第260話源氏学者秋山康の妻、美代子の想い

私は、源氏学者秋山康の妻、美代子です。

今の心配は、夫の秋山康の体調。

時々、フラフラして転びそうになりますし、目が離せない状態。

夫は、「お前の方が心配」と、威張りたがりますが、とんでもありません。

夫の心配で疲れて寝込むのは、私の方なのですから。


さて、今日に限っては、そんな夫の文句など、棚上げです。

「愛しの祐君」が来るのですから。

実は、一昨日ぐらいから、ソワソワしていました。

昨日の夜は、うれしくて寝付けなくて、眠り薬を夫の薬箱から拝借して、ようやく・・・。


私にとって祐君は、天使です。

子供の頃、一歳の頃から、知っています。

とにかく可愛くて、やさしくて、笑顔が好きでした。

この家には、お母様の彰子先生と一月おきぐらい。(幼稚園に入る前は)

私は、家に入る前から、祐君を抱っこしていましたよ。

孫みたいなもの?いや、大切な孫です、私にとっては。


だから、祐君が病気をしたり怪我をすると、(そんな話を聞くと)夜は眠れなくなりました。(毎晩、彰子先生に電話して、呆れられたほど)

とにかく、健やかに、育って欲しい、そして顏を見せて欲しい、そんなことを思い続けて18年、祐君は大学生に・・・そうしたら、近くの千歳烏山に住むとのこと。

本当に神様の御恵みかしら、と祐君が来てくれる日が、待ち遠しくて。


約束の9時には、まだ早いとは思いました。

でも、朝6時には、目が開いて、身体が動きます。(いつもは、朝7時に起きて、身体も重いのですが)

恥ずかしくないように、掃除も徹底。

お香は、祐君の好きな「藤」にしました。


いろいろ動いていると夫が「大丈夫か?そんなに動いて」と声をかけて来ます。

「そんなことを言う前に、貴方も動いて」

と言いたいけれど、言えません。(昭和の妻で、明治の夫みたいなもので・・・)


でも、約束の9時が近づいて来たら、心臓が苦しいんです。(待ちきれなくて)

だから、夫と一緒に、玄関を出ました。


「あなた!」

「あそこに祐君!」

自分でも、赤くなるほどの高い声。


祐君は、私を見て、にっこり。

やさしく手を振って、歩いて来ます。(この姿は、天国に行っても、忘れません)

・・・隣には、彼女候補二人?(妬けます、私の祐君なのに・・・孫ですが)


純子さんと真由美さんと言ったかしら。

純子さんは、ふっくらと大らかに、祐君を包み込むような、いい感じ。

真由美さんは、キビキビと祐君をキチッと支えるのかな。


祐君・・・どちらを選ぶの?(まだ選んで欲しくないなあ)

「祖母」としても、悩みます。

素敵な娘さんですよ、二人とも。


途中から、祐君は小走りになりました。

そして、夫と握手。

「おはようございます!お元気そうで」


夫も最近見たことのないくらいに、笑顔が弾けました。

「いやいや、すごいねえ、活躍して!」

「今日は、僕も妻も楽しみで」


祐君は、手に持ったお土産を私に。

「おはようございます」

「これ・・・お楽しみください」(その恥じらった顏も可愛い)


「あら・・・なあに?」

「そんなに気をつかわないでも」(孫?恋人に気をつかわれて、幸せ)


祐君は、私の耳元で「お土産の中身」を教えてくれた。

驚いた。

「え?ほんとう?」(夫と私の大好物の逸品、よくデートした老舗のもの)


祐君は、そのまま私の手を握って歩き出しました。(もう・・・天にも昇ります)

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