18:役勃たず


 月曜の一コマから英語なんて最悪だ。これまではそう思っていた。

 正直、英語と言わず外国語は苦手だ。高校入試だって地獄だと思ったくらいだから、入学後急にレベルが上がれば周りに着いていくのがやっとだった。

 最前列に帰国子女が二人もいて、そいつらがどんな質問でも答えていくものだから先生がそれをウチのクラスの標準だと思っている節がある。それ、俺にとっては大迷惑だ。


 そう思っていた。






 今日は違う。全てが違う。

 授業が完璧に理解できるし、発音の微妙な違いも理解できる。しかもそれらがキチンと記憶に残っている。

 二コマの地理もそうだし、三コマの生物もそうだ。どれもこれもハッキリ自分の記憶に残っているのがわかる。しかも頭の中で体系づけができている。俺、どうしたのだろう。

 エルフ化のせいだと気が付いたのは昼休みになってからだ。


 学食で雛子先輩と馨、俺の三人で食べていて馨も同じだと言っていた。ぶっちゃけ馨の成績は俺より上だが抜群と言うほどではない。先日の中間テストも中の上くらいの成績だったはずだ。


「授業がわかりすぎて怖いのですけど」


 馨の発言はもっともで、俺も同意した。エルフ化の効果がこんな所まであるとは思わなかった。


「ふむ、してみるとエルフは美形で、長命で、運動能力も学習能力も人間よりも優れていると言うことか。まあ、長命は今のところ検証のしようがないけどね」

「現状だと最強の生物と言うことになるのかな」

「だな」


 ぶっちゃけ、これで魔法が使えたらエルフ最強過ぎるだろ。

 だったらエルフが人類を駆逐できているはずなのに、どうして。


「でも今の世界にはエルフがいませんよね。その理由がわかりません」

「そこだよ。それこそ鬼城院君の存在がキーになると思ってるんだ」

「どういうことですか」

「コホン、ちょっと小さな声で言うよ。君、今のままでセ…セックスできると思っているかい」


 あまり赤い顔をしないで欲しい。帰って周りから警戒されると思うのは間違いではないだろう。


「それは…」


 出来ると言いたいが出来るわけがない。臨戦態勢になったら気絶するなんて不能と一緒だ。


「だろ、だったら結論は一つだ。同族で子孫を残せないから人間と交わるしかなかった。男のエルフがどういう処遇を受けたかはわからないが、とにかく生殖に関しては役勃たずだった」


 役勃たずとはちょっとヤバい言葉じゃないですか。


「たぶん人間の男の方が遺伝的に優勢要素が多かったのだろう。だから人の血が濃くなってエルフの特徴が失われていった。これはこれで理屈が通ると思うが、どうだろう」


 理屈はわかる。ただ、どうしても男のエルフをどう扱ったのかが気になる。

 男の生殖器官は赤ん坊の頃からきちんと《硬化する》から、子供の頃から気絶ばかりしている気がする。それでは健康に生き続けるのは難しいだろう。ならば最初から──そんなことを思っているうちに午後の授業開始の予鈴が鳴った。


 午後は体育だ。

 自分の身体を最も晒す時だから相応の対策はしてきてあるのだが、更衣室へ向かう足取りはもの凄く重いものがあった。


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