第43話 機密会議

 ラージュリアの王宮の一室で、三人が集まっている。

 意識が戻っていないシオンについて対応を決めるため、クラリス女王がジョルディ総督とディーナを呼び出したためだ。



「シオンさんの容体は?」



 意識が戻っていないシオンについて、クラリス女王がジョルディ総督に訊ねた。



「容体は安定しています」


「そうですか。油断はできませんが、とりあえず先日の出撃で大事がなかったことはよかったです。

 クィーンのこともありますので、シオンさんを失うわけにはいきませんから。

 今後もシオンさんについては細心の注意を払ってください」


「かしこまりました」


「本日集まっていただいたのはシオンさんの今後についてです。

 ご存知の通り先日のSランクソルジャーの派遣を取り付けるため、シオンさんの存在を各国に公にすることになりました。

 各国の代表は今もエメリックに留まり、私は三日後にシオンさんについて話し合わねばなりません。

 そのため、私達の今後の方針を決めたいと思います」



 シオンがSSランクのソルジャーだということは、すでに世界に知られている。

 だが現状ソルジャーランクと、それに見合う実力が示されただけだ。

 ラージュリア国内もそうであるが、ただ一人のSSランクソルジャーに対する関心は高い。

 各国のメディアが連日SSランクバトルフィールドについての報道をしているのが現状。

 だがシオンは現在意識が戻っていない状態であり、これに対する対応を決めなければいけなかった。



「会見は開かねばならぬでしょう」


「というと?」


「シオンは意識がいつ戻るかはわかりません。これだけシオンに対する関心が高いですから、このまま放っておくことは要らぬ疑念を抱かせることになるかと。

 今後のアスラの襲撃次第では、今まで低ランクに出撃していたシオンが出ないことが問題にならないとも限りません」


「なるほど。ディーナさん、あなたの意見も聞かせてください」


「はっ。今後必要になる対応は、シオン様が現在は出撃できないということ。

 そして意識が戻ったあとの出撃に関する部分だと考えます。

 現状シオン様が出撃できない理由は我々と、軍の少数の者だけが知ることです。

 今後シオン様が出撃するランク帯についてのこともありますので、ある程度の情報の開示は必要かと考えます」



 ディーナが言ったことは二人も考えていたようで、特に驚いた様子はなかった。

 だがその内容が告げられると、二人の反応は少し変わる。



「ディーナ、お前はどこまで開示していいと考えているんだ?」


「下手に隠しても不自然ですから、現在シオン様の意識が戻っていないことは公表してしまうのが得策と考えます」


「それを公表してしまうのですか?」


「今後シオン様に高ランク帯での出撃を期待する人々は多いはずです。

 他国のこともそうですが、特にSランクフィールドに関してはなおさらだと思います。

 あれだけの規模の魔法ですので、魔力が枯渇して意識が戻らないと言っても不審に思う者は少ないでしょう。

 これを公表することで、今後の戦闘で魔法使用を抑える理由付けが可能です。

 現在意識が戻っていないというのは、仮にクィーンが襲撃してきたとしても出撃できないということもわかります。

 今までと違いもはやカモフラージュはできませんので、このくらい情報は開示してしまう方がよろしいかと」



 確かにクィーンが現れた場合、確実にシオンの派遣要請は届くだろう。

 だが現状それに応えることはできないため、それについての対応も必要なことであった。



「ではシオンさんのことは、すべて公表してしまうということですか?」


「いえ、魔力の回復量が減ってしまう部分だけは、今まで通り機密にするのがよろしいかと。

 この部分を公表してしまうと、今後シオン様の出撃に対して過敏に反応する者が出てきてもおかしくありません。

 ですが出撃できなくなれば戦闘の感も鈍ってしまうでしょうから、これからもシオン様が出撃できるように対応しなければなりません。

 そのために回復量が減って意識が戻らない部分を、魔力枯渇という部分だけを原因とするのです。

 これによって今後の出撃で魔法を制限して戦闘を行う建前もできますので」


「なるほど。それであれば他国への派遣に対する答えにもなりそうですね。

 総督はどう思いますか?」


「シオンの報道はラージュリアだけではありませんので、ディーナの言う通り意識が戻っていないことは開示してしまう方がいいかもしれませんね」



 クラリス女王は用意されていた紅茶を一口飲み、少し思案した。

 ディーナの案は今後のことにも繋がっており、これしかないという案であった。



「わかりました。ディーナさんの案でいきましょう。

 シオンさんの各国への派遣については受けない方針とします」


「国同士の協力体制ですが、拒否しきれるのですか?」



 ソルジャーの派遣については条約が結ばれているため、少しジョルディ総督は驚いた様子で訊き返していた。



「Sランクとしてなら他のソルジャーでいいですし、SSランクとしてということならディーナさんの案で押し通せるでしょう。

 アスラとの戦いをソルジャーの方々に任せているのです。政治は私がやるべきことですからなんとかします。

 それにクィーンのこともありますから、シオンさんを無闇に消耗させるわけにはいきません。

 今後仮に派遣することがあった場合でも、負担の大きい魔法の使用は禁止という形にします」

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