で、タイミングを計ってスキルを発動させた。
「アリウス・ジルベルト。おまえは何を言っている? バーン殿下に怪我をさせたことは申し訳ないが、試合中にそんなことを気にする筈がないだろう」
キースが冷ややかな目で俺を見る。まあ、素直に認めるとは思っていなかったけど。
「次に同じことをしたら、俺が止めるからな」
「試合中に乱入すると言うことか? そんなことをすれば、おまえは失格になるぞ。できればおまえのことは、試合で叩き潰したいんだが」
ジークとバーンの試合では、相手が王族や皇族だから下手に出ていたけど。これがキース・ヨルダンの本性だな。
それに俺の試合を見た上で言っているんだから、キースも『特殊結界』くらい、その気になれば一撃で破壊できるってことだろう。
「キース先輩、安心しろよ。どっちにしても、俺は試合に出るからな」
俺が何を言いたいのか、キースには解らないようだな。
「アリウス。おまえは何でも自分の思い通りになると、思っているようだが。学院の剣術大会は、そこまで甘くないぞ」
キースは俺を睨みつけて立ち去る。
「アリウスが言った通りに、負けちまったな。ホント、手も足も出なかったぜ」
バーンの傷は治療魔法で、すっかり直っているけど。バーンのプライドはズタズタだな。
「なあ、アリウス。おまえが言った足りないモノを俺が身につければ、キース・ヨルダンに勝てるようになるか?」
「それはバーンの努力次第だな。おまえが自分に真摯に向き直って、どうすれば強くなれるか考えながら必死に鍛錬すれば、キースに勝てるようになると俺は思うけど」
俺は適当なことを言うつもりはないからな。バーンが強くなれるかどうかは、これからのバーン次第だ。
「ねえ、アリウス。キースはバーン殿下を、わざと傷つけたのよね? もう勝敗は決まっていたのに、あのタイミングでスキルを使う理由がないもの」
ミリアも良く試合を見ているな。
「ミリアもキースと戦うときは、勝てないと解ったら下手に粘るなよ」
「キースに勝てる勝てないって話なら、私は最初から勝てるとは思っていないわよ。能力も技術も経験も、キースの方が数段上なのは、試合を見ていれば解るわ」
「だったら棄権しても良いかな」
「そうね。だけど今の自分がどこまで通用するか、試したいって気持ちもあるのよね」
ミリアは自分の力が2年生にも通用することを実感して、もっと強くなりたいと思っているんだろう。
「だったら、やれるところまでやってみろよ。どんなことがあっても、俺がミリアをフォローするからさ」
キースは解っていなかったけど。俺なら試合に乱入しなくても、キースの攻撃を止めることはできるからな。
「アリウスは、またそんなことを言って……じゃあ、頼りにさせて貰うわよ」
ミリアは文句を言いながらも、嬉しそうだ。自分の実力を試せるのは楽しいからな。
その後も3回戦は順調に進んで。俺とエリクとミリアは勝ち上がる。
ミリアと対戦したのは2年生の女子で、スピードが早くて相手を翻弄するタイプだったけど。ミリアは冷静に立ち回って、今回も完勝する。
ミリアは鍛錬の成果が現れているだけじゃなくて、試合をする度に成長している。
だからキースとの試合で、ミリアが何を掴むか。俺も楽しみだよ。
勿論、キースのことも含めて。警戒を怠るつもりはないけど。
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