第119話:SSS級のやり方
その日はイズリーの街で、しばらく情報収集を続けた後。イシュトバル王国軍が占拠している魔族の領域に向かうことにした。
「エリス、魔法を展開するから俺から離れるなよ。グレイとセレナも俺が範囲魔法を使うけど、構わないよな」
俺は『
これで他の奴は俺の魔法を看破しないと、俺たち4人を認識できない。
勿論、グレイとセレナも『認識阻害』と『透明化』を使えるけど。個々に魔法を使うと、仲間同士でも相手の魔法を看破しないと認識できないからな。
この状態なら俺たち4人はお互いを認識できる。
「まずは空から強行偵察だな。グレイとセレナはそれで問題ないだろう。エリスは悪いけど、しばらく暇になるけど付き合ってくれよ」
「ええ、アリウス。私のことは気にしなくて良いわ」
エリスがいるから、念のために『
「じゃあ、結構スピードを出すけど。危険はないから。エリス、怖かったら俺に掴まっていろよ」
俺はイズリーの街の上空に飛んで、一気に加速する。音速の数倍の速度で空を駆け抜けた。
目まぐるしく変わる眼下の景色。エリスは俺の袖を掴んで震えているけど。悲鳴は上げていない。
「エリス、我慢しなくて良いからな」
「あら、我慢なんてしてないわよ。ちょっと驚いたけど、アリウスが一緒だから怖くないわ」
エリスは俺の腕に抱きついて身を寄せる。まだ少し震えているけど、さっきよりも落ち着いた感じだ。
「やっぱり、エリス殿下とアリウスはお似合いって感じね」
セレナがニマニマ笑っている。セレナに悪気がないのは解ってるけど。正直に言うと、ちょっとウザくなって来たな。
「エリス殿下は筋が良いから、1年も鍛えればS級冒険者になれるわよ。私が鍛えて上げましょうか?」
セレナがこんなことを言うなんて、めずらしいな。エリスのことが、よほど気に入ったみたいだな。
「セレナ殿、ありがとうございます。是非お願いしたいところですが。アリウスが私を自由にしてくれた今。私は強くなること以上に、王女としてロナウディア王国の役に立ちたいんです。ですから申し訳ありませんが、強くなることに集中することはできません」
セレナに鍛えて貰うなら、それだけに集中しないと失礼だろうって。エリスは考えたんだろう。
「だったら、たまにで構わないならエリス殿下の鍛錬に付き合うわよ。殿下も強くなりたいとは思っているわよね。殿下を見ていると、応援したくなるのよ」
「セレナ殿……ありがとうございます!」
こんな風に話をしている間も。高速で魔族の領域の上空を駆け抜けながら、俺とグレイとセレナの3人『
俺の『索敵』は半径5km以上の効果範囲があって。効果範囲にいる相手の位置と大よその強さを把握することができる。グレイとセレナの『索敵』の精度も俺と同じくらいだ。
俺たちはイズリーの街から北上して。イシュトバル軍が占領した幾つかの魔族の村を通り過ぎて。勇者アベルが占領した城の上空に辿り着くと。城を中心とする地域を全方位に移動して、1時間ほど掛けて
「『索敵』の方は、これくらいで問題ないか。グレイとセレナも勇者たちの力が、だいたい解っただろう」
「まあ、ホントのところは『鑑定』してみねえと解らねえがな」
『索敵』で解るのは相手の魔力の強さだけだ。魔力が強さの全てじゃないから、グレイが言うのは当然のことだ。
「そうね。油断するつもりはないけど。私たち3人がいれば、エリス殿下を連れて勇者に会っても問題なさそうね」
何かあっても対処できると、セレナは判断したみたいだな。
「あとは
イズリーの街で聞いた話だと。アベルたちは2週間ほど前に、魔族から城を奪ったらしいけど。魔族はすでに反攻のために動いていて、魔物を引きつれた集団が森の中を城に向かって移動していた。
このまま行けば、あと数日で再び戦闘が起きるだろう。
「まあ、俺たちが対処してやる必要はねえがな。アリウス、勇者パーティーの奴に会うことになっているんだよな。とりあえず勇者に会うかどうかは、そいつの話を聞いてから判断するか」
グレイがそう言うのは、俺がアベルには会わない方が良いって言ったからだけど。アベルの『
アリサには事前に『
「勇者パーティーの奴と約束している時間までは、まだ時間があるからな。さっき通過した村の様子を確かめておくか」
俺たちはイシュトバル王国軍が占領した魔族の村まで戻った。
極彩色を使った魔族独特の建物が並ぶ村には、急造されたと思われる木造の建物が幾つも建てられていた。
この村を占領したのは、イシュトバル王国軍が侵攻を開始した直後って話だから。2ヶ月以上前になる。
村には物資を運ぶ隊商の人間とイシュトバル王国軍の兵士。そしてアベルの城に向かう途中の傭兵と冒険者が溢れている。
村を運営しているのはイシュトバルの駐留部隊と、村を通過する人間を相手に商売をするために集まって来た人たちで。かつて魔族が使っていた建物も、宿屋や商店、食堂として使用していた。
商魂たくましい人々を尻目に。元の住人だった魔族の姿は当然ない。
魔族は敵というのが一般的な認識だからな。逃げ延びた奴もいるだろうけど、大半はイシュトバル軍によって殺されたんだろう。
この世界では人間同士の国でも戦争が起きているけど。人間と魔族の争いの方が凄惨な結果になる。
人間の方が皆殺しにされるという逆のケースもあるし。どっちが悪いとか言うつもりはないけど。
今回は利権のために一方的に起こした戦争だからな。相手の魔族も血の気の多い連中だと魔王アラニスは言ったけど。戦争に巻き込まれただけの魔族もいる筈だから、俺はアベルがやったことを許すつもりはない。関係のない俺が言うのは、おこがましいけどな。
「アリウスの感覚は、間違っていないと思うわ」
気づかないうちに、俺の表情は厳しくなっていたようで。エリスが優しく声を掛けてくれた。
「私は王族だから戦争に反対できる立場じゃないし。戦争が外交手段の1つだということは理解しているわ。だけど利益のために戦争を起こすことは、人として間違っているわよ。
私はこの戦争にロナウディア王国が巻き込まれないように全力を尽くすわ」
勇者は世界を救うために魔王と戦う。そんな表向きの理由があるから、勇者と魔王の戦いそのものを否定することは難しい。特に国という立場で否定的な発言をすれば、勇者を支援する国々を敵に回すことになる。
300年前の勇者と魔王の戦いを詳しく調べれば解ることだけど。当時、魔王との戦いに反対した幾つかの国が、同じ人間の国によって滅ぼされている。
利権が絡むと、人はどこまでも残酷になれるってことだな。
だから今回は俺も、力づくで勇者アベルを黙らせるなんて真似はできない。俺自身は問題なくても、みんなを巻き込むことになる。
「まあ。
俺の呟きに、グレイとセレナがニヤリと笑う。
エリスは一瞬驚いた顔をしたけど。クスリと笑って、上目遣いに俺を見つめる。
「私は自分の立場を捨てることはしないわ。アリウスが私を自由にしてくれて、私がすべきことを教えてくれたから。だけどアリウスのためなら、私にできることは
エリスはロナウディアの王女として、国のために役に立とうとしている。
だけどリスクを避けるために世論に迎合するだけが、ロナウディアのためにできることじゃないからな。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 16歳
レベル:5,621
HP:59,186
MP:90,424
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