第18話 緊急通信
異様に大きくアンバランスな頭をふらつかせ、距離を詰めるソルジャーに向かって長い腕を振り上げるFランクのアスラ。
ティフたちのあとに続いているイゴールにシオンはスピードを合わせる。
ティフは振り下ろされたアスラの腕を、回避間際に斬り落とした。
それでもアスラは捕食しようとティフに向かって頭を突き出してくる。
だがティフは斬った直後からさらに回避行動をしっかり取り、無防備になったアスラを続く二人が仕留めに行く。
一人は頭を真っ二つにし、もう一人はもう片方の腕を斬り落としていた。
「す、すげぇ」
(さすがに動きが慣れてる)
三人であっさりと倒したのを見て、イゴールは目を大きくして呟く。
シオンから見てもティフたちの動きは実戦経験を感じさせる動きであり、集団戦の連携も上手く取れている。
軍が一番避けたいソルジャーの損害を抑える動きであり、すでにEランクというのも頷けるものであった。
「――――」
左側面から弾き飛ばされてきたアスラを、シオンは一振りで頭を斬り落とす。
「とりあえず戦力にはなるみたいだな」
口はともかく、ティフの班は実力だけ見れば正規のソルジャーたちと比べても遜色はない。
それはイゴールも感じていたようで、落ち着いて動きが良くなる。
「アレを殺るぞ」
ティフがターゲットに告げたのは、二〇メートルほど先で他の班に突っ込もうとしているアスラ。
学生の班であるため、意識が目の前のアスラだけに向かってしまい見えていないようだった。
だがこのままではシオンたちは追う形のため間に合いそうもない。
(――踏み込むか)
シオンがスピードを上げるかと考えた瞬間、ティフが炎の魔法を発現した。
速さを重視して魔力は大して練っていないようで、アスラに直撃してもダメージはなく霧散する。
だがその魔法はアスラの意識をティフたちへと向けることになり、それが距離を詰める時間を稼いだ。
「ッチ、浅いな」
ティフの
だが止まっては捕食されてしまうため、ティフはそのまま走り抜け距離を取る。
アスラはティフのすぐ後ろに続いていたシオンとイゴールに向かってきた。
さらに後ろから続いていた二人がスピード重視の魔法で援護をし、アスラの体勢が棒立ちになる。
シオンはここでアスラの頭を落としにはいかず、片腕を斬り落とした。
「仕留めろ!」
「ウオォオオーー」
アスラと対峙し、
これができなければ、どれだけ強いソルジャーであっても戦うことはできない。
「思いっきり振り抜けっ!」
アスラが捕食しにくるところをイゴールは上段から
イゴールの
少々力技にも見えるが、
「よし、これで初出撃のヤツも頭数に数えられそうだな。俺たちはこの辺で抜けてくるアスラを叩くぞ」
(現役のソルジャーだけあって動きもいいし、班としての視野もしっかり持ってる)
前衛はアスラを殲滅するために動くが、すべての前衛がアスラを抜くほど深くまで斬り込むことはない。
これをしてしまうと前衛の部隊をアスラが抜けてしまうため、前衛で後ろに配備された部隊はある程度のところで留まる。
これはソルジャーたちが身体強化によってある程度の距離間がある方が戦いやすいというのも大きかった。
ディーヴァの司令室では、ディーナがバトルフィールドの状況を静かにチェックしていた。
いつもであればもう少し気楽なところであっただろう。
というのも、他の者は知らないが今日のFランクバトルフィールドはいつものバトルフィールドではなかったからだ。
「損害状況は?」
「――――三.一%です」
各国の軍は、バトルフィールドの被害を一〇%以下に抑えるのが目標となっている。
仮に長期で戦線離脱するソルジャーが増えてしまえば、残りのソルジャーがその分出撃することになる。
これが繰り返されるとソルジャーは疲弊し、高ランクのソルジャーを低ランクのバトルフィールドに出撃させなければならないなんていうことも可能性としては出てくる。
SランクやAランクのソルジャーに関しては各国でギリギリという状態であり、場合によっては派遣しあっているのが現状だ。
特にSランクソルジャーに関しては一国に二人しかいないところが多数。
Sランクのアスラを相手にする場合、三人のSランクソルジャーで安全を確保しているため、一人でも欠けることは国どころか人類としての損害と言える状況だった。
それだけにバトルフィールドでの被害をどれだけ抑えるかというのは、各国にとってかなり重要度が高い。
特に実戦経験が少ないソルジャーの出撃が多いFランクバトルフィールドは、最も被害が高いランク帯であった。
そんななかラージュリアのF、Eランクバトルフィールドの被害は、ここ数年平均で五%を切っている。
その理由が今日のバトルフィールドで異なるところでもある。
いつもは単独で動いていたシオンが、今日は右翼の班に固定されてしまっていた。
全体の状況を見てバランスを取っていたシオンが今日はいないため、ディーナはDランクのソルジャーを予定されていた倍の人数を配置している。
その
「司令! 緊急チャンネルでクラリオンのディーヴァから通信です」
「緊急通信――メインモニターに繋げ」
艦長である司令とディーナは訝しみながら、メインモニターに視線を向ける。
『応答に感謝する。こちらはクラリオン特殊国防軍ディーヴァ艦長、ライアン・ベクター』
「ラージュリアのディーヴァ艦長、マルキン・レイヤーだ」
いったいなんの通信なのかとディーナたちが訝しんでいると、ライアンが頭を下げて謝罪をしてきた。
『誠に申し訳ない! こちらのバトルフィールドで右翼が瓦解し、アスラを取り逃がした』
「な! 追撃はしているのか⁉ 条約でバトルフィールドのアスラはすべて殲滅することになっているだろう!」
『すでに後衛も右翼の立て直しに投入している状況であり、追撃は困難だった』
クラリオンはラージュリアの隣国である。そしてこの通信の意味をディーナは危惧した。
嫌な可能性が脳裏を過り、ディーナの鼓動がうるさく鳴り始める。
ディーナは他国の艦長ということなど忘れたかのようにモニターに詰め寄っていた。
「そちらのランクは? バトルフィールドランクはどこです!」
『…………Dランクフィールドだ』
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