第31話 誤算

 その日の夜。


「さてと。今日もチントレ頑張るか」


 自室のカギをしっかり閉めると、遊馬は日課であるチントレの準備を始めた。


 雫を満足させる為、あの日から遊馬はほとんど毎日チントレに励んでいる。


 最初は闇雲に相棒を扱くだけだったが、青葉に相談したり自分でも色々調べて、より効果的な修行方法を模索している。


 遊馬は早漏である。


 雫が凄まじい名器の持ち主なだけかもしれないし、遊馬の雫に対する愛が深すぎるが故に性的に敏感になっているのかもしれない。


 遊馬だけでなく、他の男だって雫と寝たら瞬殺される可能性もある。


 だから、一概に遊馬は早漏であると言ってしまうと語弊がある。


 だが、結果だけ見れば遊馬は早漏であり、雫を満足させられずにいるのは事実だ。


 ストイックな遊馬は甘んじてそれを受け入れ、真の漢になるべく相棒を握るのである。


 問題を解決するには原因と結果の因果について考えなければいけない。


 どれだけやる気があっても、どれだけ熱意が溢れていても、結果に結びつかないチントレはただの一人チョメチョメでしかないのだ。


 それを遊馬はチントレ一週間目に悟った。


 ならば、早漏の原因とはなんだろう。


 一言でいえば、気持ちよくなりすぎるのがいけないのだ。


 これは相棒が敏感であるせいだと言い換えられる。


 つまり、早漏を改善するには相棒が鈍感になればいい。


 その答えに自力でたどり着いた時、遊馬は男として一皮剥けた気がした。


 けれど相棒は柔らかな優しい皮に包まれている。


 一方でチョメチョメの時は皮を脱ぎ捨て裸でぶつかり合う事になる。


 これは不味い。


 なので遊馬はチントレの第一歩として、しっかりと相棒の皮を剥く事を心掛けた。


 アダルトショップに行った際もギャル店員のお勧めで恥ずかしがり屋の相棒が皮に隠れる事を防止する特殊な首輪を購入した。


 それをカリ首に装着して日々生活している。


 最初は相棒が全裸になったようで落ち着かず、身じろぎするだけでパンツにこすれた相棒が悲鳴を上げたが、慣れとは恐ろしいもので今では全く平気である。


 時折皮を使ったチョメチョメを懐かしく思う事もあるが、そんな甘えた一人チョメチョメは厳禁である。


 雫とのチョメチョメに皮が介入する余地はあるだろうか? 


 断じて否!


 よってどれだけ甘美だろうと皮チョメチョメに甘んじるわけにはいかない。


 ちなみに一説によると日本人の約9割が仮性包茎だと言われている。


 なので遊馬の性剣が鞘に収まっていたとしてもなんら不思議な事ではない。


 皮を脱ぎ、剥き出しの相棒を扱く事を覚えた程度で満足する遊馬ではない。


 こんなものは序の口、準備運動のようなものだろう。


 その後も色々調べ、遊馬は相棒を鍛える為の数々の厳しい修行を編み出した。


 修行と言えば滝行である。


 常人にはホッと安らぐ風呂場でも、遊馬にとっては鍛錬の場だ。


 風呂椅子に腰かける否や精神集中、脳裏に焼き付いた10テラ相当の雫のオカズフォルダから本日のオススメをチョイスし、相棒にご起立いただく。


 そして力強く左手で扱きながら相棒の頭にザァザァ! と滝のようなシャワーを注ぐのだ。


『ぬふぅ!?』


 皮を剥いて鍛えた相棒でもこれは堪える。


 思わず失禁しそうになるような苛烈な刺激に腰が引けそうになるのを歯を食いしばって耐える。


 辛いのは相棒が敏感な証拠。


 これに耐えれば相棒のチン力は増し、雫の中に招かれても長持ちするようになるはずだ。


 そう信じて相棒を扱き、冷水と温水を交互にかける。


 気分はまるで名刀を打つ刀匠である。


 時折長風呂を家族に不審がられ、心配して様子を見に来た母親に危うく痴態がバレそうになり、堪えきれず溢れてしまった命の雫が卵白の如きたんぱく質の熱変性によって排水溝を詰まらせて「気持ちはわかるけどそういうのは自分のお部屋でやってね?」とこっそり注意されたのは恥ずかしい思い出である。


 他にもティッシュを使った研磨法を編み出したりもした。


 四枚重ねのティッシュを相棒に被せ、包み込むように扱き上げる。


 最初はスベスベの高級ティッシュから始め、徐々に目の粗い安物の再生紙ティッシュに変えていく。


 安物のゴワゴワしたティッシュは相棒を磨くにはちょうど良い鑢になった。


 鍛錬の〆もそのまま出して捨てるだけなので非常に効率的である。


 うっかり高級ティッシュを用いたブルジョア一人チョメチョメにハマりそうになったが、鋼の意思で自制した。


 あくまでもこれは修行であり鍛錬なのだ。


 文字通りの自己満オナニーになっては本末転倒である。


 そうして数々の修行を編み出した遊馬が最近実践しているのはオナホを使った腰振りスタイルである。


 遊馬は雫とのチョメチョメをより良いものにする為にチントレに励んでいる。


 チョメチョメの本懐とは手でする事にあらず。


 雫は口や手でするのも大好きなのだが、それはそれとして、遊馬の思うチョメチョメとは雫自身による相棒の熱烈抱擁である。


 ならば、手を使ったチントレは実践的ではない。


 使うべきはむしろ腰!


 実践を想定してハンズフリーで腰をヘコヘコするべきではないかと遊馬は思い至った。


『……いやもう、好きにしなよ……』


 今更なにを恥ずかしがる事があるのか、相談役の青葉は呆れた顔をするだけである。


 遊馬としてはあくまでも真面目だ。


 打倒青葉を目標に、黙示録の淫獣討つ為に必死で性剣を鍛えているのだ。


 幸い紅葉の支援によってチントレグッズを買う資金は潤沢だ。


 前置きが長くなったが、そういうわけで腰振りに便利な穴あきクッションにたっぷりローションを注いだオナホをセットし、スタンバイ状態の相棒を挿入――


 ――しそうになって遊馬はハッと腰を止めた。


「……禁欲プレイ中はチントレが出来ないじゃないか!?」


 なに言ってんだこいつと言うなかれ。


 雫が二人と付き合い始めたあの日から、遊馬にとって一人チョメチョメとは自分を慰める為の娯楽ではなく、恋人を満足させる為の崇高な愛の修行になっていたのだ。

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