第156話 筆

『弘法筆を択ばず』


名人・達人と呼ばれる人は、どんな道具を使っても良い成果をあげる例え。南山之寿の成果はもちろん道具に左右され、失敗した時は道具に罪をなすりつける凡人。達人ですら、たまに間違う筆の誤り。南山之寿が引き起す誤りは、日常茶飯事。謝っても許されない無情の世界。


本日は筆対決。正月、羽子板、負けたら顔に墨。そんなイメージの筆対決。先日、図書館にて見かけた明朝体という名の本。明朝体のフォントについて延々と述べる本。本当か?と疑うような本。そこから学ぶ、筆さばきの極意。明朝体で年賀状に筆を走らせる南山之寿。そんな年末は御免。


『筆』というタイトルで、筆を起こす南山之寿。くだらないエピソードしか頭に浮かばず、茶々ではなく筆を入れる時間。とりあえず、筆に任せるふてぶてしい南山之寿。


『赤ちゃんの筆』


赤ちゃんの髪の毛で作る筆で、想い出の記念品。理容店や美容院で作れる一品。若も姫も作った品。筆に必要な毛量が足らず、若は三歳頃に作成。


「お父さんは作らないの?」

「大人だからね、作らないよ」

「髪の毛無いもんね!」

「……」


何気ない、若との会話。姫の筆を作る際に蘇る、筆舌に尽くし難い感情。無邪気な小さい子供の言葉は、心を抉る刃物。


姫の筆を作るため、理容店に足を運ぶ南山之寿。椅子に一人で座れない姫。南山之寿が椅子に腰をかけ、膝に乗せる体制。眼の前でカットされている姫。大きくなったなと感涙。数年ぶりに床屋の椅子に座ることになったことにも感涙。理容店とは絶縁したはずの南山之寿が味わう、カットされている疑似体験。


禿筆を呵すとくひつをかす


ダラダラと下手な文章を書くのが南山之寿。

――禿ゆえに筆が作れない訳では無い。

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