8-2 恋人を捜して
ケンシロウのアパートまで駆けつけたアキトは呼び鈴を何度も鳴らし、ドアをけたたましくドンドンと叩いた。
「ケンシロウ、いるのか? 俺だ。アキトだ。いるなら早く開けてくれ! 頼む!」
アキトは部屋の中に向かってドア越しに大声で訴えた。
だが想像通り、アパートの鍵はしっかりとかけられ、中からは誰も出て来る様子がない。
ケンシロウは中にいるのだろうか。居留守を使っているのだろうか。それとも……。
最悪の想像が脳裏をかすめ、アキトは戦慄を覚えた。
その時、あまりに騒ぎ立てるアキトを迷惑に思ったのか、隣人が部屋から出て来てアキトを怒鳴りつけた。
「さっきからドンドンうるせえぞ!」
だが、怒られたことを気にしている余裕はなかった。アキトはその隣人に縋りつくようにして尋ねた。
「この部屋のやつ、何処に行ったか知りませんか?」
「はぁ? 隣の部屋の住人のことなんか知らねえよ」
その隣人は眉間に皺を寄せてそう答えたが、
「ああ、そういえばさっき買い物から帰って来た時、この部屋の住人がちょうど出て行くのを見たなぁ。行先までは知らねえけどよ」
とアキトに教えてくれた。
最悪の事態にはまだ至っていないらしい。
アキトは一瞬ほっと胸を撫で下ろした。
だが、グズグズはしていられない。
早くケンシロウの行方を探し出さなければ。
「ありがとうございます」
アキトはその隣人に頭を下げると、アパートの錆びた階段を駆け下り、ケンシロウを探して街に飛び出して行った。
ケンシロウは何処に行ったというのだろう。
ケンシロウはほぼ両親と絶縁状態でこのアパートで暮らして来た。身寄りなどないはず。友達がいるという話も訊いた試しがない。
彼が頼れる人などそもそもいるのだろうか。
そこまで考えたところで、アキトはある一人の顔が思い浮かんだ。エツコだ。
だが、エツコの店は知っていても、彼女の家は知らない。更に、連絡先も教えて貰ってはいない。
でも、それでもいい。
エツコの元にケンシロウが行っていなくとも、彼女に話をすれば何か有益な情報が得られるかもしれない。
それに、ケンシロウが失踪したとわかれば、彼女もすぐにアキトに協力してくれるだろう。
ダメ元でもいい。まずは
アキトは新宿二丁目に向かうため、駅まで走り、そこで電車に飛び乗った。
新宿に着くと、アキトは二丁目に向かって走った。
繁華街の雑踏を人にぶつかり舌打ちをされながらも、必死に二丁目を目指した。
昼間の二丁目は夜とは全く様相が異なる。
夜はαを求めるΩたちと夜遊びに興じるαたちで活気を呈している街だが、昼間は閑散としており、ごく普通の街に見える。
Monster Boyの場所は何処だっただろう?
街の印象が変わっていてバーを探し出すのに手間取り、何度も街の中をグルグル回る。
アキトはもう冷静に街の地図を見る精神的余裕も失っていた。
ただひたすらにケンシロウに会いたい。その想いだけがどんどん募っていく。
やっとのことでMonster Boyの入居するビルを見つけた時、アキトは足が棒のようになり、すっかり疲れ果てていた。
それでも最後の力を振り絞って、バーの入り口の扉を力いっぱい開け放ったのだった。
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