12-3 アケミの過去
アケミの表情を見る限り、ケンシロウの推理は正しかったらしい。
「そうね……。そんなことがあったかもしれない」
彼女は歯切れは悪いものの、運命の番がいたことを肯定した。
アキトはポカンとしてアケミとケンシロウの顔を見比べた。
「え? どういうことですか? そういえば、俺はまだアケミさんの第二の性についても何も訊いてなかったですよね。運命の番がいたってことは……」
「ええ。わたしはΩの女よ」
アケミはアキトの言葉を遮り、彼の訊きたかったことを先回りして答えた。
それがわかると更にアキトはアケミに対する興味が沸いて来て質問を続けた。
「じゃあ、運命の番だったっていうαの人は今どこに?」
「それは……」
アキトの問いにアケミは答えづらそうに口ごもり、その後に答えを曖昧に誤魔化した。
「そうね。ここにいないことは確かね」
「そうなんですか……」
アキトはそれ以上ツッコむのは無粋に思われたので口を
しかし、アケミの方からポツリポツリと話を始めた。
「あなたたちも知っていると思うけど、番を失ったΩはその後の一生を薬に頼って生きていかなければならないでしょ? 今まで二人には見せていなかったけど、ほら、これだけの薬を毎日飲まなければならないのよ」
アケミはそう言って、薬の入った小瓶を数本取り出した。
「今では薬の副作用も昔よりはだいぶ楽になって、暮らしやすくなった。でも、長く薬を服用し続けて来るとね、やっぱり身体へのダメージは蓄積されているなって感じるのよ。だから、いつまで龍山荘を続けられるのかもわからなくて」
アキトはすっかり不味いことを訊いた気分になり恐縮してしまった。
「ごめんなさい。こんな話をさせてしまって……」
「いえ、いいのよ。いずれ二人には話さなきゃいけないことだったし」
アケミは縮こまってしまったアキトを見て、慌てて明るい口調を取り戻した。
「でもね、だからこそ、二人にはいつまでも幸せでいて欲しいって思ってるの」
「それはもうアキトのことだから大丈夫だと思うけど?」
ケンシロウがチラッとアキトを見やる。
「何だよ。俺のこと信用してないのか?」
「すぐそうやって怒る。信用してるよ。だって、アキトは親との縁を切ってまでここに連れて来てくれたし」
「そりゃあんな親、俺の親とも思えなかったしな。ケンシロウを傷付けるやつは親でも俺は許さん」
いちゃつき始めるアキトとケンシロウを苦笑して見ていたアケミだが、少し心配そうな表情でポツリと呟いた。
「でも、やっぱりいつかはきちんともう一度親御さんと話した方がいいわよ。きっとアキトくんがいなくなって淋しいと思うわ……」
何やらアケミにも子どもに関する辛い記憶があるような様子だった。
だが、運命の番との辛い過去を掘り下げた挙げ句、更にそれ以上のことをあれこれ詮索するのはさすがに気が引けた。
「そろそろお客さんが到着される時間だな。客室の最終チェックをしておこう。ケンシロウ、行くぞ。じゃあ、アケミさん、夕食の方はよろしくお願いします」
アキトはそう言うと、ケンシロウの手を引いて厨房を後にした。
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