5-2 ひたむきに、がむしゃらに
アキトは
もっとひたむきに生きたい。がむしゃらに。
「生粋のα」として「理性的に」生きる。
そんな自分のモットーなど、どうしようもなく小さなものに思えて来る。
「生粋のα」であっても無駄に人生を過ごしている連中などいくらでもいるし、ただがむしゃらに今を生きるということを「理性的」でなければならないからと自分に言い訳することで逃げて来た。
そんな自分は、ケンシロウの前に出る資格などない。
だが、時間が経つにつれ、ケンシロウに会えないことによって、余計にケンシロウに会いたいという欲求が大きくなっていった。
あいつに触れなくてもいい。ただそばにいたい。でも……。
葛藤で胸が苦しい。
ふと気付くと、ケンシロウと最後に会ってから一週間が過ぎていた。この一週間も自分は無為に過ごしてしまった気がする。
学会誌への掲載を目指す論文は碌に進捗せず、研究書を読んでいても
こんな自分じゃだめだ。
アキトは自分を責めた。
それでも何とか研究室には毎日通っていた。
今日もいつものように家を出、大学を目指す。
物思いに耽りながら、トボトボと大学への道を歩いていると、正門を入った所で何やら二人の男が揉めているのが見えた。
なんだなんだ? 大学内で何のトラブルだ?
そう思いながらも、トラブルになど巻き込まれたくなかったアキトは、彼らを避けて大学の敷地内に入って行くことにした。
なるべく彼らと顔を合わせないようにしながら、出来るだけ距離を置いてその場を通り過ぎようとした時のことだ。
揉めている二人の声がアキトの耳に届いた。
「ねぇ、君。ニカイドウ君と番になったところで、この先どんな未来が見通せると思う?」
「……どういうこと?」
「いくら自分の人生のためにαと番になるといっても、彼を選んだのは人選ミスだったんじゃないのかな?」
アキトははっとした。
この声はオカダとケンシロウのものだ。
アキトが振り向くと、そこにはイヤらしい手つきでケンシロウの顔を撫でるオカダの姿があった。
アキトは鳥肌が立つのを覚えた。
「人選ミス? 何でそんなことあんたに言われなきゃいけないんだ」
ケンシロウがオカダに叫んだ。だが、オカダは余裕の表情を崩さない。
「君がどういう経緯でニカイドウ君と番になったのかは知らない。でも、彼はね。Ωの君なんて同じ人間だなんて思っちゃいないよ。何と言ったって、私が彼を新宿二丁目に連れて行った時、彼は皆の前でそう自分の本音を漏らしたんだからね」
アキトの胸がチクチク痛む。
やっぱり俺はケンシロウの番として相応しくないんだ……。
だが、そんなアキトに反し、ケンシロウは怯まなかった。
「だから何? オレは知ってる。以前のアキトはそういうやつだったかもしれない。でも、今のアキトは違うって」
ケンシロウ!?
アキトは驚いた。
俺が以前の俺じゃないって? 今の俺は違うって?
自分ではそんなこと俄かには信じられなかった。
だが、少なくともケンシロウはアキトのことを運命の番として、この上ない信頼を置いてくれている。
それだけは確かだ。
アキトの胸が一気に熱くなった。
それと同時にアキトは自分が情けなくなった。
ここまでケンシロウは自分に全幅の信頼を置いてくれている。
それなのに、自分はケンシロウから逃げようとした。自分の弱さに耐えきれず、こんないたいけな運命の番を放り出して。
アキトは自分に対する悔しさに唇を噛み締めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます