第29話 これからの話
「なにがライフ二つよ! 全然話が違うじゃん!」
翌日の昼休み。
青葉に「話がある!」と連れ出され、遊馬は屋上で一緒に昼食を食べていた。
どうやら誤解があったようで、チョメチョメの回数の件で詰められている。
「一度に連続で出来るのは二回が限度だ。嘘は言ってないだろ」
遊馬だって騙すつもりはなかった。
以前雑談の流れで、男子の間で一人チョメチョメの回数を謎に競った事があった。
他の男子はみんなビックリするような回数を挙げていて、ちょっと休めば何度でも出来ると豪語していた。
だからそれが普通だと思っていたのだ。
この前さり気なく友人の一人に確認したら、冗談に決まってるだろと笑われた。
遊馬も被害者である。
「一時間おきに復活するなんて聞いてないし! 無茶苦茶絶倫じゃん! チートチン――ふぐ!?」
Xワードが飛び出しそうになり、遊馬は咄嗟に青葉の口を塞いだ。
「落ち着け。学校だぞ」
わざわざ屋上に出て弁当を食べようなんて道楽者の生徒は多くない。
とはいえ、全くの無人というわけでもない。
寂れているが、人の目はある。
ただでさえ最近、青葉と浮気しているんじゃないかなんて妙な噂を立てられている。
誤解を生むような発言は控えて貰いたい。
「――っ!?」
無理やり口を塞がれた青葉が、真っ赤になってビクビクと震えた。
怒っていた肩から急に力が抜けて、潤んだ目がとろりと蕩ける。
「……おい伏見。大丈夫か?」
「――っ!? な、なんでもないから!?」
ハッとした青葉に肩パンされる。
「いや、明らかにヤバい顔だったんだが」
ムッとして、遊馬は指摘した。
青葉はますます赤くなり、拳を握ると涙目になってわなわなと震えた。
「あんたのせいでしょ!?」
そして、ボカボカと肩パンのラッシュを繰り出してくる。
なぜだ?
さっぱりわからない遊馬である。
†
「……って事があったのよ」
結局屋上では話せないという事になり、例によって放課後に二人でキングにやってきた。
それで雫と青葉のSMプレイについて聞かされた。
「……まぁ、人の趣味はそれぞれだ。伏見がドMに目覚めたからと言って俺は何も言わないが……。というか、別に報告してくれなくてもいいんだが。いや、待てよ。 まさか伏見、俺に報告する事でセルフ羞恥プレイを楽しんでるんじゃないだろうな?」
「なわけないでしょ!?」
声を裏返らせた伏見が渾身の肩パンを繰り出してくる。
その割にはムラついた顔で報告していたが。
「……そんなわけない……。あたしはSだし……。あれはたまたま空気に飲まれただけ……。まだ引き返せるし……」
そんな事をブツブツ言われたら余計に説得力がない。
遊馬は青葉の気持ちが分かる気がした。
ベッドの上では雫の方が何枚も上手だ。
耳をはむはむ、雄っぱい揉み揉み、お尻ほじほじ、そんな所を!? という場所を攻められる。
それだけじゃない。
背中をすすっと指で撫でたり、お尻をバチンバチン叩いたり、首を絞めたり、アフターケアがなければトラウマになるような暴言で罵倒されたりもする。
そんなのはくすぐったかったり痛かったり苦しかったり悲しいだけで嫌なはずなのに、なぜだか相棒は硬くなる。
遊馬の下腹部もズドンと重くなって、グラグラと命の海が煮え立つような興奮を覚えてしまう。
つまり気持ち良いのだ。
そんな馬鹿な!? そんなの全然普通じゃない! どう考えても変態だ!?
最初はそんな風に戸惑っていた。
いや、今でも完全に受け入れたわけではない。
だが、受け入れつつあった。
青葉のチョメチョメ講習や紅葉との猥談の影響もあるかもしれない。
チョメチョメとは遊馬が思っていたよりもずっと自由なものなのだ。
耳をはむはむされて気持ちよくなってなにが悪い?
雄っぱいをギュっと揉まれて感じたら犯罪か?
お尻ほじほじはまだちょっと抵抗がある。
でも、それで他人に迷惑をかけるわけではない。
変態だっていいじゃないか。
そんな事言ったら、雫が一番の変態だ。
変態を否定する事は、大好きな彼女を否定する事になる。
ならば俺は変態でいい。
まだはっきりと言い切れるわけではないが、遊馬はそんな風に思いつつあった。
そして青葉はチョメチョメの師匠であり性のライバルで友達だ。
なにやら落ち込んでいるようなので励ましてやろう。
そう思い、遊馬はポンと肩を叩いた。
「変態だっていいじゃないか。人間だもの」
「あたしは変態じゃないから!?」
涙目で睨み返され、パシンと手を弾かれる。
「いや、彼氏持ちの雫と寝てる時点で十分変態だと思うが」
まぁ、同性愛を変態と一緒にするのは違うかもしれないが。
そもそも青葉が同性愛者なのか単に雫と寝たいだけなのか、判断に困る所である。
遊馬としてはどっちでもいい。
変態が悪い事でないのなら、気にする必要はないだろう。
人によって愛の形は違うというだけの話だ。
「そ、そうだけど……それとこれとは話が違うじゃん!?」
「同じだろ。俺達は全員どうしようもない変態だ。認めたら楽になるぞ?」
「絶対いや!? ていうか、滝沢も開発されちゃってるじゃん!? ダメだってば! このままじゃ雫のやりたい放題になっちゃうよ!?」
「まぁそうだが。冷静に考えると最初からずっと雫のヤリたり放題だった気もするぞ」
「それが良くないんだってば! ていう話をしようと思ったのに滝沢が変な事言うから脱線したでしょ!?」
肩パンが飛んでくる。
「とにかく、このままじゃだめって事! あたし達が甘やかすから雫はどんどんエッチになって、あたし達までエッチになっちゃってるじゃん!」
「まぁ、そうだが。俺も伏見もなんだかんだ楽しんでるだろ?」
性器を出し入れするだけがチョメチョメではない。
勿論それも大事だが、愛撫や変態プレイだって同じくらい良い物だ。
お互いの愛を確かめる事が目的なら、手段は問題ではないのかもしれない。
そんな風に思いつつある。
あぁ、チョメチョメとはなんと奥深いのだろう。
「そうだけど!? ……考えてみてよ! このまま雫が成長したら、あたし達の手に負えないドスケベモンスターになっちゃうかもしれないでしょ!?」
「というか、今でも既にそんな感じだがな」
結局この前のホテルも、主導権を握れたのは最初だけで、その後はめちゃくちゃにされてしまった。
恥ずかしいし屈辱的だが、それもまた気持ち良い。
今度こそは! という気持ちになれると思えば、二人の愛を彩るスパイスのようなものかもしれない。
「笑いごとじゃないってば!? あたし達で雫を満足させられなくなったらどうする気!? もう一人誰か連れて来るの!?」
「……それは遠慮したいな」
別に遊馬はNTR趣味があるわけではない。
……いや、最近は青葉と雫が寝ている話を聞くとムラムラしてくるのでそうではないのかもしれないが。
だとしても、相手が青葉だから許せているのだと思う。
これが男だったら完全にアウトだ。
生理的にも精神的にも受け付けられない。
想像するだけでムラムラではなくてムカムカする。
それで遊馬はちょっとホッとした。
自分にもまだ、その程度の倫理観は残っている。
「でしょ!? このままのノリで夏休みに突入したら雫のドスケベがハイパーインフレーションで絶対ヤバい事になるから! 甘やかすだけじゃなくて我慢する事も覚えさせた方がいいって! 雫の為にも、あたし達が協力して禁欲させた方がいいって話!」
「……まったくもってその通りだな」
遊馬は目から避妊具が落ちた気分だ。
エロエロな生活にハマりすぎて頭がどうかしていた。
変態は悪くない。
多様性のあるチョメチョメは人生に彩を与える。
だが、節度を守ることも大事だろう。
今の自分達は完全に性欲に振り回されている。
「けどどうする? 性欲モンスターの雫だぞ? いきなり禁欲なんて言っても納得してくれるかどうか……」
「大丈夫。あたしに秘策があるから。滝沢は黙って協力してくれればいいの!」
頼もしいと思う反面。
そう上手くいくだろうかと不安になる遊馬だった。
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